小売りの常識を無視した独創空間
以前は、もったいないからという理由でバックヤードは持たなかった。在庫として裏に置いておくくらいなら売り場に置いておけばいいでしょって発想。なので、仕入れすぎってくらい売り場に商品は天高く積み上がるわけだ。そんな景色が自然と他の小売店との差異化になった。
それに加えて、売り場に入りきらない場合は天井からいろいろぶら下げた。おかげで天井はホッチキスの跡だらけ。でも、それもまた味だよねと言い訳して良しとした。当時は取引先も少なかったため、ろくなものが入らず、店長が仕入れた商品がひどすぎて箱を開けるのが楽しみだった。
「いらねえ~」と、ひとつ一つ丁寧につっこみを入れながら値付けをしていく。ふつうの店だったらゴミと言われそうな商品しか入荷されず、それをどこにどう出せば見てもらえるか、面白がってもらえるかばかりを考えていた。
稚拙な仕掛け お客様との対話
自分が入社した頃、よく覚えているのが、ラムネの販売方法だ。店の外でたらいに水を入れてそこにラムネの瓶を入れて、段ボールの裏にマジックで「ラムネ、冷えてません」と大きく書いて貼っていた。
くるくるバレリーナがまわる噴水という謎の商品が横に置かれ、音楽好きの店員が選んできたマニアックなハワイアンミュージックを流し、入り口近くでプラスチックの椅子に座らされたドラえもんのでかいぬいぐるみは完全に野生化し全体的にねずみ色になりながらも笑顔でウクレレを弾いていた。
そんな安っぽくて稚拙な売り方なのだけど、ぬるい水に浸ったラムネは飛ぶように売れていった。店内には中古の冷蔵庫があって、そこにも一応軽く冷えたラムネがあったが、びしゃびしゃのラムネの方ばかりが売れていった。冷たいのもありますよってレジで言っても、ほとんどのお客様が「別にそれでいいよ」と返してくる。しっかりやっていらっしゃる小売店さんには絶対に怒られるような素人丸出しの売り場。店員とお客様が向き合う関係っていうよりは、店員とお客様が並列に並んで、同じ景色を見ている、そんな関係性が成り立っていた。
安っぽい仕掛けではあったのだけど、どこかノスタルジックで、ひそかにアンチテーゼを感じさせる売り場は、ほんの一部のお客様だけではあったのだが特別なシンパシーを得ることができた。そんなびしゃびしゃのラムネを泥だらけの汚い手でお客様にレジで渡していたとき、こんなあやうい弱小店舗でも、なんとか生き延びさせていただけるのではないかと感じた、そんな瞬間であった。
次回は、ヴィレッジヴァンガードの品揃えについて紹介したいと思います。
「ヴィレッジヴァンガード」に関連する記事はこちら
関戸康嗣
ヴィッジヴァンガード営業企画部リーダー。
1999年ヴィレッジヴァンガード下北沢店に勢いで「入社したいんですけど」と言ってしまう。清貧の思想で薄給に耐えながらも、下北沢で文化発信の一端を担う。その後「3カ月以内に売上改善できなければ閉店する予定だから」と言われながら横浜ワールドポーターズ店で店長デビュー。馬車馬のごとく働いて3カ月後には全国最下位の店舗を全国トップへ。ここでだいぶ寿命が縮まる。以後、仕事のブレーキが壊れたまま、下北沢店店長、自由が丘店店長をはじめ、主要首都圏店舗の店長を歴任する。2006年から首都圏のエリアマネージャー、2011年震災後、東北エリアマネージャー。現在、本部にて、ヴィレッジヴァンガードのノウハウをまとめるプロジェクトのリーダー。最近では、他社の企業内研修やイベントでのPOPライティングセミナーの講師も務める。
「「ヴィレッジヴァンガードに学ぶお店づくり~こんなんだってあり~」」バックナンバー
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