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IBM、Ogilvy&Mather ビジネスの変革に合わせたブランド・コミュニケーション

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ネクストステージに向けて求めた「新たな対話」

IBMのビジネスは、この20年で大きな変革を遂げてきた。オグルヴィとのパートナーシップがスタートした1994年当時は、サーバーやPCを中心としたハードウェア製品を主力事業としていたIBMだが、現在の主力事業はソフトウェア製品とコンサルティングサービスである。

「PC、クラウドシステム、アナリティクスツール、コグニティヴ・コンピューティング……取り扱うものや産業全体が変わっても、『世界をより良い方向へ導くこと』を目指している点は変わらず、ブランド・プラットフォームを通じて、その信条を表明し続けてきました」と戦略プランニングを手掛けるCecilia Magnusson氏。

IBMの宣伝・広告活動を統括するSara Sindelar氏も、「自社の取り組みをきちんとコミュニケートし、広く世の中に知らしめることは、強いブランドを構築する上で重要なことです」と、ブランド・コミュニケーションの重要性を強調する。

グラフィックデザイナーのポール・ランドが1981年に制作したポスター。IBMを「アイ(Eye=目)、ビー(Bee=蜂)、エム(IBMロゴのM)」と読み替えている。IBMは、デザインの美しさ以上に、デザインに込められた「どんな変化が起ころうとも、その変化に合わせた戦略を打ち出し、世界を牽引し続ける」という哲学を重視。社員一人ひとりがIBMの理念・ビジョンを強く認識するためのツールとして、このポスターを大切にしてきた。

2005年、レノボにPC事業を売却したことは、IBMがブランド・コミュニケーション・プラットフォームの方向性を転換し、進化させる大きなきっかけになった。オフィスの中からIBMのロゴマークが消え、ユーザーとの日常的な接点が失われることに危機感を感じ、ユーザーとエンゲージするための「新たな対話」の方法を構築する必要があったのだ。

「新しい世界を切り拓く上で、データやテクノロジーはもはや欠かせない存在。IBMが、これらを効果的に活用して『世界をより良い方向へ導くこと』を目指すブランドであることを知ってもらう必要があると考えました」とSindelar氏。

重視したのは、専門性が高く、ともすると多くの人々から敬遠されがちなテーマに、楽しみながら触れてもらうこと。IBMというブランドを体験できるコンテンツ「Experiencial Content」を、ぺイド/オウンド/アーンドメディアをバランス良く組み合わせて発信した。

IBMの研究開発から生まれた技術や、事業活動を通じて培われたノウハウを生かしたコンテンツを企画・制作していることが特徴で、ここ2年間に実施したもののうち、特に高い成果が得られた事例として、次の4つが紹介された。

「A Boy And His Atom: The World’s Smallest Movie」

宇宙最小の素子のひとつである原子を動かして撮影された、「世界最小のストップ・モーション映画」。次世代のデータ記録方法を研究していたIBM研究所。現在、1ビットのデータを保存するためには100万個の原子が必要と言われているが、最先端の技術を用いることで、同じ容量のデータをたった12個の原子を用いて保存することに成功した。

その研究成果を分かりやすく伝え、科学・数学に明るくない人々ともIBMの取り組みについて対話する機会を創出しようと考えた。

「A Boy And His Atom: The World’s Smallest Movie」

「Dispatches from a Smarter Planet(スマーター・プラネットより)」

IBMが2008年に提唱したビジョン「Smarter Planet」は、「世界は、より機能化(Instrumented)され、相互に結びつき(Interconnected)、インテリジェント(Intelligent)になることによって新しい進化を遂げることができる」という考え方。

「Made with IBM」というコンセプトの下、IBMがさまざまなクライアントと協業して、どのように「スマート化」に取り組んでいるのかを、全50種のストーリーにまとめた。データやITテクノロジーの活用が、新たなビジネスチャンスを生み出すことを、分かりやすく伝える狙いがある。

ゴルフの「マスターズ・トーナメント」のスポンサーであるIBMは、中継番組のスポットCMとして50種の動画をオンエアしたほか、クリエイティブ連動したプリント広告やWebバナー広告も展開した。

「Dispatches from a Smarter Planet」シリーズより。ポイント・デファイアンス動物園・水族館「Zoos made with data.」

 

「Dispatches from a Smarter Planet」シリーズより。リンツ「Chocolate made with IBM Cloud.」

「IBM Food Truck」

IBMが開発を進める「コグニティヴ・コンピューティング」が、人々にどのような便益をもたらすのかを知ってもらうことを目的とした企画。膨大な量の食材の成分・味のデータをコグニティヴ・コンピューティング「ワトソン」が解析し、意外な食材同士を組み合わせて新しいレシピを生成する「コグニティヴ・クッキング」を体験してもらうものだ。

サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)2014に出店した移動屋台「IBM Food Truck」で、ワトソンが考案したレシピを元にプロのシェフが調理した料理を提供した。

サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)2014に出店した移動屋台「IBM Food Truck」。

 

使いたい食材を複数入力することで新しいレシピを生成してくれるアプリケーション「シェフ・ワトソン」。

 

「シェフ・ワトソン」と有名シェフがコラボレーションしてディナーのフルコースを振る舞った、メディア向けイベント。

 

「#SKETCHBACKS」

国連が定める「世界環境デー」に合わせて実施したキャンペーン。街が抱える課題を解決し、よりスマートな暮らしを実現するアイデアをTwitterで募集、集まったアイデアをマイアミ・アド・スクールのアーティストが絵にしてくれるライブドローイングイベントで、IBMが2008年から掲げる「Smarter Planet(地球を賢く、よりスマートに)」というビジョンの達成に向けた取り組みの一つだった。14時間で、描かれたスケッチは40点にのぼった。IBMが注力するデータアナリティクスのノウハウをコミュニケーション活動に落とし込んだ事例だ。

次々と生み出されるこうしたコンテンツは、IBMのTumblrのアカウント「IBMblr」にも蓄積。若い世代を含むIBMブランドに馴染みのない人々に、ブランドを体験してもらうオンラインコミュニティとして活用している。

「IBMblr」

ビジネスが変われば、当然コミュニケーションのあり方も変わる。メディア環境や市場環境が目まぐるしく変わる現代の世の中において、クライアントのビジネスそのものに寄り添い、その取り組みを分かりやすく外部に発信していくことが、エージェンシーに求められる重要な役割となっている。

事業活動の実態や目指す方向性と、ブランド・コミュニケーションの内容・表現の整合性がとれているか、常にウォッチし、必要に応じてチューニングする必要がある。

「テクノロジーを駆使した新しい表現に強みを持つエージェンシーも増えています。そうした技術・スキルは確かに素晴らしいものですが、そこにビジネスの視点がなければ意味がありません。フィニッシュワークへのこだわりと、ビジネス上の成果の両立を目指すのが、オグルヴィの方針です」とKuhn氏。創業者のデイヴィッド・オグルヴィが遺した「Great work that works(素晴らしい仕事は、機能する仕事でもある)」という言葉は、現代にも受け継がれている。