長期的な関係を築く 深いコミュニケーション
富永勇亮(AID-DCC)
日々新しいバズワードが湧き出るインタラクティブ広告業界において、数年で消えていく用語は実に多い。「ブランデッド・エンターテインメント」というコトバもそのうちのひとつである。しかし、用語の流行り廃りとは関係なく、ロイヤリティーの高いユーザーと継続的なコミュニケーションを続けるためには、動画を中心としたブランデッド・エンターテインメントは効果的だ。
今回紹介する「SHIMANO TV」は、約500本近くもの動画コンテンツを、7つのチャンネルと20カテゴリーのスタイル別に配信、初心者からマニア向け情報までを提供する釣り専門の動画サイトである。公開当初のコンテンツは1本2時間もある既存の製品プロモーション用DVD10本だけだったが、定期的なユーザーアンケートの結果を反映して、コンテンツを少しずつ増やし、現在の動画数と非常に高く安定した視聴数を稼ぐ結果となった。その間、先駆的事例だった米国の「Bud.tv」などの多くの自社動画サイトは役目を終えていった。ユーザーを楽しませることに主眼を置いてエンタメ要素を強くし、コストとのバランスがとれなくなったものと推測できる。
では、なぜSHIMANO TVは4年以上にもわたり継続できているのか? それは次の4点が特徴ではないかと思う。「釣り=趣味性の高い商品性」、「TVやDVDなど既存コンテンツを流用したムリのないコンテンツ強化」、「ユーザーの意見を取り入れたサイト改良」、「長期的な成長計画」。爆発的な認知度向上や短期的な売上貢献を目指すのであれば、大量のコンテンツを配信し、広告の出稿も必要だっただろう。しかし、誰にでも楽しいエンターテイメントの標榜ではなく、必要な人にだけに役立つものを目指して、数年掛けてユーザーとの深いコミュニケーションへと結びつけたのである。広く伝えるのではなく、深く伝える。長距離を走るにはペース配分が重要である。(「宣伝会議」2011年3月1日号から)
※毎月1回掲載(全4回)、次回は2011年4月1日掲載予定
- [WEB MARKETER’S view]富永勇亮のWEBマーケティング注目事例(第2回)「訴求すべき商品にしっかりと向き合い 表現を考えるプロセス」
- [WEB MARKETER’S view]富永勇亮のWEBマーケティング注目事例(第1回)「確信犯!? ギャンブル的プロジェクトの行方」
(とみなが・ゆうすけ)
2000年エイド・ディーシーシー設立に参画。2010年、東京オフィスを開業、制作チームと共に企画・演出・プロデュースを行う。主なクライアントはAdidas、KDDI、JR東海、RICOHなど。
「WEB MARKETER’S view」バックナンバー
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