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「遠回しに言うこと」は丁寧じゃない!『言葉ダイエット』橋口幸生×田中泰延対談レポート

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『言葉ダイエット』の5刷を記念し、著者の橋口幸生氏と田中泰延(ひろのぶ)氏の対談イベントが行われた。2020年の本の発売以降、コロナ禍の間に私たちの言葉にはどんな変化があったのか?そして、その間に『言葉ダイエット』は世のムダな言葉をダイエットすることができたのか!? たくさんの「ダイエットすべき」事例を見ながら2人の掛け合いが展開する、笑いの絶えない一夜となった。

イベントは10月3日に下北沢の本屋B&Bで行われた

 

コロナ禍の間に「言葉の比重」が高まった

橋口:今回、僕が3年前に出した『言葉ダイエット』が、おかげさまで5刷になりまして。

写真 表紙 言葉ダイエット メール、企画書、就職活動が変わる最強の文章術

言葉ダイエット メール、企画書、就職活動が変わる最強の文章術』橋口幸生著

 

田中:めでたいですね!3年というと、“コロナの時期を丸々生き抜いた本”ということですよね。

橋口:そうなんですよ。くしくも、この本に書いてあることがコロナを経てより顕在化してきている気がするので、今日はそこをひろのぶさんと話したいな、と。

田中コロナの間って実は、言葉の比重が高まったんですよね。

橋口:はい、めっちゃ高くなりましたね。

田中:コロナになってからは、言葉を尽くさないといけなくなった。メールもZoomもちゃんと喋らないといけませんから。画面に映る姿がちっちゃいから、身振り手振りじゃ全然通じないじゃないですか。

橋口:めっちゃロジカルになりましたよね。「Aさんはこう言ったから、Bさんはこう発言した」みたいに。

田中:いや~、僕はZoomの何がイヤって、自分の顔が見えているんですよね。

橋口:人類史上初のシチュエーションですもんね、「自分の顔を見ながら話す」って。そういえば、前回ひろのぶさんと対談したのは出版社(ひろのぶと株式会社)を立ち上げられる直前で「青年失業家」を名乗っていらっしゃいましたよね?

田中:そうそう。あの頃はコロナの「コ」の字もなかった。だから、ロナロナと呼ばせてもらってました(笑)。

橋口:あはは。対談しながらロナロナ言ってましたね(笑)。この本はおかげさまでたくさんの方に読んでいただいているんですけど、世の中にはなかなか影響がなくて。全然、日本語が良くなっていないじゃないか、と。

橋口幸生氏

田中:これだけ売れて、間違いに気づいた人がいるはずなのに!(笑)

橋口:そうです。むしろ悪化しているじゃないか、という気がしてならないんですね。なので今日は、どうしたらもっと日本語を良くして日本を生きやすい国にできるか?というテーマで話したいと思います。

まずは、ぼくらが日々当たり前に読んでいるものの中から、いくつかサンプルを持ってきました。これは、話題の「インボイス制度」ですね。公式の解説文をちょっと読んでみましょう。「インボイス制度の概要について、次のとおりとなります〜〜」。

田中:(説明を聞いて)えーと、日本語でお願いします(笑)。ちょっと何を言っているのかわからないね。

橋口:ひろのぶさんは経営者だから、これを理解しないといけないですよね?

田中:一応、理解しておかないとマズいんだけど、読んでも読んでもわからない。「インボイスをはよ知りたい」という人に対して、全然応える気がない文章ですね。

橋口「書いときゃわかる」という文章なんですね、これは。読み手のことを考えるのではなく、突っ込まれた時に「いや、ここに書いてあるじゃないですか」と言うための文章です。

田中:いわゆる「アリバイ的文章」ですね。

橋口:元々、読み手に理解してもらおうという気があまりないですよね。ふつうにみんなが理解できるように書くと、色んなところからツッコミが入るんでしょうね。

田中:こういうアリバイ的文章の良くないところは、「なぜインボイスが必要なのか?」という大前提を共有しないところですよね。それがあったら、理解しようという姿勢がだいぶ変わってくると思うんですよ。

「インボイスとは、国が消費税をとりっぱぐれないように、お前たちに絶対に義務付けたいものなんだ」と。そんな風に書いてあったら必死になって読むでしょう?

