カンヌ。もっと本質へ。
さて、先日パンデミックの影響によって2年ぶりの開催となったカンヌが終わりました。改めてカンヌは広告ビジネスやクリエイティビティの可能性を示してくれる場だなと感じます。それと同時に、パンデミックという逃れられない時代の影響、そしてSDGsに象徴される様々な社会課題の加速を受け、より本質的で実体のある方向へとアイデアが向かっている印象を受けました。
特に個人的に強いアイデアだなあと思ったものをいくつかご紹介したいと思います。これらを眺めてみることで、ブランドパーパスについて考え始めるきっかけになるかもしれません。
まずは、マスターカードの“True Name”。日本もそうですが、いわゆる男性的な名前、女性的な名前というのが存在しますよね。ですが「男性から女性」もしくは「女性から男性」へと性自認を変えたトランスジェンダー当事者の場合、性自認とクレジットカードの名義から受ける性の印象が一致しない場合があるわけです。しかし、今まではカードの名前を変えることはできなかった。この“True Name”というアイデアは、自分のジェンダーアイデンティティと合致した「本当の名前」でカードをつくれるようにした、言ってみればそれだけのアイデアです。
しかし、マスターカードというブランドがずっと掲げてきた“Priceless = お金では買えない価値”を、ジェンダーアイデンティティという現代的な社会課題と重ね合わせた時、「果たして、これ以上にマスターカードが行うべきアイデアが存在するだろうか?」と思えるほど、必然的で大きく強いアイデアに感じました。もちろん、それを現実にしたというエージェンシーとクライアントの実現力も凄まじい。
大手ビールメーカーABインベブのオーガニックブランド「ミケロブ ウルトラ」の“Contract for Change”も、秀逸です。「農家としての矜恃、そして農地の未来のためには、本当は質の高いオーガニック麦芽を生産したい。でも、オーガニック農法に転換してそれが軌道に乗るには何年もかかるから、生活のためには今の大量の農薬を使った大規模農法をやめられない」という農家のインサイト。それに基づき、オーガニック麦芽へと不安なくシフトできる仕組みそのものを構築した、支援スキームのクリエイションです。
もうひとつは、王立オーストラリア造幣局の“Donation Dollars”。キャッシュレス化の進行によって人々がコインを持たなくなってしまった結果、人々が募金をしなくなった。その結果、全国的に募金額が減少し、多数のNPO/NGO組織が打撃を受けている(いやあ、面白い課題の発見!)。この問題を解決するために、「寄付専用の貨幣」を大量につくり、流通させたというアイデアです。しかもそれを造幣局がやるという……。こちらも、シンプルで素晴らしいな、と思いました。
ではなぜ、これらのアイデアを私は好きなのだろうか? 考えてみると、共通した3つの理由があります。
「燃えない、スベらない。パーパス・ブランディングの極意とは」バックナンバー
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