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コラム

原田朋のCHIAT\DAY滞在記 ~リー・クロウの下で365日~

世界を変えるのは「二人組」であるという考え方。

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すべてのクリエイティブは、二人組から。

仕事をする最少単位は何人ですか?と聞かれたら、たいていの人は一人、と答えるだろう。でもCHIATは、二人と答えるはず。二人とは、言葉のプロのコピーライターと、ビジュアルのプロのアートディレクターの二人組。世界の多くの広告会社のクリエイティブと同じだが、ここではあらゆる案件、グラフィックはもちろん、TVCM、インタラクティブ、インテグレートキャンペーンにいたるまでが、コピーライターとアートディレクターの二人組で生みだされる。だいたい、オフィスの部屋だって席だって、二人組単位で与えられているのだ。世界中から集まった、およそ40組の二人組が、チャンスをものにして、でっかいアイデアを形にしてやろう、と息巻き、日夜競い合っているというわけだ。

日本の広告会社のクリエイティブには、コピーライターとアートディレクターに加えて、CMプラナーという職種が独立してあるので(CMプラナーという職種は日本独自のものであることを皆さんはご存知でしたか?)、二人でTVCMを手がけるということは少ないかもしれない。またインタラクティブを得意とするクリエイターも独立した存在だから、二人でデジタルを手がけることも少ないかも。僕はコピーライター出身なので、コピーライターについて言えば、日本のコピーライター文化は、どんな「一行」のキャッチコピーを書くかを中心に発展してきたと思うし、ひと言で決める人、という感じ。ここにコピーをお願いします、と場所をあけて待たれていたりするし。

一方、ここCHIATのライターは、TVCMのコンテも基本は字コンテだし、それこそ、小説を書くように、ドラマチックな展開で、読んでワクワクする文章を書いて行くのだ。インテグレートだって、ソーシャルのクリエイティブだって、言葉でアイデアを書く。アイデアを記述するだけでなく、どんな風に世の中に広がって行くのかを、ワクワクするストーリーで書く。アイデアライターであり、ストーリーライター。最近の傾向ではシンプルに、ライターとだけ言うようだ。日本にいた時よりも、こっちにいるほうが、言葉を、文を書いてるーっ!って感じがしているかもしれない。

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オフィスの真ん中にある公園。アイデアを考えている2人組をよく見る。

もちろんCHIATには、デザイナーがいて、テクノロジストのチームがあるのだけど、コピーライターとアートディレクターが考えたアイデアを、形にして定着させていくプロフェッショナルであり、別の独立した職種という認識。かなり線引きがはっきりしている。ここでは「アイデア」を考えることが二人組の基本だとはっきりしている。「アイデア」と「定着/実施」はレイヤーが違うもの。僕がこっちに持ってきた数少ない本である『The Advertising Concept Book』(広告の教科書的な本)の表紙には、”Think Now, Design Later “と書いてあるのだが、本当にそんな感じ。そして、すべての領域のアイデアをコピーライターとアートディレクターでこなす分、勉強熱心だし、新しい情報環境とテクノロジーに対する貪欲さは、日本より強い気がする。

ただ、コピーライターとアートディレクターがすべてを解決し、創造する時代が今後も続くかどうかは、わからない。言うまでもないが、今後ますます、テクノロジーから、アーキテクト(構造)思考から生まれるクリエイティブが、要請されると思うので。

えらくなっても、二人組。

CHIATでもコピーライターとアートディレクターを統括するのは、もちろんクリエイティブディレクター。でも、クリエイティブディレクターでさえ、コピー出身とアート出身の2人組で仕事をしているのである。読者の方で、広告クリエイティブの仕事をされているあなたは、どんなスタイルで仕事をされているだろうか? ちなみに欧米では、二人組のままいろんな会社を渡り歩き、コピー&アート→二人組のアソシエイト・クリエイティブディレクター→二人組のクリエイティブディレクターと、会社を変わるごとにレベルを上げていく転職が少なくない。僕が、日本で初任以来17年同じ広告会社に勤めている、と言うと、全員が全員目を丸くして驚く。こちらでは、会社を変えてレベルを上げて行くのがふつうなのである。

見ていると、コピーライターとアートディレクターは、一方が「発散型」で他方が「集束型」というコンビが多いように感じる。あ、ちょっと難しい言葉じゃないですか?とコンビを組んでいるノゾミに言われました…えっと「ひろげ上手」と「まとめ上手」って意味です。僕らはいま、アメリカ人のマット(コピー出身)&ドイツ人のラファエル(アート出身)というアソシエイト・クリエイティブディレクターのコンビとがっぷりいっしょに仕事をしているのだけど、マットはいつも落ち着いていて、うんうんとうなずきながら話を聞いてくれて、

話すときはけっこう小声で、アイデアをまとめていくタイプ。ラファエルはムードメーカーで、大声で笑いながら、それいいぞ!おもしろいぞ!とエモーションをあらわにして、打合せをひっぱっていくタイプ。

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マット(右)&ラファエル(左)。僕らの面倒を見てくれている実質トレーナー。お礼に、ラファエルに一回の打合せにひとつ日本語を教えています(笑)。

僕らトモ&ノゾミのコンビはどうだろうか? CHIATでの僕は、コピーライターの肩書きである。僕は総合職採用で博報堂に入社してコピーライター配属となり、以来、どちらかというとグラフィック畑のコピーライターとして広告表現をつくることはもちろん、キャンペーン全体のベースになるコンセプトを出したり、企画書で筋を通したりという役目をするようになり、TBWA\HAKUHODOに移ってクリエイティブディレクターになってからは、一段とみんなをまとめる役になってきていたかもしれない。

ノゾミは、アメリカの美大を出て、日本でいったん広告関係でないメーカーに就職し、デザイン会社を経て、TBWA\HAKUHODOに入り、サイバーやインタラクティブ領域中心に活躍してきたアートディレクターである。僕がちょっと出したひと言から、彼女がぱーっとイメージを広げる力はとてもすごくて、僕がまとめきれないくらい広がったりする。僕が土台のコンセプトを考え、ノゾミがイメージをひろげて、最終的に僕が文章にまとめる。ふたりの脳のつくりが違う感じがして、これがいい組み合わせな気がしている。実はこのロサンゼルス滞在から仕事をするようになったのだが、このコンビをつくった弊社のCCOとECDは目がいいなあと感服する。人材のクリエイティブディレクションということなのだな。

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