語彙力を消失させる「いい」映画
中村:このお二人の新作映画『かそけきサンカヨウ』が、先日(10月15日)公開されました。どうですか、澤本さん?
澤本:僕は監督が前回いらっしゃってから少し経ったタイミングの時点で、見せていただいたんですけど……
中村:あっ、そうなんですね!
澤本:そうそう。まず、全体的に僕の好きなトーンなわけですよ。あと出てる役者さんも僕の好きな人だらけ。「なんで、こんなに好きな人がいっぱい出てるんだ?」って思った。もちろんメインを張られる志田さんも含めてですね。
志田:ありがとうございます。
澤本:お父さん役でいらっしゃる井浦(新)さんも、めちゃくちゃ好きな役者さんです。あと菊池(亜希子)さんも好きだし……。好きな役者さんが共通している監督さんと違う監督さんといるんですけど、今泉さんは「この人好きだな」って僕が思う役者さんが集団で出てる場合が、すごく多いんですよ(笑)。
昔、大林(宣彦)さんのつくった石田(ひかり)さんの映画がすごく好きで、今回はその雰囲気を生かした石田さんが出てきていてびっくりしました。予想してなかったわけですよ、石田さんが出てくるって。それでウワーっと思って。あれ、ダメだ……。とても広告クリエイターとは思えない。
今泉:一番いいですけどね。気持ちで話してくださってるみたいな。
澤本:なんで、こんな語彙力がないんだろ……。
中村:いやいや! 全然分かりますよ、分かります!
澤本:すみません……。
中村:やっぱり世界観がむちゃくちゃいい。『街の上で』(2019年)でもそうだったんですけど、「こんなことあったな」「こんなことがあってほしかったな」という世界がそのまんま、まじりっけなしで描かれている感じ。
澤本:そう。見ている自分の年齢を忘れるんだよね。
中村:そうですね。ちょっと繊細すぎて描写に困るんだけど、もう感想としては「いい」に尽きる! なんか…「いい」っていう、良さなんですよね。
澤本:それ、一番ラジオに適してないじゃない(笑)。
一同:ははは。
中村:そうそう。ちゃんと描写して説明しろよと(笑)。でも、これ絶対見てください。「いい」ですから。みんな、第一声は。
澤本:若い方もそうだけど、僕ぐらいの年齢で見ていると、自分が20代のような気がして。心が痛かったりするのも、自分がそれこそ高校とか大学の頃に映画を見ていて、「痛いな」って思ったのと同じような痛みを今でも感じられるんだっていう。なんでしょうね……健康診断として見ていただければいいかな、と思うんですよね(笑)。
一同:ははは。
中村:そうですね!心の健康診断。改めて監督の方から、今回の『かそけきサンカヨウ』のあらすじを教えていただいてもよろしいですか。
今泉:志田さん演じる、陽という高校1年生の女の子が主人公です。彼女がまだ幼いときに両親が離婚して、画家をしている母親が家を出ていきます。普通は小さい頃に家を出ていったりしたら、憎しみだったり、「愛情がなかったのかな」といった葛藤があると思うんですけど、もちろんそういう気持ちもあるけれど、それだけじゃなくて、陽も美術部に入るなど、画家としての母親に憧れも持っていたりする。
そういう両方の気持ちがある主人公。ある日、父親が再婚したことで2人で過ごしていた穏やかな日常が終わりを告げます。生みの母親への思い、新しい母親や連れ子の4歳の妹といった、新しい家族へモヤつく気持ちを抱えつつ、同級生の男の子との、恋愛なのか恋愛未満なのか…という微妙な気持ちのやりとりもあります。
その男の子も家族の悩みを持っていたり、連鎖していくような感じ。山場も大きい山よりも小さい山だったり、他の人にとっては取るに足らない葛藤みたいなものをたくさん積み重ねていった映画、ですかね。
中村:うん、そうですよね。まさに全部に共感軸がある。本当に悪い人、全てを憎んでいる人は出てこないというか……。みんな、それぞれ何か複雑な思いがあって、人間模様が全員超リアル。いや~、これ難しいっすね! めちゃくちゃいいって!
今泉:分かりやすくないんですよね。この映画に限らず、俺の映画って、毎回宣伝に困るみたいなことが起きてて(笑)。「●●がこうなって、こうなります!」じゃないので……。だから、演じるのもすごく難しいと思っています。志田さんは実は映画でご一緒するのは3度目で、主演で出ていただくのは初めてでした。
中村:今泉監督映画作品は3度目!
今泉:はい。なので、そういう話を志田さんに聞きたいっすよね。
中村:聞きたいですね。キラーパスありがとうございます!
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