コラム

燃えない、スベらない。パーパス・ブランディングの極意とは

時代のレンズと、ブランドの存在意義。加速する、“Say”から“Do”へ

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ますます、“Say”から“Do”へ。

ひとつは、“Say”ではなく“Do”。これはここ数年の潮流だと思いますが、良質なメッセージを発信する=“Say”で終わるだけではなく、仕組みそのものを変えたりつくったりという本質的な行動=“Do”を伴った戦略やアイデアが目に留まります。

もちろん、“Say”がコアになった素晴らしいキャンペーンも、たくさんあります。例えばダヴの“Courage is beautiful”。今、本当に美しいものは何か?それは、新型コロナの最前線で勇敢に戦い、マスクやゴーグルの生々しい跡がついた医療従事者の素顔。それこそが今、崇高で美しいものではないか? ダヴがずっと掲げてきた“Real Beauty”に、時代という変数を掛け合わせ、美しさを再定義するキャンペーンですね。

また、パンデミックで皆が孤立している今、スポーツの持つ力をセレブレートするナイキの“You Can’t Stop US”というムービーも、そのメッセージとともに「既存のフッテージだけでこんな新しいものをつくるのか!」と驚きました。これも本当にすごいですし、実際にそれぞれグランプリを獲得しています。

しかし、個人的な好みなのは、やはりマスターカードやABインベブそしてオーストラリア造幣局のような戦略とアイデア。つまりメッセージを“Say”するだけに留まらず、“Do”にまで踏み込んだものに、我々のビジネスやクリエイティビティの可能性を感じます。

願望と現実のはざまに在る、強いインサイト

2つ目の理由は、強いインサイト。結局、これだなと。対象がトランスジェンダー当事者にせよ、麦芽農家にせよ、キャッシュレスで硬貨を持たなくなった人にせよ、どれも「願望」と「現実」の間にある強いインサイトを発見していること。ちなみにマスターカードの“True Name”は、自身がトランスジェンダーでもあるひとりのクリエイティブスタッフが、クレジットカードを使う時の個人的な体験をもとにしたインサイトをチームに共有したところから、アイデアが生まれていったそうです。優れた文学作品がそうであるように、ひとりの人間の深い気持ちに潜り込むことが多くの人の心を動かす洞察へとつながっていくのだなと。

“Donation Dollar”の「募金専用のコインをつくる」というアイデアも、「人は強い動機があるから募金するのではなく、たまたま小銭を持っているから募金するのだ」という、極めて人間的な行動原理、ヒューマンインサイトに基づいたアイデアだと感じます。

ちなみに、これも担当者の個人的な話から始まってるんじゃないかなと勝手に思っています。「なんか最近小銭まったく持たなくなったよね。募金しなくなってない?コンビニのレジの脇にある募金箱とかさ(オーストラリアもレジ横に募金箱があるかは知りませんが)」「あー、なんか分かる」「ちょっと調べてみる?」みたいな話から、「実はキャッシュレスは募金額の減少につながっている」という問題の発見に行き着いたのではないか。

王立オーストラリア造幣局発行の「DONATION DOLLAR」。コイン中央の緑色の部分は、使われる度に(=誰かの役に立つ度に)摩耗し、金色の波紋が浮かび上がる仕組みとなっている。

いずれにしても、極めて個人的な体験や、ひとりの人間のちょっとした実感、そして普遍的な「人間の性(さが)」への洞察から、強いインサイトに至るのは、よくあることです。

次ページ 「時代というレンズを通して見える、ブランドの存在意義」へ続く

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