田中泰延(ひろのぶ)氏

橋口:次に、最近の旬の話題として「Chat GPTに丁寧に訊きすぎている事例」を持ってきました。

田中:これいいね!Chat GPTに過剰な敬語を使う人(笑)。Chat GPTにすら回りくどい敬語を使ってしまうのは、「いらぬ敬語」が蔓延しているからこそ、ですよね。日本人の「無駄な言葉の装飾」があふれかえっていることがよくわかりますね。

橋口:コロナをきっかけに「変な日本語」がめちゃくちゃ急増したな、と思っていて。これは、コロナ対策委員長の尾身先生の「スライドの文字が小さすぎて、まったく読めない問題」ですね。

田中:あはははは!このスライド、出す意味ある?(笑)

橋口:(ビッシリと並んだ小さな字)これはもう、視力テストですよ(笑)。でも、ぼくは尾身先生を悪く言うつもりは全く無くて。むしろ、感染症対策のプロ中のプロで、めちゃくちゃ優秀な方なわけですよ。ただ、そんな人ですらこの空間に放り込まれるとこうなってしまう。つまり、属人的な問題ではなくて、誰がやってもこうなることに日本の問題があると思うんですよ。

田中:はいはい。

 

“何も言わないことが役割”の
「霞ケ関曼荼羅」とは?

橋口:例えば、違いのわかりにくかったコロナの「3密&5つの避ける場所」について説明文を書いていた役人たちが、本気を出すとこうなるわけですよ(環境省「地域循環共生圏」のスライドを見せる)。

田中:ええ〜?ちょっと待って、なにこれ!?(笑)

橋口:「霞ケ関 パワポ 曼荼羅」と検索すると、こういうのがたくさん出てくるんですけども。

田中:あはははは!全体がもや〜っとしているのに文字がギッシリで。これは「究極のアリバイ」ですね。

橋口:ただ、このスライドはそれなりに需要があるんですよ。「こういうのをつくるのが上手い人」っているんです。会社によっては、こういう書類じゃないと承認が通らないところさえある。

田中:ああ…!

橋口:この場合、「何も言っていないこと」が大切なんですよね。何かを言っちゃうと事が起きるから「何かを言いながらも、何も言っていないようにすること」が役割なのかもしれない。平時にはいいと思うんですけど、ウィルス発生時みたいな緊急事態にはとても対応できないですよね。

田中そうだ、戦争の時に官僚がこんなものをつくっていたら、その間にやられちゃう(笑)。

橋口:話を尾身先生に戻すと、先生は最近、感染対策のリーダーを辞められて、これまでの流れを総括されているんです。著書の『きしむ政治と科学』(中央公論新社刊)には、「我が国の危機管理体制は十分ではなかった」と2020年初夏の見解に記したら、厚生労働省から注文が入って「危機管理を重要視する文化が醸成されてこなかった」に書き直すよう注文が入った、という話が載っていました。

田中:え〜!?

橋口:体制がダメとなると官僚たちの責任になっちゃから「一億総懺悔」にもっていくと。

田中:「日本人全員に責任があった」という論調ですよね。恐ろしや。

橋口:これを見るとさっきの尾身先生のスライドの見え方が変わります。ただ、これが海外からのミサイルだったら、「危機管理を重要視する文化が醸成されてこなかった」じゃたまらない。言葉ひとつを取っても、ここに日本の課題があると思うんですよね。

田中:『言葉ダイエット』の真髄って、要は「はよハッキリ言え!」ってことじゃないですか?それを「もって回れば回るほど上等なんだ」という勘違いとすり替えがコロナの間により強くなった、と。

橋口:そこにくると英語の言い回しって誤魔化しようがないですよね。だから、自分の文章がわかりやすく書けているかどうかは英訳してみるといい、とよく言います。英語にしやすければ端的に書けているし、そうでなければ表現を見直した方がいい、と。

 

「遠回しに言うことが丁寧」という風潮

橋口:ここまでは国の偉い人たちの話をしてきましたけど、僕たち民間だって相当なもんです。最近、よくないなと思っている日本語が「〜感」ですね。特に広告会社の人間がよく使う「課題感」。課題をはっきりとさせることが僕らの飯のタネなのに、そこをぼかしてどうすんの?と。

田中:これは僕、電通時代に何度もケンカしましたよ。「予算感とスケジュール感を教えてください」って言うから、「そこは予算とスケジュールやろ!」と。予算感なら「高い」だし、スケジュール感なら「忙しい」ですよ(笑)。

橋口:これはおそらく、「御社の課題はこれです」といって外すと怒られるから、こういう言い方でぼかしているんでしょうね。「〜感」と書いてしまいそうになる時は、自分がその問題を正確に把握できていない証拠だから、少し考えたほうがいい。

田中:なるほど。

橋口:あとは「〇〇日は定休日となります」の「〜になります」もよく見ますね。

田中:ああ〜!これ、僕はすごくイヤなんですよ。ファミレスなんかで「こちら、ハンバーグになります」って言われるでしょ?「え、いま違うの?これからハンバーグになるの?」と言いたくなりますよね(笑)。

橋口:確かに「遠回しに言うことが丁寧」っていう風潮がありますよね。最近、映画の『ジョン・ウィック4』を観たんですけど、本編が169分あるのにセリフはたったの380しかない。しかも、そのうちのほとんどが“Yeah”ですよ(笑)。

田中:それは見に行かないと(笑)。言葉が少なくてもちゃんとストーリーは伝わるし、空間を言葉で埋めようとしても、いいことなんかないですよ。

 

駅の構内は、まるでパワーポイントの世界?

