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マーケティングや広告の限界を知る人にこそ、薦めたい本―『手書きの戦略論』によせて(高広伯彦)

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『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。今回は、著者の磯部光毅さんと生前親交のあった高広伯彦さんが、『手書きの戦略論「人を動かす」7つのコミュニケーション戦略』を紹介します。

私にとって、この本の著者で博報堂時代の後輩である磯部くんが今この世にいないことが、今もって信じられない。確かに葬儀にも参列したし、棺に入った彼に最後の挨拶もしたものの、メシを食う約束をこれからでもしそうな感じだ。それくらい、まだ違和感がある。

そのため彼の遺作となった『手書きの戦略論』について、本人の眼の前であーだこーだいう予定が実現しないまま、彼が居なくなってから何年も経って、こうした書評を書く機会をいただいているのも、なんだか不思議な感じだ。

もし、彼とメシを食いながらこの本について話をしていたとしたら、「“人を動かす”っていうテーマを主軸にして、ポジショニング論やIMC論やら、マーケティングとコミュニケーションに関する戦略の話をしたのはめちゃくちゃうまいと思う。特に僕が好きなのは、アカウントプラニング論のところなんだけど」と伝え(※ちなみに磯部くん本人の肩書もアカウントプランナーだった)、そして次には「でもさ、“人を動かす”ってのはマーケティングや広告従事者のおこがましさな気もするんだよね」と彼に伝えていたと思う。

「人を動かす」〜そのことができると信じているのがマーケターや広告関係者であろうし、そうでなければ仕事の意味がない。しかしながら実際のところは、「人を動かす」ことの難しさ、そんなに簡単にうまくいくものじゃない、と理解しているマーケティング、広告関係者ほど、マーケティングや広告の限界を知っているものもいない。しかしその限界を知っているからこそ、その活用の仕方も理解できる。

『手書きの戦略論』を、テンプレートやフレームワークを学ぶ本として読んでしまうのはもったいない。マーケティングや広告の限界値を知っていれば、この本は、マーケティングや広告の施策についてレバレッジを効かせるための学びを与えてくれるだろう。

なので、この本は、タイトルからすれば入門書的な匂いを感じる本であるが、実際のところは、マーケティングや広告の日々の実践家が手触りを感じる戦略を吸収するための本、という位置付けのほうが適切なのではないかと思う。

しかし、「手書き」という言葉でこの本を書いたのはずるいね、磯部くん。この言葉あるだけで、小難しい「戦略」の話との距離が縮まるからね。さすがだよ。

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高広伯彦(たかひろ・のりひこ)

博報堂、電通、Googleや外資系企業等にて広告/マーケティング/デジタル領域の事業に20年以上関わる。現在は独立し、ベンチャーから一部上場企業のマーケティングや事業開発支援を行う。同時に研究者として、マーケティング戦略/デジタルマーケティング/サービス・デザインを専門領域としている。博士(経営科学,
京都大学)。社会構想大学院大学 特任教授。

読み継がれて7刷出来。宣伝会議のロングセラー。
『手書きの戦略論「人を動かす」7つのコミュニケーション戦略』
磯部光毅著/定価2,035円(本体1,850円+税)

コミュニケーション戦略を「人を動かす心理工学」と捉え、併存する様々な戦略・手法を「ポジショニング論」「ブランド論」「アカウントプランニング論」「ダイレクト論」「IMC論」「エンゲージメント論」「クチコミ論」の7つに整理。それぞれの歴史的変遷や、プランニングの方法を解説する。体系的にマーケティング・コミュニケーションについて学ぶための一冊。
宣伝会議ベストセラーライブラリーでは、本書をもとにしたオンデマンド講座も配信中。