「広告のフロンティア拡張は今」中村勇吾さん×三菱自動車工業「雲海出現NAVI」チーム座談会 - 2018ACC賞ブランデッド・コミュニケーション部門 Aカテ(デジタル・エクスペリエンス)シルバー受賞作品


【座談会】
中村勇吾さん(tha/代表取締役、デザイナー) *2018年度BC部門審査委員
井手康喬さん(博報堂/クリエイティブディレクター、コピーライター)
宇佐美雅俊さん(TBWA\HAKUHODO/コピーライター)
佐藤裕香さん(AID-DCC/アシスタントプロデューサー)
橋爪慎一郎さん(博報堂/クリエイティブディレクター)
山中雄介さん(AID-DCC/プロデューサー、プランナー)

2019 59th ACC TOKYO CREATEIVITY AWARDSが6月3日にエントリースタートしました。中でも、昨年新設され盛り上がりを見せたのが、「ブランデッド・コミュニケーション部門(以下、BC部門)」。同部門の審査委員が、メダルの色に関わらず「これが好き」という基準で選んだ昨年の“This one”作品のクリエイターと本音トーク! その作品、どうやって生まれたのよ? そしてぶっちゃけ、この部門どんな感じよ?

左から 佐藤裕香さん、山中雄介さん、宇佐美雅俊さん、井手康喬さん、橋爪慎一郎さん、中村勇吾さん

現代版ミシュランで仲間を増やすプロジェクト

中村:「雲海出現NAVI」(以下、雲海ナビ)は単純に、雲海見たいなって思わされました。同じ場所でも時間によって価値が変わる。海でも、初日の出の時と普通の時じゃ違うじゃない。偶然出るものである雲海を目指して行くという概念。価値のある時間に行きたいって思いましたよ。

みなさん:ありがとうございまーす!

雲海出現NAVI

橋爪:シンプルな「行きたい」とかいう気持ちに応える、それがよかった。

発端は、ウェザーニュースで働く後輩が“外でやる種目のオリンピック競技の、金メダル貢献に関する気象データ”という仕事をしていたことです。シンクロナイズドに風が関係するとか、マラソンに暑さがどう関わるかというところで、気象データが使えるということを広げて。

井手康喬さん(博報堂/クリエイティブディレクター、コピーライター)

井手:三菱自動車さんのブランドはSUVが多いので、遠くに行く機会をもっと増やしてほしいとか、車を使う機会を増やしてほしいというところから始まりました。遠出をもっと楽しくするようなツールができないかなと。車を持つ人が休日にどこに行って何を見たいかというデータがあって、3位に雲海があった。

そのウェザーニュースの話があったので、雲海を予測できればと。デジタルの基盤があるのなら、サービス化してみようかというところから具体的に始まったんですよね。

宇佐美:ミシュランというタイヤの会社が、タイヤを使ってもらうためにレストランガイドをつくりました。そのレストランには車で行くよねと。雲海NAVIは三菱自動車さんの現代版ミシュランかなと思っていて。車を売らんかなという広告が嫌われるなかで、間接的なアプローチで車の楽しさを訴えられるようなものをつくれないかというのがありました。

中村:俺勝手に、ミシュラン伯爵という人がいてグルメなんだと思ってた。
最初に雲海NAVIを見た時は、広告としてではなくて普通に「あー雲海かあ、いいサービスだなあ」と感じたんですよね。後から見たら三菱自動車、そっかそっか、頭いい人がやってるんだなと(笑)。“広告コンテンツコンテンツ”していないよさがありますね。

井手:「週末探検家」とネーミングしているんですけど、車を売るということと別のところで活動を始めようと。続編がありまして、今年は令和の初日の出を予測するサービスをやっています。あとは土日のキャンプイベント。お客さんを増やすというより、仲間になれるようなプロジェクトとして始めたのが最初です。

今度は、松尾芭蕉の詠んだ景色を見に行こう

宇佐美雅俊さん(TBWA\HAKUHODO/コピーライター)

宇佐美:今年のACC賞にも続編を出品しています。「古典絶景NAVI」という、古典文学と気象データを掛け合わせたもの。松尾芭蕉の感動した景色を見に行こうとか、在原業平が詠んだ絶景を見に行こうという、定性的なものを気象データという定量的なものと現代のテクノロジーを組み合わせることによって、絶景を見に行こうぜという行動につなげてもらう。

「ようよう白くなりゆく山際」って小学校で習う有名な言葉だけど、「それどんなだよ」というところから発想しました。「それ、見たくない?」と。当時詠まれた気象の条件や時間を定義して、確率として再現したらおもしろいんじゃないかと。

中村:これ、本当に当たるんですか。

橋爪:天気予報並みの確率で出ますよ。雨の確率60%と言われると、人によって捉え方は違いますけど、だいたいそんな感覚で出ると思ってもらえれば。

井手:すごい緻密なデータを持っているんです。地形のデータがあって、こういう窪みの所に冷気の吹き溜まりができて、そこに暖かい空気が流れ込むと出るということが予測できる。

宇佐美:公開して終わりじゃなくて、実際に行った人のフィードバックをもらうことで精度を上げています。ウェザーニュースさんも普段の天気予報から、200万人の会員からのフィードバックで精度を向上させていて、そのシステムをそのまま雲海にも持ってきました。

中村:これに従って出かけて、実際に雲海を見ることができたら確実に絆ができますね。

井手:去年、審査委員の橋田和明さんに言われて気づいたんですけど、“ガッカリを減らすサービス”だと。

例えば出現率が20%だと見たら、行くのをやめようと決められる。その人にとっては、わざわざ行ってガッカリするということを避けられるじゃないですか。

中村:行きました?

山中:秩父だけ、ローンチした後、嫁と行きましたね。80%の時に合わせて。

中村:バグチェック的な。

山中:(笑)いや、見られるかなと。ありました。

井手:僕も宮崎の高千穂峡に行った時やったんですけど、42%で。42%っぽい雲海が出ていました。遠くのほうにちょっと薄く……。

(笑)

中村:こういうの、カーナビなどの汎用的なサービスの中にあるといいな。広告って予算はあるから頑張って作って、結構いいのできるじゃないですか。でもやっぱり最終的には広告の中に閉じちゃうから、もったいないなといつも思うんですよね。

橋爪:少なからずこれは閉じずに継続することで、その心意気は今日まであるんです。

次ページ 「神経が拡張する・知覚ができる・見たくなる・行きたくな」へ続く

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