「戦略が重要」と口では言うけれど、実は本当に「戦略」を考えていることは少ない

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音部大輔(資生堂ジャパン株式会社 執行役員)

マーケティングという仕事の具体的な業務をリストアップしていくと、いろいろなものが出てきます。新ブランド導入、新商品開発、デジタル・コミュニケーション開発、クリエイティブ開発、プリントやOOH開発、メディア計画立案、消費者プロモーション立案、価格の設定、パッケージデザイン開発、P/L管理、競争計画、チャネル政策立案、消費者理解など、その種類はとても多様です。

これらの様々な業務や作業すべての領域に関わってくるのが「戦略」の考え方です。実際、成功しているブランドマネジャーたちはとても戦略的であることが多いですし、戦略的思考を重要な資質とみなしているブランド企業も少なくありません。戦略的になることで、運に頼る要素が減っていき、マーケティングの成功確率は高くなります。

今回は4回に分けて、3月10日に発売された拙著『なぜ「戦略」で差がつくのか。 – 戦略思考でマーケティングは強くなる -』(発行:宣伝会議)から、マーケティングを強くするための戦略の考え方を示してみようと思います。

なぜ戦略が必要なのか?

そもそも「戦略」とはなんでしょう。とてもよく聞く言葉ですが、わかっているようで意外とちゃんと説明しにくいのが「戦略」です。もし「なぜ戦略が必要なのか?」という問いに答えにくければ、「戦略が必要でない状況はどのような場合か?」という問いからスタートしてもいいかもしれません。

「戦略が必要でない状況」が規定できれば、そこから戦略が必要な理由を導くこともできそうです。何がなければ戦略が必要ない、という事実がわかれば、何かがあるから戦略が必要である、という命題が正しくなります。論理学でいう、「対偶が真ならば命題も真」ですね。

理由①達成すべき「目的」がある

戦略が必要な第一の理由は「目的があるから」です。より正確にいえば、「達成したい目的があるから」です。対偶で説明するなら、「達成すべき目的がなければ、戦略は必要ない」となります。

あまりに自明かもしれませんが、組織は目的が明確でない計画や行動に満ちています。そもそも、人間は明確な目的を持って生まれてきているわけでもありません。

「やれ!」と言われたからから、みんながそうしているから、いつもそうしているから、とりあえず電話しておく、とりあえず会議に出ておく、とりあえずメールに返信しておく。毎年、新製品を導入している時期だから新製品を出しておく。こうした「とりあえず」の行動は、個人や企業の単位でもとても多いように思います。

「このサンプリング(試供品の提供)の目的はなんですか?」と質問すると、「ひとりでも多くの消費者に製品を渡すことです」と回答されたことがあります。会話になっているように聞こえますが、これではサンプリングという行動の記述に過ぎません。

カテゴリー(製品分野)の非使用者にカテゴリーの体験をしてもらいたいのか、ブランドの使用者に新しいアイテムを追加使用してもらいたいのか、競合ブランドの使用者に製品体験を通して自社ブランドの優れた点を認識してもらいたいのか。目的によって最適なサンプリングの仕方は異なることでしょう。「ひとりでも多くの消費者に製品を渡す」という目的しか設定できていない場合よりも、きっと効果的なサンプリングができるはずです。

まったくの無目的で行動を起こすことは少ないものです。特にビジネスにおいては、なにがしかの表層的な目的はあることでしょう。問題はどれほど明確に目的を意識しているかです。上記のように、「ひとりでも多くの消費者に製品を渡す」ではまともに目的を意識できているとは言えません。

理由②「資源」に限りがある

「目的」の存在以外にも戦略が必要な条件があります。それは、「資源」には限りがあるということです。もし資源が無限であれば、考えつくことをすべて実行すればいいのだから戦略は要りません。しかし、資源は常に有限です。

たとえば、重要な資源のひとつが「時間」です。どれほど莫大な資金や人員を用意できたとしても、目的には制限時間があります。シェア目標や売上目標の達成時期、新商品の導入時期、さらにメールひとつ打つにしても期限はあります。

もちろん、有限の資源は時間だけではありません。どれほど莫大な量をそろえることができたとしても、人材にも、資金にも、製品技術にも、それ以外の企業のあらゆる資源にも、限界はあります。限界があるがゆえに、達成手段について取捨選択しなくてはならないし、この取捨選択に資源の使い方の巧拙が出てきます。すなわち、資源をいかに配分するかということです。ここに、戦略を持つことの意味が生まれます。

どこに、どういった優先順位で、どの程度の資源を使うのか。戦略がその指針を提供しなくてはならなりません。

次ページ 「「外部環境の不確実性」は戦略の存在理由にならない」へ続く

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