コラム

デザイン思考の事業創造 〜関係性をデザインする、これからのブランド戦略〜

自動車のワイパーが動いたデータから、雨降りを知る 〜IoTによる産業構造の変化〜

share

1回目コラム:事業構造はカタチを変える-① トヨタが示した新ビジョン、モノづくりからサービスブランドへ
2回目コラム:物流と都市の概念を拡張する、トヨタの新ビジョン 事業構造はカタチを変える-②
3回目コラム:アマゾン、Uberとの協業で実現するトヨタの新構想 事業構造はカタチを変える-③

写真123RF

コラム1〜3回目では、トヨタ自動車のe-Paletteを例にして、今起きている産業構造の変化の究極のカタチを見てきました。

ここからは、これからの産業構造の変化を紐解く上で最も重要なテクノロジー、IoT、ビッグデータ、AI、そしてプラットフォーマーの出現に関して考えていきたいと思います。(以降、IoTビッグデータ、AIがシームレスに機能する時代のことを、「オートメーション時代」と呼びたいと思います。)

既存企業のオートメーション時代への対応は、現在の事業やサービスを起点とした変革では対応しきれない可能性があります。何故なら、今起きている変化は、かつて「移動という産業」において馬が自動車に取って代わられた変化と同様の抜本的変化が起きているからです。

馬を中心とした「移動産業」が自動車に置き換わっていく中で、自動車に対して馬がどれだけ対抗しようとも、既得権益を武器に自動車に対する規制をかけるくらいしか出来ることはありません。しかし、便利でより拡張性の高いサービスは生活者の指示を得て、既存の企業を駆逐していきます。

自動車が世の中に現れるまでは、誰もが馬の時代の終焉を疑わなかった様に、現在でも既存企業のシェアが脅かされることがあっても、新しいサービスにとって変わられると考える人は多くはないかもしれません。しかし、今起きているオートメーション時代に向けた変革では、既存企業のサービスを、同じ産業の顔つきをしたIT企業が取って変るプロセスにあります。

変革の対象は、大手の自動車会社ですら例外ではありません。コラム1〜3回目でも触れた様に、もしトヨタ自動車がオートメーション時代の変革に向けた対応をとらなければ、移動産業のイニシアチブはIT企業が握り、トヨタ自動車は精度の高い移動端末メーカーになっていくでしょう。さらに、自動車の主要な技術が内燃機関からモーターに変わる時代には、もはや優れた自動運転車両を製造する優秀な端末メーカーにもなり得ないかもしれません。

オートメーション時代に大きくシフトしていく中で、到来する可能性が高い変化や危機に、過去の価値観で立ち向かおうとする企業であれば、サプライヤーやパートナーも、将来性を期待することができません。トヨタ自動車がモビリティ・カンパニーへのシフトや、それが実現する社会、世界観を発表したことは、あらゆるサプライヤーやステークホルダーにとって、これからもトヨタ自動車と将来を共にしようと決断する材料になります。

これは自動車産業に限った話ではありません。様々な産業で起きている話です。企業がオートメーション時代の変化にどのように対応していくかを考えることも大事ですし、その考えを早々に発表し、ステークホルダーやパートナーに対して、未来のビジョンと事業の将来像を共有することも大切です。そうしなければ、既存パートナーは、新しい時代を共にする新しいパートナーを探し始めることになります。

オートメーション時代へ向けた未来のビジョンを考察する時に、現状を起点に考えてもイノベーションは起きません。どのようなシフトが起きるのか、一度極論で考えて、そこからバックキャスティングで現代と線を結び、いつまでに何が起きるのかを予測しながら、事業やサービスのビジョンをつくる必要があります。

トヨタ自動車が発表した「e-Palette」は、決してSFの話ではなく、移動産業が極論どうなり、それにより社会や生活がどう変わるかという仮説です。移動産業の進化により、自社や社会があの世界観まで変わるかもしれない、ということを前提とした時に、そこに向けて今から自社に何ができるのか、できない場合はどの様なパートナーと協働するべきなのかを考えることができます。その極論を考える上では、IoT、ビッグデータ、AIがもたらすオートメーション時代へのシフトの輪郭を把握し、自社が所属する産業の変革を極論で一度考えることが大切です。

では、これらオートメーション時代へのシフトに向けた鍵となる3つの要素「IoT」、「ビッグデータ」、「AI」について見ていきたいと思います。

「IoT」

IoTは、総務省情報通信白書平成27年版では以下の様に解説されています。

「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」ネットワークにつながる「ユビキタスネットワーク社会」は2000年代前半から構想されてきたが、(中略)近年、急速に現実化が進んでいる。パソコンやスマートフォン、タブレットといった従来型のICT端末だけでなく、様々な「モノ」がセンサーと無線通信を介してインターネットの一部を構成するという意味で、現在進みつつあるユビキタスネットワークの構築は「モノのインターネット」(IoT: Internet of Things)というキーワードで表現されるようになっている。
IoTのコンセプトは、自動車、家電、ロボット、施設などあらゆるモノがインターネットにつながり、情報のやり取りをすることで、モノのデータ化やそれに基づく自動化等が進展し、新たな付加価値を生み出すというものである。これにより、製品の販売に留まらず、製品を使ってサービスを提供するいわゆるモノのサービス化の進展にも寄与するものである。

(下線は著者)

 

