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コラム

競合を勝ち抜くための「もう片方のスキル」

企画の100本ノックより1回のヒアリングが有効な理由

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競合プレゼンに勝ち抜くために必要なことについて、職種別、また年代別に紹介する本連載。今回は「クリエイター」編の後編です。
競合プレゼンに勝つメソッドを詳しく知りたい方は書籍『競合プレゼンの教科書 勝つ環境を整えるメソッド100』をご覧ください。

情報がないからこそ、クライアントとの対話が必要

前回と今回のテーマは、勝てる「クリエイター」になる。前回は情報を引き出す質問力や、時間がない中でアイデアをブラッシュアップする方法について紹介しました。

ルール違反だと思っているのか、はたまた、職人気質がそうさせているのか。こと競合プレゼンになると、「クライアントに聞いてはならないモード」に入り込むクリエイターが出現します。

もちろん素晴らしい提案をするために、企画やアイデアを出しまくることは全く否定しません。時間が許す限り全力で取り組みましょう。それはきっとクライアントのためになります。

しかし私たちの目的は、競合を勝ち抜き、クライアント企業の成長に貢献することです。そして私たちが向き合っているのは、他の誰でもないクライアントです。クリエイターとしてどれだけ一生懸命考えたかも大事ですが、どれだけクライアントの課題解決に貢献できるかはもっと大事。

100本ノックも悪くはありませんが、1回のヒアリングに勝る効果が安定して期待できるでしょうか。かけた労力に対して、得られるメリットの大きさや確実性は、比較にならないと思います。情報がないからこそ、クライアントとの対話を重視すべきなのです。

『考え方』より『具体』を当てる

中間セッションや質問会は、クライアントと対話ができる貴重な機会です。では、その場でヒアリングする際、クライアントに何をぶつければ良いのか。それは「考え方(課題設定/戦略など)」ではなく「具体(表現/施策など)」であるべきです。

基本的に「考え方」を当てても、クライアントは「そうですね(同意)」としか答えません。オリエンでそう伝えましたし、間違っていませんよ、と。なぜ同意の返事しか返ってこないかというと、課題設定や戦略は、極めて抽象度が高い会話だからです。

むしろ当てるべきは「具体」です。なぜなら具体的であるがゆえに「イメージに合っている/ずれている」「好き/嫌い」「真の課題(イシュー)を把握できている/できていない」が、如実に反応に現れるからです。具体を当てることで引き出される意見こそ、クライアントの本音。オリエン時には言語化されていなかったイメージとも言えます。考え方より具体を当てる。情報がないからこそ、そうやって真の答えを引き出す作業が必要なのです。

ネタバレしても勝てばいい

具体をぶつけようという話をすると「ネタバレ」を気にする人が必ず出てきます。提案本番でのインパクトがなくなる。新鮮さが失われ、提案の心象が悪くなるというのが主な理由です。

確かにネタバレの悪い面はあります。ですがそれは、かなり古い感覚のような気もします。クリエイティブが中心テーマの場合、プレゼン当日の鮮度や、初見の印象、心が動いたかどうかが、勝敗に影響します。そのような場合は確かに、事前のネタバレは悪いことだと思います。

しかし昨今、広告表現の印象だけで勝敗が決する競合プレゼンは、少なくなっています。戦略と表現の一貫性、緻密なカスタマージャーニーなど、全体設計として優れているかが、勝敗を分けるようになってきました。そうなるとクライアントも、プレゼン当日の鮮度や印象だけで、採用社を決めるという判断は行わなくなります。むしろ、じっくりと時間をかけて提案を理解・吟味し、比較検討するようになります。

だとすると、事前に具体をぶつけて、その方向性や良し悪しを確認し、軌道修正のヒントが得られる方が、メリットがはるかに大きいというのが私の意見です。ネタバレして多少のデメリットがあっても、それをはるかに上回るメリットを得られるのです。勝利という結果の前には、事前のネタバレなど些事に過ぎない。それが勝てるクリエイターの思考回路です。

甘美な正論にご注意を

プレゼン準備段階で私が気をつけているのは「自分たちが正しいと思うこと(=市場や生活者にとっての正解、あるいは自分たちが面白いと感じるアイデア)をぶつけましょう」という言葉です。この正論には、何とも抗い難い甘美な響きがあります。なかなか正解がわからず、判断基準がない場合、ついこの言葉にほだされてしまうのですが、注意が必要です。

なぜなら、これは典型的な思考停止ワードであり、負けフラグだからです。市場や生活者にとっての正解と、クライアントにとっての正解は、相反するものではありません。

むしろ、それらを鮮やかに両立させるアイデアを、クライアントは求めています。誤解を恐れず言えば「自分たちが正しいと思うことをぶつけよう」と言った瞬間に、真の正解の追求を諦めているのです。「本質」のふりをした「自己都合」の提案に、片足を突っ込んでいます。

かっこ良さそうに聞こえる言葉ではあっても、勝利を導く言葉ではない。そんな「甘美な正論」が出てきたら、思考停止のサインです。クリエイターとしての矜持と、安易な正義感を混同しないように。最大限の警戒を。

いかがでしたでしょうか?

まだまだ他にもお伝えしたいことはたくさんあるのですが、今日のところはここまでです。通常業務以上に時間も情報もない環境で、勝率の高いアイデアを安定的に生み出し、採用を勝ち取るためには、クライアント、社内の仲間たち、そして自分との向き合い方にスキルが必要だというのが私の主張です。勝てるクリエイターになるためのヒントを少しでも掴んでいただけたら嬉しいです。

次回予告

次回のテーマは、勝てる「プランナー」になる。戦略プランナー、アクティベーションプランナー、デジタルプランナー、メディアプランナー……。専門性も芸風も異なるスタッフ職を一括りに「プランナー」としてしまうこと自体に、そもそも無理がありますね。

プランナーという職種が多様であることは、それだけ競合プレゼンの領域も多様に拡張している証拠ともいえます。昨今の複雑化する競合プレゼンを乗り越えるためには、プランナーの活躍が必須。だからこそ、クリエイターとはまた違ったスキルが求められます。何がなんでも勝ちたいプランナーの皆さま、どうぞお楽しみに!

次回は7月27日掲載)

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クリエイターこそ「勝つ技術」を身につける

広告業界やコンサルティング、ITなどのビジネス現場で行われている「競合プレゼン」「コンペ」「ピッチ」に勝ち抜く100のメソッドを体系立ててまとめた一冊です。ライバルに勝つためのポイントについて、提案の中身やプレゼンテーション技術ではなく、勝つ「環境を整える」点に着目。競合プレゼンが始まる前の「兆し」から始まり、オリエン、キックオフミーティング、ストーリーづくり、軌道修正、プレゼン当日、事後までのフェーズごとに、行うべきこと、注意すべきことを丁寧に解説しています。

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