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コラム

野呂エイシロウ「テレビPRで、売り上げをつくる!」

「書かれてはならない記事なのに、止められなかった」 映画『フロントランナー』が問いかけること

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STORY 1988年のアメリカ大統領選。ゲイリー・ハート上院議員は、史上最年少の46歳で民主党の最有力候補へ一気に躍り出た。大衆からも愛されていたが、マイアミ・ヘラルド紙によってハートに関するスキャンダルが一斉に報じられると、世論は迷走する。急展開を迎えたそのとき、ハートや家族、そして国民が下した決断とは。


 

「なんとか記事を止められないか?」。

年に数度は、企業の広報さんから同様の相談がある。そんな力持ちがいるならボクの方が紹介してほしいと思う。スキャンダルが、人生を大きく変えるのは今も昔も変わらない。この場合はアメリカの未来も変えたのかもしれない。舞台は1988年、当時ボクは21歳、残念ながらゲイリー・ハート議員の記憶はない。この映画はロナルド・レーガン大統領の次の大統領選の実話が元になっている。

ヒュー・ジャックマン演じるカリスマ政治家、ゲイリー・ハート。彼は、ジョン・F・ケネディの再来と言われた大統領選予備選で最有力候補(フロントランナー)に踊り出る。だが、女性スキャンダルと、その後のマスコミ対応の仕方でとんでもないことなる。

クリス・コイが演じる報道担当など選挙を支えるスタッフの裏側は見ていて本当に息苦しくなってくる。広報の皆さんは必見だ。ボク自身もこれまで、このハート議員のように自信満々でスキャンダルを軽く見ていた経営者に何人も出会ったがその後の顛末はいずれも同じだ。

この中で、芯となるのは家族、特に妻との関係だ。“政治家の妻を演じる”ヴェラ・ファーミガは、映画『マイレージ、マイライフ』でも好演していた。そんな妻に、ハート議員はスキャンダル記事が出ることを自ら告げる。「書かれてはいけない記事なのに、止められなかった」というのは重い。主人公の“不倫はいいが、書かれてはいけない”という甘さが、命取りになる。

監督のジェイソン・ライトマンは、タバコ業界の広報戦略を描いた映画『サンキュー・スモーキング』も撮っている(以前、広報会議のコラムでも紹介した)。ちなみに今回、選挙参謀を演じているJ・K・シモンズは『サンキュー~』以降のこの監督作品にほぼ登場している。今回も、誰よりもマスコミの変化を察知している男を演じている。

物語の軸としては「危機管理」と「意識」の問題を上手に描いている。危機管理広報という言葉が出て久しいが、ボクは“管理”はできないと考える。冒頭に書いたとおり、マスコミをコントロールできると思っている広報担当者は意外に多い。だが、現在はSNSもあり、情報を統一化するのは非常に困難を極める。複数人が介在するトラブルの場合、情報が漏れるのは当然だ。

「謝罪会見をいかに上手に進めるか」という議論も多いが、マニュアル通りでは通用しないことも多い。本作でも、議員の認識の甘さがマスコミや国民との差を生み自滅の道へと進む。

スキャンダルは起こさなければそれに越したことはない。だが人間は弱く傲慢な生き物だ。それを痛感させられる。こんなトップのためにボクは働けるだろうか?と何度も問う映画だ。

『フロントランナー』

公開: 2018年(日本では2019年2月公開)
製作国: アメリカ
監督: ジェイソン・ライトマン
出演: ヒュー・ジャックマン、ヴェラ・ファーミガ、J・K・シモンズ、アルフレッド・モリーナ、サラ・パクストン