【前回のコラム】「日本で「売り方のイノベーション」を実施するための組織と商談の工夫とは?」はこちら
ブランド「A 」の売上を3倍に伸ばすには?
今回は、いままで説明してきた「売り方のイノベーション」をおさらいしたうえで、今後どのようになっていくかを考えてみます。まずは、売り方のイノベーションのコンセプトや方法論をまとめてみましょう。
上の図は、小売店でブランド「A 」の売上を3倍に伸ばすことを、簡単に図解したものです。「売上を伸ばしたい」ということは、販売店の各店舗でより売れるようになっていくことに他なりません。仮に「3倍に伸ばそう」と号令がかかれば、全ての販売店において売上が3倍に延びれば達成されるわけです。
メーカーの視点から見れば、値引きの原資となる販促費を投じて競合製品より店頭価格を下げたり、エンドや定番棚割の有利なポジションを獲得したりすることで競合製品に勝ち、売上を3倍にできれば目標は達成します。
このやり方で、通常週販5個売れていたカテゴリーが6個、7個と伸びるならば、小売店としても販売結果に満足するでしょう。しかしカテゴリーの週販が5個のままで、ブランド「A 」だけが売上3倍となったとしたら、小売店はメリットを感じるでしょうか?
こうした単なる棚取り競争は、おそらくほかのメーカーもほかの店舗で行っているはずです。もしかすると、同じ期間中に別の店舗で競合ブランド「B 」がプロモーションを行い、ブランド「B」が3倍売れているかもしれません。また、翌週にはこの店舗でブランド「C」のプロモーションが入り、瞬く間にブランド「A」の売上が激減するかもしれません。
つまり、こうしたやり方ではカテゴリー全体の売上があがらないため、小売店の満足度が高くないばかりか、競合ブランドとの不毛な競争に陥ることとなり、売上の向上が長続きしません。
売り方のイノベーションの根幹は、メーカーと小売業がWIN-WINの関係で結ばれるためには、「何をすべきか」を出発点とします。
こちらの図は、小売店でブランド「A 」の売上を3倍に伸ばす、もう一つの考え方を図解したものです。ブランド「A」がリードして、カテゴリー全体の需要を喚起し、ショッパーに今までの2倍買ってもらうというものです。ブランド「A」は、競合商品に置き換わってならべてもらうのではなく、カテゴリーの伸長をリードする中で、カテゴリーにおける信頼を獲得し、競合製品より1つ多く買ってもらい、カテゴリー全体が2倍に伸びる中で、ブランドの売上を3倍に伸ばすことを狙います。
カテゴリー全体を伸ばすために必要なのが、下記の3点です。
- クロージャーレート(全来店客のうちのカテゴリー購入客のパーセンテージ)を上げる。
- ストアトラフィック(来店客数自体や購入頻度)を上げる。
- バスケットサイズ(一人当たりの購入個数)を上げる。
この3点のうち、その販売店の抱えている課題をブランド「A」によって改善することで、カテゴリー全体を伸長し、かつその過程でブランド「A」をひとつでも多く買ってもらう。これが「売り方のイノベーション」につながる基本的な考えです。
カテゴリー全体の需要喚起には、「新しい利益・売上をもたらす可能性」を発見することが必要で、そのためにはショッパーのディマンド(欲求)とインサイト(欲求を満たすにあたっての考察)に共感・理解することが不可欠です。
私たちは、「新しい利益・売上をもたらす可能性」をショッパーに対する「購買の新しい選択肢」として提示することで、潜在需要を喚起し購買行動を操作するのです。
「新しい売上を作る「売り方のイノベーション」~買物客の購買行動を、売り場で操作する~」バックナンバー
- 日本で「売り方のイノベーション」を実施するための組織と商談の工夫とは?(2015/4/09)
- メーカーと小売業がWin-Winの関係で売り方のイノベーションに取り組むには?(2015/3/26)
- 米国成功事例② P&GがTargetをビューティケアカテゴリーの「絶対行きたいお店」に変革した売り方のイノベーション(2015/3/13)
- 米国成功事例① スーパーで売れた「スターバックスコーヒー」とは?カテゴリーも活性化させた売り方のイノベーション(2015/2/26)
- デート成功の秘訣は、ショッパーのディマンドとインサイトが出発点。(2015/2/12)
- メーカーと小売がWIN—WINとなる「ショッパー・ベース・デザイン」はこうして生まれた(2015/1/29)
- 買い物客の購買行動を操作するとは?米国 乾電池売り場の劇的改善(2015/1/15)
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