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コラム

「世界一ハッピーな会社」をめざして。

ガラパゴス日本の仕事の進めかた

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海外から孤立した、ある程度規模のある日本市場でのビジネス上の最適化を図った結果「ガラパゴス化」が進んだ、という話は携帯電話やパソコンなどの製造業の世界でよく耳にする話ですが、仕事の進めかたにおいても、「ガラパゴス化」を感じることが多々あります。グローバルの案件で海外のクライアントやスタッフと仕事をしたり、外資系企業の仕事の進めかたを目にしたりして感じたことについて今回はお話をさせていただきます。

“バトンリレー” ならぬ、”ふんどしリレー”

ガラパゴスその1。仕事のほとんどは、個人ではなく、チームで進めることが多いですが、知識・知見・情報などのナレッジの組織的な共有がされにくく、さまざまな経験を通して個人にのみ溜まっていく、というのは広告業界に限らず、日本の仕事の進めかたのひとつの特徴ではないかと思います。成功事例や失敗事例はもちろんのこと、クライアントの情報や、ネットワーク・コネクションなども共有されにくい。

さまざまな課題に対して、コミュニケーション領域での解決策を提示するのがボクたちの仕事ですが、そのほとんどが「オーダーメイド」に近い状態。課題に応じて都度別々のプランニングをして解決を図っていく。「吊るし」の洋服ではなく、洋服の仕立て屋さんに近い状態だと言っても良いかと思います。結果、腕のいい、お客さまの多い仕立て屋さんに仕事が集中し、経験値が高まることによってさらに腕が上がっていくことになる。これは決して悪いことではないとは思うのですが、組織全体での強さをキープしていく上で、もう少し「知と経験の共有」を図る方法はないだろうかと思うことが多々あります。

対して、海外の仕事の進めかたに目を向けてみると、いかにして組織全体に「知と経験の共有」をしていくかという意識がとても高いように感じます。成功事例と失敗事例、それぞれの要因はもちろんのこと、クライアントのキーマンの名前や性格、仕事の進めかたの特徴までもレポートとして残し、明文化することが義務づけられている会社もあるそうです。仕事のキックオフの時も、まずはチームとしてのルールの確認からスタートすることが多く、担当者が途中で別の担当者に代わっても、変わらずに仕事をスムーズに進められる組織づくりがされているように感じます。

仕事をリレーに例えて、「バトンを渡していく」という言い方をすることがありますが、日本の仕事のリレーはタスキならまだしも、「ふんどしを渡していく」ようなイメージでしょうか。時間をかけてずっと締めているふんどしのように、その人にしかわからない、ブラックボックス的な部分がどんどん増えていく。バトンならパッと手渡しで簡単に渡せますが、ふんどしは脱ぐのも、渡されて締め直すのもひと苦労。さらに、他のヒトが締めたふんどしは締めたくないですよね?変なニオイや毛がついているかもしれないし(笑)。結果、限られた人間に知見が集中して、その人がいなくなったりすると一気に組織力が減退する、というのはよく目にする光景です。

組織にスーパースターが必要ないとは言いません。一人のスーパースターの力によって、奇跡のようなことが実現することもあります。スーパースターはいるに越したことはないと思います。ただ、もう少しその経験を通した知識・知見・情報といった「知の共有」をはかること。先人が得たナレッジを明文化することにより、後人が同じ失敗をしなくなるようにしたほうが、長期的な視点で見て組織力が向上すると思うのです。Facebookなどのタイムラインで、過去どんなことを感じたり経験してきたりしたのかが追えるように、グローバルで勝ち抜いていく上にはそんな仕組みづくりが必要ではないかと。そして、それによって最終的にオーダーメイドでゼロベースからモノづくりをしていくよりも結果的によりいいモノが出来るようになると思うのです。

責任の所在やゴール設定が不明確

ガラパゴスその2。責任の所在やゴール設定について。仕事を進める上で、チームの中で誰がどの役割を担うのかが、不明確なケースが多いように感じます。広告制作ではクリエーティブ・ディレクター、コピーライター、アート・ディレクター、CMプランナー、コミュニケーション・デザイナー、アカウント・プランナー、アカウント・エグゼクティブ(営業)、ストラテジストなど、さまざまな肩書きのヒトがひとつの案件に関わって仕事を進めますが、誰がどこまでの範囲を担うべきかがハッキリしていないことが多々あります。ある程度カニバリズムを起こすことを割り切って、みんなが自主性を持って積極的に実力を発揮するような優秀なチームなら問題ないですが、最終的に誰が決めるのか、前に進めるのかがハッキリしないまま、お互いに遠慮だけしあってプロジェクトが前に進まないことは少なくありません。で、結果一番声がデカいヒトが何となく空気を制しながらカタチにしていく。ほかにも、最終のゴールが不明確なまま作業が進み、結果的に大いなる時間と労力の無駄があることも比較的多く感じます。これは広告業界に限らず見受けられる、日本ならではの特徴のような気がします。何となく不明瞭な部分をあえて残しておいて、都度修正をし、改良をして行く。行間を読み、空気を読んで紡いで行く。気心がしれたメンバーで作業を進めるのであれば問題ないと思いますが、それぞれの母国語が違い、コミュニケーションがスムーズにいかないグローバル作業においてはそんな進めかたを見直さなければならないと思います。

結果でなくプロセスにお金が支払われる

dofで行われている恒例の打ち合わせ「ハイボールシンクタンク」。

ガラパゴス3つ目。「結果でなく、プロセスにお金が支払われる」という点です。これは日本に限らず、欧米でも広告業界はまだまだそういう側面があるのかもしれませんが、コミュニケーションのプロたるもの、本来的にはどれだけいっぱい作ったか(納品したか)や作業の工期ということではなく、どんな結果を出したかによって評価がされるべきだとボクは考えています。まだまだ成果主義のようなやりかたを全面導入するのは、クライアントサイドも、広告業サイドも難しいのかもしれませんが、クライアントと真のパートナーであるのなら、出した結果の対価として報酬が支払われるほうが潔いのではないかと。

「仕事をする」という点において、日本人は非常に優秀な民族だと思います。全体的に個人のレベルや意識が高いので、言わなくてもわかるところはあえて言わず、伸びしろを残しておくことにより最終的に思ってもみなかった結果を生み出すことが出来る。ただこの先、グローバル化する世の中で勝負をしていくことを考えた場合、大きな組織であればあるほど、色々な思想、宗教、人種が関わることになり、そこの伸びしろは減っていく可能性は高いと思います。それどころかファジーになっている部分でのミスやチャンスロスが起こることもあるでしょう。

もともと優秀なヒトたちが、グローバル化する世の中で臆せず、きちんとシステムとして、組織として闘うことが出来たのなら、ガラパゴスがグローバルスタンダードになることだってあるとボクは思います。