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「日本らしさ」の見直しにも通じる―『世界の広告クリエイティブを読み解く』によせて(鈴木健)

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『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。今回は、ニューバランス ジャパンの鈴木健さんが『世界の広告クリエイティブを読み解く』を紹介します。

世界のクリエイティブを文化的に解釈

世界の広告クリエイティブを読み解く』山本 真郷・渡邉 寧 著
6月27日発売 定価:2,420円(本体2,200円+税)

毎年初夏に南仏で開催されるカンヌクリエイティブフェスティバルは、エージェンシーやクリエイターのみならず、世界のブランドが注目する世界で評価される広告クリエイティブを選出する一大イベントです。みなさんも経験があるかと思いますが、そこで毎回表彰される広告クリエイティブについては、もちろん米のみならず欧州、南米、アジア、アフリカなど全世界にわたり、正直その広告を見て「なるほど」と思うものもあれば、「へえー」と半ば驚嘆と疑問が入り混じった声が出てしまうものまで様々なものがあります。

山本真郷氏と渡邉寧氏の『世界の広告クリエイティブを読み解く』は、そんな後者の「わかったような、わからないような」広告の理解に、一筋の光をもたらす本です。

同書は、オランダの社会心理学者のヘールト・ホフステード博士が異文化理解をするために測定した「6次元モデル」を用いて、60の事例をもとに、世界の広告クリエイティブが前提としている文化における価値観を紐解くことで、各国の広告表現をよりわかりやすくしてくれています。

以前自分のコラムでもホフステード博士の6次元モデル(6D)を取り上げたことがありますが、広告クリエイティブを理解するためには、その国の文化において人々が何を社会の常識として感じて行動しているかを把握することが大切です。ホフステードの6Dでは、「権力格差」「集団/個人主義」のような人間関係における政治的な力学に関するものもあれば、「男性性/女性性」「短期/長期志向」のような、社会で評価されるのか非難されるのかの行動規範やパターンに関するもの、「不確実性の回避」「人生の楽しみ方」のように社会的に常識とされる未来や生き方についての態度についての基準もあります。

世界の文化の中での「日本」の立ち位置がわかる

日本はよく欧米と比べて集団主義的で「空気を読む」社会などと言われますが、それはあくまで欧米と比べてであって、世界のなかでは日本はどちらかというと真ん中です。むしろ集団主義的な国には中国やアジア、アフリカの国があり、それは日本の大きな特徴ではありません。2021年にカンヌのエンタテインメント部門でグランプリを受賞した「結婚に揺れ動く若い女性の心を描いたショートムービー」の事例を見ると、同じアジアの国の台湾の広告のなかに、日本と似ていながら、より集団主義的な解釈が必要な点がうかがえて興味深いです。

書籍紙面より

 

また、日本はマッチョではなくソフトな文化と思われていますが、世界トップの「男性性」の高さです。男性性が高い文化では、とにかく「勝ち負け」にこだわり、男性と女性の価値が異なることを強調します。マクドナルドとバーガーキングの事例で「マクドナルドに対する隠しコメントに“日本らしさ”をみる」で解説されていますが、勝ち負けにこだわった隠れたメッセージなどに、日本の特徴がうかがえます。

また、日本の読者は理解すべきなのは、ホフステードの6次元モデルにおいては、日本は世界の中でも特異なポジションということです。6次元モデルの組み合わせの例として、「メンタルイメージ」というパターンを提示していますが、日本は日本以外の国にあてはまる国がない唯一のパターンです。それは、ほかの国からすれば広告でのクリエイティブがより「わかりにくい」または「共感しにくい」ということでもあります。

その意味で日本の広告クリエイティブで参考になるのは、日本にはない「女性性」の高いフランスの事例かと思います(同書には多くの仏の事例がありますが、特に日本人にとってとても有意義だからでしょう)。米英と同じく個人主義的でありつつ、わかりにくさを厭わない知的なアプローチをもちながら、「女性性」の持つ弱者の視点、関係構築やネットワークなどの勝ち負けではない軸を強調したフランスの事例は、日本人にとって考えさせられる効果が高いといえます。

特に昨年のカンヌでグランプリを受賞した仏デカトロンの「囚人のための初のeサイクリングチーム」の事例は、日本人の目には奇異に映る点も、フランスのもつ女性性で理解すると、また違った形で評価できるでしょう。その意味では、最近のクリエイティブで基調となっているソーシャルグッドなどの社会的な視点の拡大は、より女性性の面が全世界的に求められているといえます。この点において、男性性の高い日本は、他国のクリエイティブを通して自分たちの文化のあり方を学ぶ必要があるかもしれません。

書籍紙面より

 

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鈴木 健(すずき・たけし)
ニューバランス ジャパン マーケティング部 ディレクター

1991年広告代理店の営業としてスタートし、I&S/BBDOでストラテジックプランナーを経て消費財メーカーのマーケティング企画および調査を担当。2002年ナイキジャパンでナイキゴルフの広告、Web、PRを担当し、その後同社でウィメンズトレーニングのブランドマネージャーを経験。2009年にニューバランスに入社し、ニューバランスブランドのPRおよび広告宣伝、販促活動全般を手掛ける。2017年-19年に直営店、ECを含めた直販ビジネス(Direct To Consumer)の責任者を兼任し、2020年より現職。

『世界の広告クリエイティブを読み解く』山本 真郷・渡邉 寧 著/6月27日発売/定価:2,420円(本体2,200円+税)

ある国では「いい!」と思われた広告が、なぜ、別の国では嫌われるのか?そこにはどんな価値観のメカニズムがあるのか?オランダの社会心理学者 ヘールト・ホフステード博士の異文化理解メソッド「6次元モデル」で世界20を超える国と地域から、60事例を分析。グローバルな活躍を目指すマーケターやクリエイターはもちろん、あらゆる人に広告を通じて「異文化理解」を楽しく学んでいただける一冊。