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コラム

世界で活躍する日本人マーケターの仕事

世界で活躍する日本人マーケターの仕事(ウォルト・ディズニー・カンパニー 加藤匡嗣さん)前篇

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面白い「体験」をつくれば、それが広告の代わりにもなる

— 広告も、マーケティングも、イノベーションも、プロダクトデザインにも根本的な考え方に違いはないということでしょうか?

違いはないと思います。むしろ、今はマーケティングと体験の垣根がなくなってきていると感じます。俯瞰で見ることができる今の立場になって感じるのは、コンシューマーが求めているのは、それらすべての社内部門、そしてセールスなどの部門が一体となって作り上げた活動が融合して生み出される体験であるということ。

そして、魅力的な体験は広告の役割も果たします。好例がUberでしょう。私がUberの存在を知ったのは、2012年頃にグローバルのマーケティングリーダーが集まる会議でサンフランシスコに行った時のことでした。

タクシーを捕まえようとしたら同行した1人が「タクシー呼ばなくていいよ。Uberを使うから」と言いました。その時、居合わせていた10人のうち、私を含めて8人はUberの存在を知りませんでした。

自分たちのいる場所に、良い車が来てくれて、そして目的地まで送ってくれて、さらに車内で支払いをせずに、一連の体験が終わった。とても衝撃的な体験でした。そして知らなかった8人全員がすぐにUberのアプリをインストールして、自分も使い、そして次の人に伝えていくという流れが生まれました。これは広告ではありませんが、体験が生み出した広告とも言えると思います。

広告をつくるとか、マーケティングのキャンペーンをつくるとか分断して考えるのではなく、それらが合体していくイメージです。おもしろい体験をつくれば、人が誰かに話してくれるわけです。

— 魅力的な体験はどのようにつくられるのでしょうか。

私は今、プロダクトデザインを見ていますが、プロダクトをつくるデザイナーはデザインだけを考えるのではなく、とにかくUXに拘らなければなりません。私が考える、一番よいUXとは、何も感じさせないUXです。常にストレスがない、スムーズに操作ができる体験で、ユーザーが「次にこうしなきゃと」考える必要がないものを、つくれるかが求められます。

そのストレスがないUXがあった上で、さらに他のブランドとは違う独自の体験という視点も加えていきます。そうすると、広告やマーケティングの役割は変わっていくと考えており、そのブランドにどれだけの意味をつくれるかになります。ディズニーの場合には独自のコンテンツに、ブランドが持つ意味が合わさってプロダクトの価値が生みだされていきます。広告もコンテンツもブランドもすべてのエクスペリエンスがつながって、ユーザーには一連の体験として受け取ってもらう。もちろん、その一連の体験にマネタイズする機会を見つけ、最適化していくことも重要となる。これが今アメリカで成長している企業が取り組んでいることです。

私たちもデザインを進める上で、セールス、エンジニア、マーケティング、コンテンツ制作部門などさまざまな立場の責任者が一緒に話すということが自然に発生する環境になってきています。こうした立場の人たちが分断してはやってはいけないと考えています。

— 顧客の課題を解決するために日々気を付けていることは何かありますか?

常に意識しているのは「ディコンストラクション」です。先ほどお伝えしたコンシューマーの課題とインサイトを合体させて機会をつくることがコンストラクションですが、その逆の方法を行おうということです。

例えば、面白い広告を見た時に、どのようなオリエンだったのか、何が課題で、何のインサイトをヒットしようとしたのかを想像するのです。例えば、先のように「Uberってすごいな」と思ったら、何の課題を解決しようとしたのか、インサイトは何かをいつも自分の中で聞くようにしています。

それに似たようなことで、常に人の意図を考えるようにもしています。例えば、新しい部屋に入ったとき、部屋の周りを見わたして、「なぜこの壁の色にしたんだろう?」「どうして天井をこんな形にしたんだろう?」と考えるようにしています。そこには必ず建築家の意図があるはずで、その意図を類推するようにしています。

— アメリカのコロナパンデミックを受けて、気づかれた変化はありますか?

多くの人が「今までできない」と思っていたことが、実際にはできたということが証明されたと思います。仕事はオフィスの外でもできるとか、会議はオンラインでもできるとか。またこうしたインタビューもそうですよね。今までなら誰も考えなかったと思います。私が日本に行くか、アメリカに来てもらわなければ取材はできないと考えていたと思います。

こうした環境が日常になったことが大きな変化。その上でこの変化を受けて、今後に活かせるかがポイントだと思います。コロナが終息したら結局は、みなが会議室に集まって数時間の会議をするような状況に戻ってしまっては意味がないと思います。

私の仕事においていえば、ストリーミングでコンテンツを見るスタイルが急激に浸透しました。これまではアメリカではケーブルテレビに加入して、自分が見たいチャンネルが入っているパッケージに料金を払っていました。一番安いパッケージが40ドルくらい、さらに追加で見たい番組があれば追加料金を払うため、100ドルを越える月額を払うことが一般的でした。

一方でストリーミングでは見たいチャンネルやメディアだけを選んで、月額5ドルや10ドルで視聴することができます。このストリーミングへのシフトが起こっている中、コンテンツの配信の考え方も変わってくるはずです。

玉井博久

広告会社側(リクルート、TUGBOAT)のクリエイティブと、広告主側(グリコ)のブランド構築の両方の経験を生かして、デジタルを活用した顧客体験(CX)を手掛けカンヌライオンズなど受賞多数。著書に『宣伝担当者バイブル』(宣伝会議)、『「売り方」のオンラインシフト』(翔泳社)。2015年より5年連続シリコンバレーに、2018年より3年連続CESに、深圳、イスラエル、また米中のテックジャイアント本社に足を運び最新のデジタルテクノロジーを視察。得られた知見をマーケティング、Eコマース、コンテンツプロデュースに活用。シンガポールにてASEANのECビジネスを2年で10倍以上拡大させる。2012年より日本のポッキーの、2016年より全世界のポッキーの広告を統括。ポッキーは2020年に世界売上No.1*として、ギネス世界記録™認定。

*タイトル:最大のチョコレートコーティングされたビスケットブランド/2019年 年間世界売上高 推計$589,900,000 (国際市場調査データによる)
国際市場調査のデータ分類上、クリームでコーティングされたビスケットも含まれる