コラム

世界で活躍する日本人マーケターの仕事

世界で活躍する日本人マーケターの仕事(フィリップス 藤井崇雅さん)後篇

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コロナパンデミックで注目の空気清浄機担当に異動を希望

—コロナ禍でどのような取り組みがありましたか?

フィリップスの会社全体としては、コロナパンデミックによりお家時間が生まれてきているので、家をより良い場所にする方法について人々にアイデアとツールを提供するべく「Let’s make home a better place to be (家をもっといい場所にしよう)」という全社横断キャンペーンをヨーロッパでローンチしました。お家時間の増加によりヘアバリカンやコーヒーメーカーなどがお家時間を豊かにするアイテムとして伸びていましたので、そうしたカテゴリーにフォーカスする取り組みも実施しました。

空気清浄機、ヘアーカッター、コーヒーメーカー等の「お家時間」をより良くするための製品群に特化して、カテゴリ横断でキャンペーンを展開した。

私自身もコロナ禍にシェーバーから空気清浄機のカテゴリーへと異動。長らくシェーバーに関わってきてそろそろ新しいカテゴリーにチャレンジしたいと思っていたタイミングだったこともあり、コロナパンデミックによって世界的にニーズが急増していた空気清浄機に関わることにしました。

今回のパンデミックは、消費者の行動を完全に変えたと思います。お家時間が大切になってきて、お家時間を豊かにするものにお金をかけるようになってきていると思います。中でも健康や個人/家庭の衛生関連のカテゴリーへの関心が高まり、今までは病気になってから対処するという発想から、より予防的になってきています。未然に防げるなら、予防に投資しようという意識が生まれています。そうしたこともあり、空気清浄機カテゴリーがパンデミック発生後から急激に伸びました。

空気清浄機はこれまでは中国市場がメインで、イノベーションハブも上海にあったのですが、パンデミックでヨーロッパ市場での急伸を受け、上海からオランダにチームごと移動することになりました。それに伴ってポジションが空いたため、応募しました。

コロナ感染に関して初めの内は、あまり空気感染、飛沫感染は言われていませんでした。しかしある時からWHOやアメリカのCDCをはじめとする当局から、換気の重要性と、換気が難しい場合は空気清浄機が活用できることを説くようになりました。こうした情報発信もあり、消費者の中で、コロナウイルスが空気感染し、エアロゾルによっても感染することを短期間の間に理解が広がりました。

こうした市場変化を受けて、空気清浄機のカテゴリーはこれまで大気汚染とアレルギー対策が主だった訴求だったのですが、ウイルス、エアロゾル除去という面を中心に添えることにしました。

まずは商品として、空気清浄機が室内のウイルス・ エアロゾルにどのような影響を与えるかを外部機関の専門家と一緒に研究を進め、外部評価機関にてフィリップスの空気清浄機が空気中のヒトコロナウイルスを最大 99.9% 除去することを実証しました。またドイツのフランクフルト大学の研究においても、学校の教室内でフィリップスの空気清浄機を使用した場合に、わずか 30 分で 90% のエアロゾルが除去できること (27 人の生徒がいる教室) を示されました。

そしてコミュニケーションでは、この実証結果に基づき、テレビCMからデジタルに至るまで全てのアセットをアップデート。99.9%ウイルス、エアロゾルを空気から除去するというものに変更しました。ウイルスに関する教育用パンフレットを作成し、ウイルスがどのように伝染するか、主要な医療機関がコロナウイルス対策として空気清浄機をどのように位置づけているかなどを解説。また空気清浄機の正しい知識を得られる4つのビデオもウェブに公開しました。そしてテレビCMでは、消費者がまだ空気の清浄に関して知識が浅いこともあり、花粉や料理した時のスモークなどでも健康に影響を与えることを伝えながら、キーメッセージとしてはウイルスとエアロゾルの除去を伝えました。これらのコミュニケーションの変更は、外部機関の専門家との取り組みが2、3週間で、コミュニケーションも含めると全体で1~2カ月で全てをシフトしていきました。

また最近、偏りのない評価で有名なドイツの外部機関によるテスト (Stiftung Warentest) で、フィリップスの空気清浄機の性能がNo.1であることが実証されるという嬉しいニュースがありました。さらに、同機関のエアロゾル除去のテストでも、合わせて最高性能の評価をもらうことができたため、さまざまなコミュニケーションに活用しています。

