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素材が持つ価値を社会に生かす~三井化学のオープン・ラボラトリー活動から何が生まれているのか?

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素材の中に眠っている機能的価値や感性的な魅力を、あらゆる感覚を駆使して再発見し、そのアイデアやヒントをこれからの社会のためにシェアしていきたい。三井化学では、そんな思いを共有した有志メンバーが集まり、オープン·ラボラトリー活動「そざいの魅力ラボ:MOLp™」を2015年から行なっています。

そのコミュニケーションのひとつの形として、同社が持つ素材の魅力を、月刊「ブレーン」誌上で、クリエイターの発想力とともに伝えていく「クリエイティブリレー」を進めています。同社は3月7日から11日の5日間、東京・表参道 ライトボックススタジオ青山にて、その活動を経て生まれた作品などを発表する展示会を開催します。

そこで今回、「クリエイティブリレー」に制作者の一人として参加した TBWA HAKUHODO CCO 佐藤カズーさんと、三井化学コーポレートコミュニケーション部 松永有理さん、八木正さんが、あらためて素材の持つ価値や可能性について語り合いました。

デザインの力で素材の魅力を引き出す

佐藤:この企画で、僕はロック&ピール™の技術を使ってサプリメントパッケージ「FASTAID」を一緒につくらせていただきました。この企画も含めて、三井化学が素材に着目したクリエイティブプロジェクトを始めたきっかけは何だったのですか?

TBWA HAKUHODO  CCO
佐藤カズー

松永:私たちはガスや液体、プラスチックのペレット、いわゆる原料や素材を扱っている企業です。人々の生活の中で黒子のように陰ながら貢献していることが我々のプライドでもあるのですが、一方で、SDGsのように世界の共通課題が叫ばれている中で、より一層これからの社会に貢献していくためにも三井化学という企業が持つ価値や素材の価値を、きちんと世の中に伝えていかなければならないのではという思いが湧いてきて、改めて見つめ直してみようと思ったのがきっかけですね。

佐藤:確かに僕もこの企画に携わるまで、日常生活の中で素材というものを意識することはほとんどありませんでした。

松永:当社の素材はさまざまな分野の商品や部品などに使われているので、実際に世の中に貢献しているのですが、素材の魅力をコミュニケーションすることはとても難しいと思っています。そこで素材の魅力をデザインのフレームワークから捉えてみることで、新たな機能や感性価値を見出したり、より丁寧にコミュニケーションができるのではないかと考えたことがきっかけで、「そざいの魅力ラボ:MOLp™」を開始しました。MOLp™では、素材の魅力を人間の五感で見直してみることや、見出した課題へのソリューションを提示することをメインに捉え、それらがリンクしていくことを目指していますが、「クリエイティブリレー」では少し先の課題の提示につながるような形で出していきたいと考えています。

三井化学 コーポレートコミュニケーション部 広報グループ課長 
松永有理氏

佐藤:どうしてデザインが必要だと思ったのですか。

松永:例えば機能的な素材のペレットと機能的ではない素材のペレットがあったとしても、そのどちらが優れているかを見た目だけでは説明できません。素材をそのまま見ても何に使うものか、まったく想像もつきません。でもカズーさんとのプロジェクトのように、きちんとデザインが施され、それが「FASTAID」という形になることで、「完全シールとイージーピールの異なる機能を一つの素材で簡単に使い分けることができる」という特長を見える化することができ、更にビジュアルとして見せることで感覚的にも理解できる度合いが大きく違ってきます。素材においても、コミュニケーションの手段としてのデザインの力を実感しています。

佐藤:それはまさにデザインの力ですね。

松永:それから、広義のデザインも重要だと考えていました。私たちのように素材を研究・開発している人間とは異なる発想や方向からのアプローチを社員が目の当たりに体験することで、これまでのやり方やプロセスを変えたり、仕組みやコミュニケーションまで含めたシステムで考えるといった、これまでとは異なるフレームワークで素材を見直す機会になるのではないかと思ったからです。

佐藤:それは重要なことですね。他では得られない特許を持っているメーカー企業が、そのテクノロジーを僕たちの生活に紐づけることができず、休眠させていることは往々にしてありますから。技術や機能を高めることを目的にした結果、そこで終わってしまっているというケースも多いと聞きます。

松永:確かに、我々もそうした特許を持っているのに生かし切れていない、埋もれているケースは多いと思います。今回のプロジェクトはカズーさんの普段の仕事とは違う部分があったと思いますが、参加するとき、どのようなことを考えましたか。

佐藤:普段の仕事ではクライアントに課題があり、それに対する解決策をクリエイティブワークで提案することがほとんどです。一方、このプロジェクトには課題がなくて、その代わりに素材というモノがある。だから、いつもとは違う脳みそを使わなくてはいけないと最初は思ったんです。でも、フラットに考えたときに、これはオープンイノベーションなんだと気づいて。三井化学が持っている素材という金塊を輝かせて、ビジネスとして広げていく方法を、自分たちのアイデアで導いていけばいいのだと捉え直しました。

松永:具体的にはどういうプロセスで取り組まれたのでしょうか。

佐藤:最終的なアウトプットとして形にすることを考えたとき、あるモノが形になるためには、何か理由が必要だと思ったんです。つまり製品が存在する目的や、世の中に対しての役割です。そこで、まず取り組んだのが、三井化学の社是や会社の成り立ちを勉強させていただくことでした。その中で見えてきたのが、社会の役に立ちたいという想いがあり、そのために自分たちが存在していると考えている三井化学の姿勢です。このプロジェクトでもその想いを実現させたいと考えました。

松永:統合報告書を読み込ませてほしいと言われたり、CSR活動や会社の歴史を教えてほしいと言われたので、アプローチが違うな、と感じていました。

佐藤:その次は、イシューハンティング。世界中で困っている大きな問題から、身近な小さな問題まで、そこに足りていないものや何かをプラスすることで解決するイシューはないかと探しました。そして、見つけたイシューと三井化学の素材とを組み合わせてアイデアを考えて、最終的に5案提案させていただきました。

松永:「FASTAID」は、難民キャンプでは栄養ときれいな水がバランス良く存在しておらず、汚い水で栄養をとることで下痢を繰り返してしまい亡くなってしまう子供たちがたくさんいるという、大きなグローバルイシューを解決しようというアイデアです。ほかのアイデアもとても興味深いものでした。例えば、猫にとって自ら体内で生成できないタウリンという成分は、不足すると失明や心臓疾患につながりますが、タウリンを野良猫に自動的に与えられるようなアイデアもご提案いただきました。三井化学はタウリンもそうですが素材は持っていますので、思考のフレームワークを広げると課題を解決できるようなビッグアイデアに変容していくことを実感しましたし、形にして提示することの大切さに気付かされました。それにしてカズーさんの頭の中の引き出しは本当に豊富ですね。

次ページ 「多くの人の共感を呼ぶ「FASTAID」」へ続く