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コラム

電通デザイントーク中継シリーズ

川村元気×山崎隆明の「インプットとアウトプットの方法論」【前編】

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映画プロデューサー的「企画の原則」

山崎:これだけヒット作を出して、まだ36歳って本当に驚きます。『電車男』は26歳のときですよね? なぜ、そんなに若くして作れたんですか。

川村:24歳の時に企画をする部署に呼ばれたんですが、実績のある先輩方と違って、自分には有名な原作を取ってこれる力もない、監督も知らない、芸能界とのコネもない。なら企画で抜け道を探すしかないというので、ネットの世界で映画のネタを探していたら電車男に出合いました。

山崎:先輩たちと戦うために、ネットや2ちゃんねるに注目したと?

川村:当時映画プロデューサーは40代以上がほとんどだったので、たぶん2ちゃんねるは見ていないだろうと。あと、いい先輩に恵まれました。僕が『電車男』をやりたいと言った時に、脚本の作り方やキャスティング、監督を見つけるのを手伝ってやるよと言ってくれた先輩が何人かいたんです。

山崎:ここで改めて、川村さんの考える映画プロデューサーの仕事とは何ですか?

川村:映画に限らずコンテンツは「普遍性×時代性」だと大昔から言われます。怖い、笑える、泣けるといった人間の感情が「普遍性」ですが、映画は特にお金を払って見るものなので、感情への対価がものすごく求められます。それに加えて、「なぜ今なのか」、つまりなぜ今この時点で公開するのかという「時代性」が求められます。

山崎:『電車男』では、「普遍性」が高嶺の花に恋をしたダメ男のラブストーリーで、「時代性」は2ちゃんねるやネット、ということですね。

川村:まさにそうです。もうひとつが、僕のオリジナルで「発見×発明」。面白いものを発見するのは企画のスタートですが、僕は、発見だけで作ってしまってはダメだと思っています。だから、発見したものを大事にしつつも、疑うプロセスがその後延々と続くんです。楽しいのは最初だけで、あとは苦しみというか、ひたすらそれが本物かの検証作業です。

山崎:ネガをポジにするため、足したり引いたりしていくということですか?

川村:ええ。200億円かけたハリウッドの大作映画に2億円の製作費で勝とうと思ったとき、発見だけでは到底太刀打ちできません。発見を補完する発明の柱を10本も20本も打ち込まないと。発明はキャスティングでもいいし、脚本を作っている局面で急に新しい要素が出てくることもある。それが揃って、ようやく前に進むことができるんです。

山崎:もしかして、すごく優柔不断に悩むタイプですか?

川村:すごく優柔不断で朝令暮改です。

山崎:自分の感覚に正直だということですね。その結果、『電車男』がヒットしたんですね。

川村:1本目で興行収入が37億円。26歳の時でした。だいたい調子に乗っておかしくなるパターンですよね。

山崎:でもそうならなかった?

川村:26歳なりに、この成功は怪しいと思っていたんでしょうね。実際、その後3年間ぐらい類似企画を求められて、迷いながらやっていた時期が続いたんですよ。求められてやるけれど、熱もないし、発見、発明もないからうまくいかない。これじゃダメだと開き直って、好き勝手にやってみたのが『デトロイト・メタル・シティ』です。それがうまくいったので、自分の好きなことを組み合わせていった方がいいんだなと分かりました。自分が面白いと思ったことには、何かしら、時代性や普遍性が引っかかっているはずなんです。面白い理由を人に後づけで説明しているうちに、その屁理屈が理屈になっていく瞬間があったりするんです。

次ページ 「企画のストック「違和感ボックス」」へ続く