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コラム

残したい日本の商品・サービス データブック

残したい日本の商品・サービス データブック2021<ドット道東 中西拓郎 編>

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回答者: 著者:中西拓郎(ドット道東 代表理事)

なかにし・たくろう 1988年生まれ、北海道北見市出身。防衛省入省後、2012年まで千葉県で過ごし、Uターン。2015年『道東をもっと刺激的にするメディア Magazine 1988』創刊。2017年
オホーツク・テロワール理事・『HARU』編集長就任。2019年5月に道東の主体的な活動を促す共同体「ドット道東」を設立。ローカルメディア運営他、編集・プロデュース・イベント企画など、幅広く道東をつなぐ仕事を手掛ける。

 

コロナ禍、デジタル化、働き方改革など……多くの変化が急速に進む中で、需要が縮小している分野は多くあります。マーケティング、クリエイティブの専門家の方々が、今応援したい、救いたい商品・事業を紹介する本リレーコラム企画。その商品・サービスを救う手だてはどこにあるのか。
第2回は、北海道、とりわけ道東のプロジェクトに多く携わる中西さんに、地元で応援したい商品・事業から、継続性を担保するためのアイデアを紹介いただきました。

FILE③ 「聖地」は付随するものすべてが訴求ポイントになる可能性

――中西さんが応援したい企業・商品・サービス

「鮭」

 

 
北海道、とりわけ道東の成り立ちに「鮭」は欠かせない食資源です。鮭が獲れる場所に集落ができたり、鮭が獲れなくなったから他の産業が興ったり……栄枯盛衰のストーリーに欠かせない存在となっています。
近年は鮭の漁獲量が減って、漁にまつわる人はもちろん、鮭を取り巻く加工業者や資材業者にも影響を及ぼしています。
では、大切な食資源を守るために、そして生態系保全のために何ができるでしょうか。ここでは、消費者との接点づくりなど、食べるだけではない貢献を考える必要があります。
 

歴史と紐づけ、“周辺”を楽しむ

鮭の漁獲量自体が減り、産業自体が力をなくしていっている中で、その鍵は「観光」であると考えます。
鮭を取り巻く歴史やストーリーにスポットを当てると、ダイナミックな北海道の歴史を知ることができます。現に根室海峡は「鮭の聖地」として日本遺産にも選ばれました。現地に行けば鮭にまつわる商品や観光スポット・アクティビティなど、背景や文脈を知ることでさらに楽しめる魅力が存分にあります。
 

鮭の聖地・根室海峡では川下りなどのアクティビティも楽しめる。

「鮭」の付加価値は、このような結びつきの強い場所だからこそ生まれます。鮭の聖地で鮭と共に生きてきた地域だからこその生業を、現地で楽しんでもらうことができるかたです。鮭に付随するものすべてが訴求ポイントに変わり、観光で現地を訪れお金を落としてもらうことでビジネスも市場も多角的に広がります。
そしてそれらに触れ、知ってもらうことは結果的に鮭の環境保全にもつながっていくと考えます。鮭はアイヌ語でカムイチェプ(神の魚)と呼ばれ、余すところなく食べられたといいます。食べ物としてだけではなく、鮭の歴史や文化も余すところなく味わっていただきたいです。
 

 

FILE④ サステナブルな地域商品に可能性

――中西さんが応援したい企業・商品・サービス

「流氷硝子」

 

 
オホーツク地方の網走市の硝子工房、流氷硝子館でつくられている「流氷硝子」。流氷、雪、氷、自然が生み出す美しい形がガラスで表現した商品です。
オホーツク海の豊かな海産資源は毎年流氷が運んでくる大量のプランクトンによって成り立っています。この流氷硝子は全国から寄せられた廃蛍光灯を原料につくられています。繰り返し製品として生まれ変わり、オホーツクに欠かせないサイクルになっています。
ただし、地球温暖化によって流氷の量も減っていることから、オホーツクの海産資源にも影響が出る懸念もあります。司馬遼太郎『街道をゆく
オホーツク街道』に「古代人のくらしにとって、オホーツク海ほどの宝の海は、この地上にはなかったのではないでしょうか」という一節があります。流氷硝子はそんな世界一豊かな海といっても過言ではないオホーツクの魅力を体現した商品だと思っています。
 

SDGsの関心の高まりとの掛け合わせ

この企業では流氷硝子を手に取ることで、リサイクルや環境問題についても考えてほしいという思いを持っています。
現に商品は全国から集まった廃蛍光灯を(それも同じオホーツクに廃棄場があります)原料に商品をつくっていることからリサイクルやCO2の削減にも寄与していて、SDGsの観点からも優れた商品であると言えます。
 

流氷硝子は全国から集まった廃蛍光灯が原料となっている。

使わなくなった製品の回収も行っていることから製造から廃棄まで地域の中で循環することができると言えます。
一方で、地域に住む人にとっては、昔から当たり前に身の回りにあるものであるため、流氷の価値や現状について広く認識されているとは言い難いのが現状です。流氷硝子のサイクルを通じて、流氷のありがたみについて学ぶことは、良い機会になるはずです。
今後SDGsやサーキュラーエコノミーが社会全体に浸透するにつれ、オホーツクの地域内にそういった商品がすでにあるということは、いい兆しになるのではないでしょうか。 
地域に住む人が、これまで域外の商品を使っているものから代替し、地域でつくられている循環型商品に目を向けてもらえれば、域内でもまだまだ需要は見込めるはずです。