左から、日本香堂ホールディングスの小仲正克社長、『SBNRエコノミー』著者の博報堂 宮島達則氏。
(場所協力:香司 鬼頭天薫堂)
海外へ渡る「線香」「お香」 香りが開く新たな市場
宮島:小仲社長は、私たちが2023年に発表した「SBNRレポート」(博報堂+SIGNING)をご覧になり、SBNRに深い関心をお寄せいただきました。それをきっかけに、私も日本香堂さんのお仕事に関わらせていただくようになりました。改めて、当時SBNRのどんな点に着目されたのか、教えていただけますか。
小仲:物質的に豊かな生活を送ることこそ幸福だとされていた時代から、最近は「ウェルビーイング」と言われるように心の充足感が重視されるようになっています。そこにSBNRの概念がうまく紐づくように感じ、事業のヒントになるのではと思ったのです。今回書籍も読ませていただいて、SBNR層の4つのタイプ分類など、自分自身が日頃考えていたことを、上手く整理してもらっていると感じました。
図 SBNR層4つのタイプ分類
『SBNRエコノミー』より (c)Getty Images
宮島:ありがとうございます。日本香堂さんといえばお線香やお香ですが、こうした商品は、人とのつながりを重んじたり、心を整える時間を大切にするSBNR層とも非常に親和性が高いですよね。
小仲:香りには香りそのものの価値ももちろんありますが、そこから想起される記憶や想像、インスピレーションといった、情緒的なものに伴う価値が大きいと思っています。これはまさに、SBNRの要素が多分にあるととらえています。
宮島:なるほど。近年では海外のラグジュアリーブランドとのコラボやOEMも増えているとも伺っています。海外マーケットでの広がりには、どんな手応えを感じていらっしゃいますか?
小仲:海外でのインセンス(お香)カテゴリーの売上が増えています。先日、フランスの香水学者にインタビューする機会があったのですが、歴史的に見て、香水業界には3つのイノベーションがあると語っていました。「精油技術の確立」「合成香料の進化」「マーケティング」、そして次のイノベーションは「スピリチュアリティ」ではないかと。
「これまで香水というのは、官能性など他人を魅了することが目的だった。しかしこれからは自分のために使うものになる」という話が印象的でした。ラグジュアリーブランドとお香メーカーの協業など、かつては考えられなかったことですが、日本の香りに禅的なスピリチュアルの要素を強く感じているのだと思います。
宮島:海外市場では、具体的にどんなブランドが人気なのですか?
小仲:ロングセラーの「毎日香」(海外名モーニングスター)は、もともとアメリカのヒッピームーブメントの中でドラッグの匂い消しとして使われはじめた商品です。いまではインセンスの代名詞に近い存在となり、日常使いの商品として定着しています。こうした背景から、年齢層はやや高めです。
ロングセラーの「毎日香」(海外名モーニングスター)。
一方で、近年では、マインドフルネスのブームの後押しもあり、メディテーション(瞑想)用途のインセンス(お香)の売り上げがグローバルに伸びています。サンダルウッド(白檀)のようなオーセンティックな香りも好まれますし、合成香料を使わないナチュラルな素材を求める層もいます。香料を一切使わない、自然のものだけを使った「CHIE MEDITATION」は、特にヨーロッパで人気です。YZ世代を意識した色づかいのパッケージの「SCENTSUAL」などの商品もあります。
自然素材を意識し、ヨーロッパで人気の「CHIE MEDITATION」。
YZ世代を意識した「SCENTSUAL」。「Fresh Macha」(上)は世界的な抹茶ブームを背景に、特に売れているそう。