橋口:ここまで、日本語が相手に伝えるためではなく、責任逃れやアリバイづくりに使われるのはいかがなものか、ということをお伝えしてきました。ただ、問題は文章に限った話ではないんです。例えば、有名なのがこの「新宿の案内サイン」です。これ、どこに行けばトイレがあるのか全くわからない…。

田中:あははは!矢印だらけで、ほとんど「あっち向いてホイ」状態ですよね?で、トイレはどこなん?(笑)

橋口:それが、わからないんですよ(笑)。これはさっきの「霞が関曼荼羅」と一緒で、情報をぶち込んで矢印で結べばなんとかなるだろという「知的な怠慢」です。これって、そこら中にあふれていると思うんです。こちらは「渋谷駅の構内図」です。どうですか、これ?

田中:あっはっは。これ、どうやってたどり着くん?(笑)

橋口:もはやダンジョンですよね(笑)。これの問題は、見た人が頭に入れて移動してくれるものと思いこんでいる点です。それから、この「矢印まみれの階段」ですね。

田中:これはややこしいね〜(笑)。

橋口:階段の段差にビッシリ矢印が並んで貼り付けられてますけど、右が「登り専用」で、左側が「下り専用」ということなんでしょう。まるでパワーポイントの世界に紛れ込んだみたいですよね。「ここもあそこも強調したい」とやった結果、すべてがわかりにくくなった例です。

 

「させていただきます」問題に“変異株”が出現!

橋口:これまで紹介してきたものの根っこはすべて同じだと思うんですよね。そこで最後に、どうすれば僕たちがこうした状態を脱して自分らしく軽やかに生きられるのか?について話したいと思います。

田中:僕は自分で会社を始めたことで、会社員時代よりもっとシンプルにしなければ伝わらない、という実感があるんですよ。どんな時でも大事なのは「自分は〇〇をしたい」と相手にはっきり伝えること。これをしない限り、いつまで経っても仕事が進まない。

橋口:僕が気をつけているのは、あまり「決まり文句」を使わないことですね。決まり文句って、意味がないけど残っているものの結晶みたいなものですから。

田中:確かにそうですね。決まり文句と言えば、ぼくは、何といってもこの本がロングセラーになった最大の要因は「させていただきます問題」に切り込んだことだと思ってます。

橋口:そこは反響が大きかったですね。最近では「させていただきます」も進化を重ねていて、「させていただければ幸いと存じます」みたいな変異株も出てきました(笑)。「ご相談させていただくことをご相談させていただけますか」っていうメールが来たこともありますからね。

田中:あっはっは!それは頭を抱えますね!

橋口:そういうのって大体、頼みにくいことが書かれているわけですよ。「またやり直し(再プレゼン)になりました」とか。

田中:「自分が一番言いたいところ」を回りくどくしちゃうから、こういうことになるんでしょうね。僕は、いらない前置きとか言い訳をのけてもなお、親和性を感じる文章を書ける人が一番いいなぁ、と思いますね。

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橋口幸生(はしぐち・ゆきお)(右)

電通 クリエーティブ・ディレクター、コピーライター。ソーシャルメディアで支持されるコピー、企画を得意とする。代表作はニデック「世界を動かす。未来を変える」、伊藤忠商事「キミのなりたいものっ展?」、アデカ「地味だけど、すごい」、鬼平犯科帳25周年ポスター、「世界ダウン症の日」新聞広告、貞子3D「世界でいちばん、3Dが似合う女」など。『言葉ダイエット』(宣伝会議刊)、『100案思考』(マガジンハウス刊)著者。TCC会員。Twitterフォロワー2万人超。趣味は映画観賞。

田中泰延(たなか・ひろのぶ)(左)

株式会社電通でコピーライター・CMプランナーとして24年間勤務。2016年に退職後、「青年失業家」を自称しインターネット上で執筆活動を開始。映画・文学・音楽・美術・写真・就職など硬軟幅広いテーマで文章を発表、2019年、初の著書『読みたいことを、書けばいい。』をダイヤモンド社から刊行。2020年、「印税2割」を掲げる出版社「ひろのぶと株式会社」を設立。代表取締役となる。2021年、著作第二弾『会って、話すこと。』(ダイヤモンド社)刊行。TCC会員。趣味はミニカー収集。

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