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伝統技術と天然素材 自社の資産を生かし、都市生活になじむ商品開発に挑む――中井産業

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自社ブランドを持つことの意味

次に尾﨑氏が考えたのは、その障子を広く伝えていくためのブランディングだ。「おそらく、ここが最も重要」とは思ったものの、ブランディングのノウハウやコミュニケーションのセンスは自社内にはない。

尾﨑氏はブランド開発の本やインターネットで情報収集を始める。そして出会ったのが、エイトブランディングデザイン代表・西澤明洋氏の著書だった。

「 職人の優れた技をアピールできる体制をつくるチャンスは、資金力を考えると、一度しかないだろう。本気で勝負をかけるのだから、納得いく人に頼みたい」と考えていた尾﨑氏は、著書や過去の仕事を見て西澤氏に依頼したいという思いを強めていった。

実現のためには、尾﨑氏を社長として招き入れたオーナーの承認を得る必要がある。プロのクリエイターにブランディングを依頼するのにどれくらい予算が必要なのか見当もつかなかった。それ以上に問題だったのは、コミュニケーションやブランディングにコストをかけるという発想が、この業界に皆無なことだった。

橋や建築などの構造体をヒントにしたデザイン。強度と美
しさを兼ね備える。

だが、「タイミングが良かった」と尾﨑氏。ちょうどその時、和歌山県がブランド強化支援事業を公募しており、その補助金を受けることができたのだ。

またオーナーである前社長は、「職人親方という一般的な建具屋の社長像とは一線を画す人物」で、パートの女性でも建具を組み立てることができる仕組みを開発したり、プログラマーを雇って建具専用のプログラムを開発させたりと、新しいことにどんどん挑んでいく人だった。

決裁は下り、エイトブランディングデザインがブランド開発に参加、いよいよ中井産業が強みとする「天然木」と「職人の技」によって生み出されるブランド「KITOTE」の立ち上げにこぎつけた。

「ブランドを立ち上げる前も後も、当社の工場で行っていることは同じ天然木を使った障子の製造ですが、KITOTEというブランドや商品ラインアップができたことで、ようやくメーカーとして建築士や住宅メーカーに提案ができるようになりました」と尾﨑氏。今後は積極的に提案営業を行っていこうと意気込む。

同時に、従来どおり建具店との関係も継続していく。

柱となる既存事業に加えて、営業のスキルを持たない建具店の代わりに中井産業が住宅メーカーなどに営業活動を行い、そこからエンドユーザーにKITOTEを薦めてもらうことで受注を増やし、建具店に施工を行ってもらうビジネスフローを構築したいと考えている。

障子でつくる新しい生活空間

KITOTEのブランドサイトでは天然木から障子をつくる工程をブランドムービーで紹介している。「職人は情熱を持って製造にあたっており、品質には自信があります。

KITOTEのターゲットは、そうしたことに価値を感じてくれる方々です」と尾﨑氏。商品は、エイトブランディングデザインと中井産業との共同開発。

アイデアからデザイン、ラインナップ戦略をエイトブランディングデザインが手掛け、そのつくり方の検証を中井産業が担った。

桟さん、框かまち、縦横の組子が全て同じ寸法というその様式は現代の空間に調和するだろうというデザイナーの提案から、部材・製法・規格を様々な視点から再検討し、特許レベルまで踏み込んだ新しい障子と建具が完成した。

馴染みのあるシンプルなデザインから、橋や建築の構造体をヒントに桟を組み立てた、強度と美しさを兼ね備えた珍しいデザインの障子まで、バラエティに富んだ新しい障子の世界を創出している。

中井産業が強みとする「天然木」と「職人の技」によって生み出されるKITOTEの建具。現代の生活空間にも調和するデザインで、需要創出を目指す。

「これまでは、和室がなければ障子の出番はありませんでした。しかし今後は、KITOTEを見たユーザーに、『こんな障子があるなら、和室をつくりたいね』とか、『洋室にも使ってみたいね』と思ってもらいたい。KITOTEには、そう思ってもらえるようなデザイン性があると自負しています」と尾﨑氏。

「KITOTEには、空間づくりの起点となれる力がある」と自信をのぞかせる。実際、展示会への出展後、ホテルや飲食店、商業施設など、ハイセンスでスタイリッシュな空間を求める業態から高い評価を得て、多くの引き合いがあったという。

一方、「一般のユーザーは障子に関心がない、“眼中にない”のが実情」と話す。「そう言えば、昔こんなのがあったね」と言われるほど、障子はすっかり過去のものになり果てており、ともすると障子は空間づくりの際の選択肢にもあがらない状況だ。

「障子の素晴らしさを啓蒙するところから始める必要があるでしょうね。住宅メーカーには品質や性能がいいという切り口で訴求しますが、エンドユーザーにはデザインのカッコ良さやおしゃれといった切り口が大事だと思っています」。

「住宅メーカーや建築士に提案できる自社商品がようやくできた。これからは、どんどん積極的に営業して、建具の需要拡大を図っていきたい」と意気込む尾﨑社長。

尾﨑氏は以前、障子のデザインの変遷を調べていた時に、近年の市場では、障子カテゴリーの実に90%は4種類のデザインで占められていると知り愕然としたという。

「たったの4種類ですよ!建具職人の技は多様で、日本家屋が主流だったころは、職人オリジナルのデザインもたくさんありました。建具職人はユーザーの希望を聞き、それを形にできる技を持っているんです」。

工務店や建築士と直接コンタクトを取ることで、障子にそうした幅広い選択肢があることを知ってもらい、相談を受ける体制を確立したいと考えている。「そうすれば、次第に、エンドユーザーのニーズも出てくるはずです」と話す尾﨑氏は、外国からの観光客が訪れるようなホテルや旅館などにもKITOTEを積極的に売り込みたいと考えている。

建具業界の復活を目的に始まった尾﨑氏の取り組みは、すでに海外への訴求も視野に入るまでに広がっている。

尾﨑義明(中井産業 代表取締役社長)
1971年生まれ。龍谷大学卒業後、トステム入社。2004年中井産業入社。関西圏でのルート営業、新規開拓で取引先を拡大。2011年に代表取締役社長に就任(3代目)。2014年に下請け町工場から建具メーカーへの転換を目指し「KITOTE」ブランドを立ち上げる。


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