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コラム

野呂エイシロウ「テレビPRで、売り上げをつくる!」

ゴーン氏の記者会見。どんな広報のテクニックが使われていたか?

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世界のメディアを味方につける戦略なのは明らか

1月8日の記者会見の話に戻そう。報道によると、100人ほどの記者席で多かったのはフランス、アメリカのメディアだったという。日本のテレビ局で会見場に入れたのは、テレビ東京のみだった。

不公平だという意見もあるのだろうが、私人の会見なのだからセレクトしても構わない。テレビ東京の『WBS』は、逮捕直後からニュートラルな報道をしてきた。私生活にも触れず、バッシングもせず、経済番組として冷静な対応をしてきた。

もちろん、逮捕以前、CEO現役時代から何度も取材をし、カルロス・ゴーン氏とも交流があったというところもあるだろう。『WBS』というかテレビ東京自体、裁判の行方を冷静に見守っていたフシがある。まあ、テレビ東京自体がワイドショー番組を持っていないので、バッシングされることはないというのも大きいだろう。

それに比べて取材もしたことがない、面識もない、二次的な情報をつなぎ合わせて一方的にバッシングをしてきたようなメディアは今回相手にされなかったのだろう。日本のメディアの選別は誰が行ったのだろうか?アメリカの広報担当や、フランスの広報会社が選別したとは考えにくい。日本語の記事を分析し選別した可能性は低いだろう。

もしかするとカルロス・ゴーン氏本人や家族が決めたのかもしれないし、日本で広報に精通した協力者がいたのかもしれないが、それは筆者の想像に過ぎない。現時点では証拠を見つけられていない。

日本企業の通常の会見でも「出入り禁止記者」のリストは企業によってあり、締め出したことは幾度もある。「記者クラブに所属の記者のみOK」という場合もある。筆者は雑誌『広報会議』で「映画で学ぶ広報」というテーマのコラムを持っているが、アメリカの映画やドラマの中でも政治家が気に入らない記者を締め出すシーンは時々見受けられる。

『WBS』単独インタビューの意味

最終的には、会見の翌日(9日)には『WBS』の単独インタビューにも答えている。味方だからではない。『WBS』の視聴者の多くは、経営者や経済に興味がある人々である。今回の事件は殺人事件や窃盗事件など、ある意味わかりやすい犯罪ではない。非常に難しい経済犯罪だ。

ゴーン氏が『WBS』を選んだ理由のひとつは、視聴者に知り合いがいるということだろう。もしも筆者のクライアントが経済犯罪で今回のような事柄が起こった場合も、『WBS』の単独インタビューを選ぶであろう。

筆者も過去に実行したことも何度もある。なぜか?それは、視聴者の中に味方になりうる人が結構いるからだ。ゴーン氏にも、逮捕前の友人や仕事上付き合いのあった人物が結構いるだろう。そんな人々が味方になってくれるかもしれない。「あの人はそういう人ではない」という同情も深まるだろう。

しかも「金持ちは悪い」「強欲だ」という感情論ではなく、「もしかすると日本の制度に間違いがあるのではないか?」「もしかしてカルロス・ゴーンさんの言っていることは本当かもしれない」と同調をする人物が1人でも増えればそれでいい、と考えているのかもしれない。経済がらみの犯罪だからこそ、経済番組を選ぶのは最良の選択である。

実際に会見翌日、とある企業の広報担当者から「うちの社長は、あのような勾留や取り調べは耐えられないだろう」という意見もでた。「あんなに取り調べがきついとは」とコメントした上場企業の経営陣もいた。そう、すでにカルロス・ゴーン氏の会見の影響は出ているのだ。

ポジティブな記者とネガティブな記者を選別

今回の会見の前から、メディアの選別を行っているカルロス・ゴーン陣営。会見後の記事も分析をしているに違いない。通常だと、こういった場合エクセルなどで、ポジティブな記事(記者・メディア)とネガティブな記事の2種類に分ける。

そしてポジティブな記事を書いた記者に対して、次のアクションを考えるのが通常だ。単独インタビューか密着取材か、情報提供なのか?それはわからないが、メディア戦略は次のステップに入っているだろうと予想される。

筆者が広報担当なら「世界に味方を作ろう!」というスタンスで戦略を練るだろう。日本のメディアではなく、世界を相手にして「敵と味方」を作り、ある意味「広報の世界大戦」に巻き込む気なのだろう。

次ページ 「スピーチライターは非常にうまい。」へ続く