フィリップスは医療技術において長年の伝統を持ち、空気清浄機に従事する100 人以上の科学者、医師、エンジニアのチームを擁しています。以前からこの分野に積極的に取り組んできたこと世界的な市場変化にうまく対応することで、この分野で世界的リーダーの 1 社になることができたと思います。

パンデミック後は大気汚染とアレルギーからウイルス・エアロゾル99.9%除去に大きくメッセージをシフトした。

大気汚染・アレルゲン物質に加えて作成したウイルスのツールキット。

パンデミック後に作成した動画ではより安全なフィルターの交換方法や実際の汚染物質の除去デモ等、よりコンシューマーが今知りたい情報を盛り込んだ。

—その他に意識されていることはありますか?

コロナパンデミックによってデジタル化も進んでいます。消費者もデジタルでの購買にシフトしていますし、屋外広告も見ないので広告もデジタルにシフトしています。私としては商品のデジタル化の推進を重視しています。空気清浄機にしてもシェーバーにしてもパーソナライゼーションがポイントで、それぞれのニーズに合わせて利便性を高めるために、コネクティビティが担う役割は大きいと感じています。

シェーバーの取り組みはすでにお伝えしましたが、空気清浄機も商品の8割がコネクティッドです。室内の空気を毎秒1000回継続的にスキャンして微細な粉塵レベルを検出し、ほこりや花粉、ウイルスなどを除去するセンサーを備えています。状況に応じて清浄機自体が自動的にパワーアップしたりダウンしたりし、ユーザーにとって最適な働きをします。こうしたユーザー情報は個人を特定しない形でマスデータとしてフィリップスに溜まっていき、商品の改善につなげることができます。8割のユーザーがどう使っているか?どのモードを使っていて、空気がどのレベルに改善されたのか。こうした情報が今後の商品開発に生かせると思っています。

フィリップスの空気清浄機のアプリはリモコンとして使えるだけでなく、室内・室外・フィルターの汚染レベルを確認したり、ユーザーの悩みにあわせたアドバイスまで受けられる。

【オンライン“訪問”を終えて】

フィリップスでは「カイゼン」や「アンドン」、「ゲンバ」という言葉を皆が日常会話で使っているという話を藤井さんから聞きました。日本の製造業で培われた知識は重宝されていて、フィリップスのマーケティングのプロセスに落とし込まれており、それだけを学ぶために1週間ホテルに缶詰になる研修もあるようです。クオリティに問題がありそうな時は「行燈をひいて(Pull the Andon)」一旦止まって「現場(Gemba)」に行って確認しよう、という感じで日本語が業務に登場するようです。日本の製造業だけでなく、日本人としても、ディテールに拘るきめ細かさや仕事を絶対にやり遂げていくという献身的な姿勢は絶対に評価されていると日々感じるとのこと。その強みがあるがために、全体像を捉えることがおざなりにならないように、戦略レベルの全体の視点と日本人ならではのきめ細やかな視点の双方を行き来するように日々意識されているようです。

玉井博久

広告会社側(リクルート、TUGBOAT)のクリエイティブと、広告主側(グリコ)のブランド構築の両方の経験を生かして、デジタルを活用した顧客体験(CX)を手掛けカンヌライオンズなど受賞多数。著書に『宣伝担当者バイブル』(宣伝会議)、『「売り方」のオンラインシフト』(翔泳社)。2015年より5年連続シリコンバレーに、2018年より3年連続CESに、深圳、イスラエル、また米中のテックジャイアント本社に足を運び最新のデジタルテクノロジーを視察。得られた知見をマーケティング、Eコマース、コンテンツプロデュースに活用。シンガポールにてASEANのECビジネスを2年で10倍以上拡大させる。2012年より日本のポッキーの、2016年より全世界のポッキーの広告を統括。ポッキーは2020年に世界売上No.1*として、ギネス世界記録™認定。

*タイトル:タイトル:最大のチョコレートコーティングされたビスケットブランド/2019年 年間世界売上高 推計$589,900,000 (国際市場調査データによる)
* 国際市場調査のデータ分類上、クリームでコーティングされたビスケットも含まれる

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