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プロモーションの領域を再定義し、「新しい価値」を提供するために 『プロモーショナル・マーケティング ベーシック』(後編)

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激動の時代を迎えているプロモーション業界を生き抜くために

―いま、プロモーションは激動の時代を迎えていると言っていいと思います。「RsEsPs(レップス)モデル」は“今の時代”の生活者の購買行動をリアルに写し取ったものだと思うのですが、“これから”のプロモーションはどうなっていくとお考えですか。

宮久:購買行動プロセスの中にオンラインの接点が増えれば増えるほど、逆説的に体験価値の重要性が増してくるのではないかと思います。購買行動プロセスのどこかでリアルな体験価値を求める人が、これからますます増えてくるのではないでしょうか。例えば、優秀なプロモーション業務を表彰する「JPMプランニング・ソリューション・アワード」の上位入賞作品を見ていても、体験価値の提供を重視した企画というのが、ほぼ全てに共通しています。

また、JPM協会では「JPM POP クリエイティブ・アワード」という、日本で唯一かつ最大のPOP広告のコンテストを開催していますが、一つ強調したいのは、POP広告の市場規模は震災のあった2011年以降、ずっと横ばいか微増で推移しているんですね。

eコマースが増えると、リアルの店頭がいらなくなるんじゃないか?とみんなが思っていたのに、POP広告の市場規模が横ばいか微増で推移しているという事実は、リアルな店頭で商品を体験したいというニーズが減っていないことの証明ではないでしょうか。

それは逆に言うと、「RsEsPs(レップス)モデル」の体験(Experience)の重要性は、当然、店頭にもあるということです。購買行動プロセスのどこかでリアルに体験したいという欲求やニーズは、生活者の中に常に普遍的にあるということが言えると思います。

―なるほど。

宮久:もう一つは、購買行動プロセスにおけるs(検索・共有・拡散)の重要性です。

先ほどの「JPM POPクリエイティブ・アワード」で2017年度の最高賞である経済産業大臣賞を受賞した、東宝株式会社様の「メアリと魔女の花」劇場用スタンディー。

これは昔からある映画館用のツールなのですが、全体を90度ひねって、その中の箒(ほうき)にお客様がしがみついて写真を撮る。それを、90度ひっくり返すと主人公と一緒に空を飛ぶ写真になるという、参加型トリックアートの企画でした。これは直接的な購買促進ツールではありませんが、人に伝えたくなるような心躍る体験価値を提供することで、SNSでの情報の共有・拡散につなげています。

今の時代はPOPも、安いからとか、機能が優れているから買ってくださいという訴求だけではなく、店頭での体験価値の提供とか情報の共有・拡散を促進するために機能するものが増えているのです。

―単に「定価より〇〇円引き!」みたいものではなくて、シェアされたり、体験してもらったりすることが目的のツールが、今後も増えていくのではないかということですね。保田さんは何かありますか。

保田:まさに、今のお話しのとおり、デジタル化が進むにつれて、逆にリアルな体験が改めて見直されていると思います。

デジタル技術を活用した施策などで生活者の体験の質は飛躍的に向上していると言えます。様々なプロモーションの体験が、スマホからいつでもどこでも発信されることが可能になったことで、緻密な戦略と、より質の高いクリエイティブや全体設計が要求される時代に突入したと言えるのではないかと。

―プロモーションの全体設計や施策が、より複雑になるということですか?

保田:それはあります。ただ、体験価値とか共感が重要になってきた今、最後に重要なのは、やっぱりアイディアとかクリエイティビィティだと思うんですね。

いいアイディアでも、昔だったらクローズドなイベントで終わっていたところが、今ならネットで瞬時に拡散されることもある。そうなると、アイディア一つでも面白いなって思ってもらえたら、みんな共有するし、拡散してくれる。これはプロモーションに携わる我々として絶好のチャンスではないかと思います。

―ある意味、これからプロモーショナル・マーケターになる方にとっては、1つのアイディアで実現できる可能性が広がっているという面もありますよね。

保田:そうですね。手段も多くなってるので、その組み合わせの複雑さや、設計の難しさはあるかもしれません。しかし、だからこそオリジナルな強いアイディアが重要になっていくと思います。そういう意味でこれからのプロモーション業界は面白いことになっていくんじゃないでしょうか。

今は、クリエイティブの人がイベントや店頭キャンペーンなどを企画したりしますし、その点でもプロモーションの領域が広がり、職種の垣根も無くなってきたと言えますよね。

これからのプランナーは広く深い知識が求められると思いますが、とにかく粘り強く学び、プランニングと実践の経験を積み重ねて、今の時代を生きるプロモーション・プランナーを目指してほしいと思いますね。

宮久:実は「JPMプランニング・ソリューション・アワード」の受賞者も、職種的にはクリエイターが多いんです。優秀なクリエイティブ・ディレクターは、やっぱり商品を売るためにどうすべきか?という視点でプロモーショナルに考えますよね。広告業界内で面白いもの作ればいいという時代ではなくて、どうすればこの商品が売れるのかなって考えた時には、例えばリアルな体験イベントっていうのも有力な選択肢の一つになるわけです。

もちろん過去の受賞作品は、「RsEsPs(レップス)モデル」を見ながらプランニングしたわけではありませんが、デコンしながら当てはめて理解することはできます。クリエイターも、本書を読めばクリエイティブの飛距離を伸ばすことができるのではないかと思います。

―クリエイターもマーケターも、そしてプロモーション・プランナーも、専門領域の中に閉じこもるのではなく、境界線を越境しながら守備範囲を広げなければならない時代なのですね。本日は貴重なお話、ありがとうございました。



書名:プロモーショナル・マーケティング ベーシック
  「プロモーショナル・マーケター認証資格試験」公式テキスト
仕様:A5判・2C/168ページ
編集:一般社団法人 日本プロモーショナル・マーケティング協会
監修:守口 剛(早稲田大学商学学術院 教授)
発行日:2019年6月17日
定価:2,700円+税