「モノのデータ化や、それに基づく自動化」

写真123RF

IoTの概要を把握する上で一つポイントがあります。インターネットに繋がったモノとは、ネットにアクセスしてその他のモノを操作、制御したり、サービスを利用することを目的としたスマートフォンの様な操作端末というより、モノがインターネットに繋がることで、「モノを利用するユーザーの利用特性から得られる個人データを把握したり、そのモノが置かれている周辺の物理的状況を把握する為のセンサーである」と理解した方が、モノがインターネットに繋がるということのインパクトを正しく理解できます。

例えば自動車をインターネットに繋がった単体のセンサーとしてみた場合、自動車が取得できる情報は多種多量であることがわかります。
まず当然ですが、自動車自体が起動しているかいないか、自動車自体に不具合があるかないかを把握し、所有者に適切なメンテナンス状況を教えることができます。また、所有者がいつ自動車を利用し、何処に行き、どの様な運転特性があるかを把握することで、所有者がどの様な生活サイクルを持っているか把握できますし、運転の特性から所有者に最適な保険サービスを提供することもできます。センサーとしての自動車は、各車両が様々なデータを吸い上げ、それらデータは蓄積されていくことで大きなデータを形成します。

さらにそれらが産業の異なる別のデータと接続されることで、マクロとミクロのデータが融合し、俯瞰から詳細まで正確に構成されたデータがリアルタイムにアップデートされ続けます。例えば、車体の前後左右に設置されたセンサーは、道路の状況をリアルタイムに吸い上げてデータセンターに送ることができます。これらデータは、地図情報会社が提供する衛星等を利用して収集した大きなスケールの地図情報と合流し、マクロのデータ、ミクロのデータ双方で補完していきます。それらはリアルタイムにアップデートされ、従来の地図よりも詳細で、リアルタイムに地図情報を更新し続けます。この場合自動車は、地図情報をリアルタイムにアップデートするために世界中に配置された移動型センサーといえます。

例えば、ある1台の自動車のワイパーが動いていればそこは雨が降っている可能性があります。さらに、その自動車の周辺にいる自動車100台すべての自動車のワイパーが動いていれば、雨が降っている可能性は極めて高くなります。また、ワイパーの動くスピードがデータとして送られることで、小雨なのか、大雨なのかも把握することができます。それらのデータにより生成されたリアルタイムな気象情報と、気象衛星が提供する気象情報を接続することで、マクロとミクロを網羅するより詳細な気象状況をリアルタイムで生成することができます。この場合自動車は、気象情報をリアルタイムにアップデートするために世界中に配置された移動型センサーといえます。

つまり、モノのセンサー化は、モノの状態や利用者の行動特性を把握し、モノが置かれた物理的な空間情報を把握することで、その他のデータとも融合可能な汎用性の高いデータを収集することができ、それらデータが大量に収集されることで、マクロとミクロを補完する巨大なデータになりえるという考え方です。

その様な視点で見ると、自動車にセンサーを搭載した自動車会社は、先ほどの例だけでも詳細な地図情報を作ることができますし、詳細な気象データを作ることもできます。その他にも取得可能なデータを吸い上げると、あらゆるデータを融合して、様々なサービスを展開することが可能といえます。

また、地図情報会社や気象情報会社からすると、自動車のセンサーから吸い上げられたデータに接続することでより詳細なデータを生成することができるため、自動車会社は接続したいセンサーを大量に保有する会社といえます。つまり世界の巨大企業は、如何にしてデータを取得するための端末を世界中に設置していくかという視点に、競争が移っているともいえます。

データを取得することができるのは、この様なネットに繋がった電子機器だけとは限りません。寝室のベッドがインターネットと繋がりデータを収集すると個人の睡眠の状況を把握し、その蓄積は人類の睡眠の実態を把握することに繋がりますし、睡眠の質が低い人に対して適切な対応を提供することができるかもしれません。椅子がインターネットと繋がりデータを所得すると、分単位で人の体重の変化を集めることができ、適切な食事メニューの情報を提供し、長時間座ることで体のどこに負荷がかかるかを測定して、運動メニューを提供できるかもしれません。

この様に、世の中に存在するすべてのモノにはそこから吸い上げ可能なデータが存在し、そのデータはそのモノが所属する産業を超え、広く様々な使い方を持ち合わせています。それら異なる産業のデータが繋がった時に、その巨大データを支配する組織が、既存産業を支配する立場にいることは想像できます。

IoTがもたらすインパクトは、インターネットに繋がった商品をコントロールすることで自動化された社会を生み出すこと以上に、データを吸い上げることで世界中のモノや人の動きを把握し、その結果起きる産業構造の変化にあります。つまり、マーケティングの視点からIoTを捉えると、データが吸い上げられることで企業と顧客との関係にどの様な変化が生まれるかということが重要であることが解ります。

次回コラムでは、ビッグデータIによる産業構造の変化について考えていきたいと思います。

室井淳司
Archicept city 代表/クリエイティブ・ディレクター/一級建築士

新規事業・サービス開発、ブランド戦略、空間開発などにおいて、企業のトップや事業責任者とクリエイティブ・ディレクターとして並走する。表参道布団店共同創業経営者。広告・マーケティング界に「体験デザイン」を提唱。著書『体験デザインブランディング〜コトの時代の、モノの価値の作り方〜』を宣伝会議より上梓。2013年Archicept city設立。博報堂史上初めて広告制作職域外からクリエイティブ・ディレクターに当時現職最年少で就任。東京理科大学建築学科卒。これまでの主なクライアントは、トヨタ自動車、アウディ、日産自動車、キリンビール、トリドール、ソニーなど。主な受賞はレッドドット・デザイン賞ベスト・オブ・ザ・ベスト、アドフェストグランプリ、グッドデザイン賞、カンヌライオンズ他国内外多数。

 

Follow Us