■3.上記の組み合わせでノンクレジット手法やステマが普通の広告手法だと勘違いしている人が意外に増えている
広告を広告と明記しないノンクレジット手法は、仮に違法ではないとしても、メディアとして恥ずべき手法であり、あくまでアングラで知る人ぞ知る業界関係者向けの裏メニューとして流通しており、指摘も告発も難しい、というのが私のこれまでの正直な印象でした。ただ、長いこと黒に近いはずのグレーゾーンがグレーのまま放置されると、業界関係者の間でもグレーが黒なのか白なのか分からなくなってくるケースがあるようです。
前述のCINRAの杉浦氏の発言もその一つの現象と言えますが、さらに象徴的なのがやまもと氏の記事の冒頭で使われている出版社のメディアシートのキャプチャ画像でしょう。
これは紙の雑誌も出している出版社のメディアシートで、PDFでオープンに公開されていることを私も確認しましたが、記事の公開時点では「ノンクレジットでのタイアップも多数実績あり」と明確に明記されてしまっていました。
企業向けの資料とはいえ、PDFで読者でも誰でもダウンロードできるところに、自分達はノンクレジットでのタイアップもやりますよ、とカミングアウトしてしまっている状態になっていたわけで、ノンクレジット手法があまりに普通になってしまった関係で、古くからの業界関係者ですら感覚が麻痺してしまっているというのが明確に見えてしまう事例といえます。
本来は1で書いたように「関係者が黙っていれば外部からは問題が発見しづらい」構造だったはずが、あまりに普通になってしまったので、媒体資料に明記してしまうケースが出てきてしまったというのは実に皮肉な結果と言えます。ひょっとしたら該当の出版社さんはそういう意味で注記を記載していたのでは無いのかもしれませんが、それぐらい「ノンクレジットでのタイアップ」というのが、一部の業界において普通になってしまっていると邪推されてしまうことになるわけです。
歴史のあるはずの出版社でもこんなケースがあるわけですから、新興のウェブメディアが「ネイティブアド」という新しいキーワードを隠れ蓑に、ノンクレジットでの広告手法を自社の主力商品にしてしまうケースが増えてしまうのは想像に難くありません。
こうした問題が複数組み合わさった結果、ネットユーザーの多くが、記事広告を中心としたメディアの広告手法だけでなく、普通の記事に対しても疑いの目を向けるようになり、企業を褒めている全ての記事がステマではないかと疑わなければならなくなってしまっている現状は、ユーザーにとってもメディアにとっても非常に不幸な状態であると言えます。
このたびJIAAによるネイティブアドのガイドラインが整備され、ノンクレジット手法に対する問題提起により上場企業が謝罪するという前例が生まれたわけで、明確にノンクレジット手法におけるリスクが明確になりました。そういう意味で、今回の騒動は、上記の3つの構造問題が解消され、ステマやノンクレジット手法を業界から根絶する大きなチャンスともいえます。
そもそも、ノンクレジット手法が発覚したり、違法性を問われる結果になった場合、真っ先に矛先が向くのは広告主です。JIAAのガイドラインが明確に整備された以上、良識のある広告主にとっては、そんなリスクのあるノンクレジット手法という提案をされること自体が侮辱に近い行為になる、という構造になるのは明白でしょう。
実際には、ステマやノンクレジット手法に手を染めて、それがバレてしまって自分達のファンにがっかりされるようなリスクをわざわざ負わなくても、正々堂々と広告を広告と宣言した方がファンが応援してくれる、本当の意味でのネイティブアド事例も多数生まれてきています。
次回以降のコラムでは、本筋に戻ってそんなアンバサダー視点でも喜んで参加したくなる広告施策をご紹介していきたいと思います。
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