メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×

社会になくてもよいモノを売る 元ブランドマネージャーのブランド育成論

share

【前回】「社会になくてもよいモノを売る 元ブランドマネージャーの葛藤」はこちら

たばこは、そのにおいや受動喫煙による健康問題などが足かせになり、「社会になくてもよいモノ」と捉えられてしまいます。プロモーションにおいてはマス広告も打てず、大々的なイベントも企画できない、いわゆる「マーケティングの生命線」を断たれたような商材です。「社会になくてもよいモノ」はマーケティングの力で人々からの「愛着」を醸成できるのでしょうか。本コラムは、入社2年目にしてブランドマネージャーを経験、JTの商品企画部で主任を務める黒髪祥氏が全3回にわたり執筆。たばこを売るうえでの葛藤や、マーケティング戦略について語ります。

「なんとなく惹かれる」を創出するのが嗜好品のマーケティング

第1回の記事で書いたように、未成年の方や非喫煙者の方に対する喫煙推奨の防止を目的とする、たばこ業界の広告や販促活動に対する規制は、なかなかに厳しいものです。

マス媒体を使った広告や、著名人を活用した広告など、大々的なプロモーションイベントは企画できません。まさに、たばこは「マーケティングの生命線」が断たれている商材なのです。

第2回では、そんな制約の多いたばこのマーケティングに従事する私が、商品を好きになってもらうために、どのようにブランドを育てていったのかについてお話をしたいと思います。

私は2016年にJTに入社。入社2年目からは、唇と歯の間にはさんで使う「かぎたばこ」の一種である「SNUS」のブランドマネージャーを担当しました。この商品は、たばこの中でもニッチなジャンルのものといえるでしょう。

ブランドマネージャーになった当初、訴求していたのは、「たばこのにおいと煙がない」こと。だからこそ、「自分のにおいを気にせず、周囲の環境に配慮ができる」ことの2つ。いわゆる商品の「機能的価値」です。

機能的な価値の訴求は、売る側からしても一番手っ取り早いですし、何よりもお客さまがその利便性に気づいてくれる「分かりやすさ」がメリットですよね。

例えば、「体脂肪の吸収を抑える」、「●●%汚れが落ちる」、「●●時間効果が続く」、「他の商品と比べて●●」など、自分の生活にどのような利便性をもたらすのかが誰に対しても等しく伝わることが特徴だと思います。

私もそう考えていたのですが、これがなかなかうまくいかず、まったく売れない日々が続きました。

第1回でも触れましたが、私は商品を必要だと思ってくれる人の「π」数を増やし、好きになってもらえる余地をどれだけ創出できるかが、嗜好品マーケティングの勝負どころだと気づきました。そこでブランドを好きになってもらうためには、情緒的価値に目を向けることが必要だと考えるようになるのです。

私は情緒的価値が嗜好品においては、ことさら重要だと考えています。なぜなら嗜好品自体は「機能」のように、利便性などのスペックだけで語られる存在ではないからです。

もちろん機能的価値を訴求することも大事。しかし嗜好品を手に取るきっかけは、無意識のうちに感じる、情緒的な理由がほとんどだと思っています。ブランド(商品)の機能を知り、好きになってもらうのは、その次のステップです。

こう考えてみると、嗜好品のマーケティングには「情緒から機能へ」というように、訴求ポイントに流れをつけることが重要なのではないか、と考えるようになりました。

しかし心の琴線に触れるモノやコトは人それぞれで異なります。情緒的価値は機能的価値と違って、人の数だけ多様に存在するので、誰かの情緒に寄り添った価値を見い出すことは非常に難しいといえると思います。

それでは、具体的に情緒的価値を見い出すためにはどうすればいいのでしょう。

まず、身の回りにある嗜好品にどうやって初めて手を伸ばしたか、なぜそれを使い続けるのか。いわゆる顧客目線に立って考えてみることが大事なのではないでしょうか。「顧客目線」なんてありきたりなマーケティング用語だ、と思う方もいらっしゃるかと思いますが、これが難しいことは皆さんもよくお分かりだと思います。

そこで、実際に顧客目線に立って、嗜好品の情緒的価値を考えてみました。

例えば、以下のようなことって思い当たりませんか?
・バーでよくわからないお酒を頼むとき、ラベルから得られるインスピレーションから選んだこと
・たばこを吸われる方は、そのたばこの味よりもパッケージデザインで選んだこと
・珈琲を飲みに行くとき、お店の雰囲気で足を運んだこと

いかがでしょうか。

何が言いたいかというと、人々が何気なく選択している嗜好品ブランド(商品)は、無意識のうちに情緒的価値を入り口として選択し、好きになっているものが多いということです。

ここで言う情緒的価値とは「なんとなく惹かれる」という感情に近いものかと思いますが、嗜好品のマーケティングには、この「なんとなく」という感情を創出することが大切だと私は考えています。

次のページでは、私がどのように情緒的価値を見い出し、訴求したのかについてお話しします。

次ページ 「情緒を醸成するのは、時間と想像の「余白」だった」へ続く