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コラム

野呂エイシロウ「テレビPRで、売り上げをつくる!」

企業は、いつから非難と戦う時代になったのか? — 日清のCM問題から見えてくること

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「怒り」の専門家は日清CM炎上をこう分析する

今年になって、「世間の目」はさらに厳しくなり、様々なものを葬っているとボクは思う。今回の件もそんなことがあると思う。どうして人々は、特にSNSなどを使ってなぜそんなに怒るようになったのだろうか?「怒り」のコントロールに詳しい、日本アンガーマネージメント協会の安藤俊介代表理事によると、

「クレームを申し出た人は、普段から怒りを抱えていて、攻撃の対象を探している人です。普段の怒りの矛先として日清のCMが格好の的になったと考えられます。正義、倫理といった大義名分は怒りを乗せる絶好の台車です。今回のCMの登場人物に怒りをぶつけるだけでは嫉妬に見えます。でも、怒りに正義、倫理という外箱をつけることで怒りをぶつけることが正当化されると考えた人が多かったのが今回の炎上の背景と考えられます」

そうか、普段から怒りを抱えている人が増えたということなのだろう。
以前と比べて人々は怒りやすくなった気がするが、それはどうしてだろうか?

「私達が怒る理由は価値観同士の戦いです。自分の価値観に合わないことがあれば腹が立ちます。歩きスマホはダメと思っている人は、歩きスマホくらいいいじゃないかと思っている人には頭にきます。良くも悪くも以前であれば、社会全体の価値観は似たようなものでした。でも今は価値観が多様化したために、自分と違う価値観をよしとする場面に以前よりも多く出会う機会が増えました。なので、人は以前よりも怒りやすくなっています」

日清カップヌードルは昔からチャレンジしていた

実は、日清のカップヌードルが不謹慎とも思えるCMを作ったのは、今回が初めてではない。

1999年には、永瀬正敏さんが、ワーグナーの楽曲にのせて、ベルリンの壁崩壊の瞬間や王貞治選手の756号ホームランや、ロシアのゴルバチョフ書記長のペレストロイカの発表の横にいる…といったように、20世紀を象徴する出来事にデジタル合成して登場するCM「20世紀カップヌードル」が人気を博した。

1994年の映画「フォレスト・ガンプ」のワンシーンを思いださせるような演出だった。この時も、そんな歴史の瞬間の横で、俳優がカップ麺を食べていていいのか?と思った。面白い反面、ちょっとやり過ぎじゃないか?と当時32歳のボクは思った。

もしかして、日清サイドにはクレームがあったのかもしれないが、今のように炎上はしていない。というのも当時はまだ、FacebookもTwitterもなかったからだと思う。

「2ちゃんねる」でさえも、この年の5月に登場したばかりで、ネットへの書き込みは、まだまだ限定的な人のモノだった。アメーバブログが登場したのはずっと後の2004年だ。だから、現在のように、ネット上で大炎上ということはなかったのだ。

1999年当時、もし不満があれば、新聞に投稿するか?それとも直接文句の手紙を書くか、電話をかけるぐらいしか手段がなかった。実に面倒な作業だ。電話でのクレームは特に面倒だ。手間がかかる。

時代もあると思う。
「不謹慎」に寛大だったと思う。放送作家のボクが思うに、当時は今よりもずっとずっとテレビの中の表現が不謹慎だった。その頃、『オレたちひょうきん族』も『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』も終わっていたが、それでもテレビの中には不謹慎があふれていた。

そう、そういうことが格好良く思えた時代なのだ。

それが、いつの間にか、TwitterやFacebookなど、ネットメディアの発展とともに、リアルとは別世界の、意見や非難を好き勝手に言える空間が生まれたのである。

そして、視聴者が「好き」「嫌い」や「不快」などという事柄を自由に言える世界が構築されたのだろう。そこで、今回のCM中止だ。

実は、日清のCMが中止になったのは今回が初めてではない。
1990年代には、子豚が連れて行かれるCMが動物愛護に反するとして中止に。
もうひとつは、Mr.Childrenの曲にのせて少年兵が登場するCMだ。文字スーパーでメッセージが書かれているが、ちょっと分かりにくく、視聴者は少年兵を肯定するCMだと感じて非難。放送中止へと追い込まれたのだ。

そう、日清のカップヌードルは昔からチャレンジしていたのだ。
常に、先進的だった。
ただ、今回の件も含めて「挑戦」する姿勢には称賛を贈りたい。そして、これからもテレビCMなどでボクらを楽しませてほしいのだ。「さすが日清カップヌードル」と言わせるような、突き抜けた世界を見せてほしい。できれば誰も怒らせずに……。

次ページ 「2016年、新たに加わった「怒らせないCM」という制限」へ続く