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「PRアワード2021」作品募集中 審査員が語るエントリーのポイント

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日本パブリックリレーションズ協会では10月26日まで、国内のPR事例を表彰する「PRアワードグランプリ2021」のエントリーを募集している。コロナ禍で2年目の開催となる今回。審査員長の井口理氏(電通PRコンサルティング執行役員/チーフPRプランナー)、髙野祐樹氏(井之上パブリックリレーションズ 執行役員)がエントリーのポイントなどを語る(本記事は、9月6日にオンラインで開催されたトークセッションの内容を記事化したものです)。

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(左から)井口理氏、髙野祐樹氏。

その施策は「意識変化」「態度変容」に寄与したか

井口 毎年チャレンジされている方にとっては重複するかもしれませんが、まずは我々が審査委員として、どういう目線でエントリーを評価しているのかということを共有したいと思っています。

まずは参考として海外アワードの審査基準というものがありますが、そこではStrategyが30%、Executionが20%、Ideaが20%、Impact & Resultsが30%というように分けられていて、日本でも世界標準に近づけようとしています。

クリエイティブのアワードではIdeaの部分の比重が大きくなりますが、PRでは、戦略がどう立てられ、どう実行し、最終的にどういう成果を生んだのか──入口と出口がしっかりしているかどうかを見ていくということです。

また、今までは「PRといえばパブリシティ」と言われてきましたが、今はOuttakes=意識変化、Outcomes=態度変容という部分にどう寄与したのかを見ていきたい。社会を変える、ルールを変えるといったSocial Impact=ソーシャル・インパクトにまで結びつく、そこを目指した事例を表彰したいと考えています。

昨年の審査に当たっては注視するポイントとして、審査委員の方々に「逡巡から決断へ」「ステークホルダーの戦略的設定」、そして「パーパスドリブン」なコミュニケーションアプローチという3つの視点で見ていきましょうとお願いし、2つの事例がグランプリに選ばれました。

ひとつはダイキン工業さんの「“上手な換気の方法”を伝えたい!『空気で答えを出す会社』の底力」です。空気に詳しいダイキンが、換気で苦しみ、悩む飲食店さんにヒントを提供する。自分たちのそもそも保有する知見をつまびらかにすることで企業への信頼感を勝ち取り、「エアコンもダイキンで買えば間違いない」と、企業への共感を生むコーポレートコミュニケーションから、実際の商品の売上にも繋がるマーケティングコミュニケーションへ連動し、双方で成果を出していることを評価しグランプリに選びました。

ダイキン工業 Webコンテンツ「上手な換気の方法」。

もうひとつは、今日いらしている髙野さんが手がけられた、井之上パブリックリレーションズさんの「『新型コロナウイルスに関する危機管理広報初動マニュアル』無償提供でコロナ禍での本質的PR発想を最短最速で日本中に提供」。これはPR会社としての矜恃を見せつけられたような社会的な活動です。PR会社に勤めている我々のスキルをタイムリーに適応させ、その能力についての理解促進も図っていただけたのではないかと思います。

井之上パブリックリレーションズ
「新型コロナウイルスに関する危機管理広報初動マニュアル」(表紙)。

この2つが飛び抜けた評価となり、次点のゴールドは昨年においては該当エントリーがなかったのですが、次のシルバーでは味の素冷凍食品さんの「冷凍餃子#手間抜き論争」もすてきな取り組みでした。「冷凍餃子は手抜きだ」という論争が起きた時、味の素さんが即座に反応。逆にこうした賢い食生活を採り入れることはいいことではないかと論争をまとめ上げ、さらに商品としての信頼性を高めるようなコミュニケーションを同時に走らせることで冷凍食品自体の価値を底上げしました。

味の素冷凍食品「冷凍餃子#手間抜き論争」から。

また、旭化成ホームプロダクツさんの「#家でも防災訓練していますか? もしものときのサランラップ®️活用術」。これは、防災のシーンに合わせてサランラップの用途を、本来の使い方と違うところで提示したもの。商品も売れるし、企業の好意度も上がるというわけですが、これを自社のみでなく、いろんな業種の、いろんな方々を巻き込んでやった、いわゆる仲間づくり、コミュニティづくりに非常に長けていた事例かと思います。

旭化成ホームプロダクツ「#家でも防災訓練していますか? もしものときのサランラップ®️活用術」から。

一方で、海外アワードのカンヌライオンズのPR部門などを見ていると、おぼろげながらではありますが、こんなことをぜひ皆さんと議論していきたいなということがあります。

まず、決めた方針をとことんやり続けているもの。見かけは地味でも、やり続けたという自負があれば、ぜひエントリーしていただきたい。2つめは、「自分はできている」という欺瞞への挑戦。「やっているつもり」が本当に正しいのか、それに再度真正面から向き合ってみると、意識的に見逃していた不具合が存在したりします。これを解消し、意識転換を促すようなものがないかなと思っています。3つめは、共創すべき真の仲間を知ること。これからの未来、実際に誰と組んでどういうことを引き起こしていくのかが大切になってくるはず。“ステークホルダーキャピタリズム”を体現するような取り組みから私も学びたいと思っているので、そういったエントリーを探したいです。

エントリーシートの書き方については悩まれている方も多く、髙野さんに何かヒントを与えていただきたく思います。

リリースを書くつもりでエントリーシートを書こう

髙野 ありがとうございます。重要なのは、エントリーシートに判断してほしい点をもれなく、あまねく書き込むことだと思っていました。一部だけ書いてあとで審査委員の方に調べて考慮してもらうということはできない。とにかく、エントリーシートの中に、評価してほしいことを入れる。プレスリリースを書いているかのような気分で書いていました。

我々、井之上パブリックリレーションズ(新型コロナウイルスに関する危機管理広報初動マニュアル)の案件では訴求ポイントは3つありました。

まずは、すぐに動いたということ。2020年4月、緊急事態宣言が出されたその月のうちに公開まで進めたことをアピールしました。それから、パブリックリレーションズというものそれ自体が、社会課題の解決策になるということを証明できたこと。最後は、PR会社が主体で行ったという点。このあたりを審査委員の方にわかっていただけるような書き方を心がけました。

井口 いろんな方々に活用してもらい、PRの価値とか凄さを知ってもらうという底上げもありました。キリスト教の教会で話題になってどんどん横に広がっていきましたね。

髙野 それはメディアに取り上げてもらって初めて知りました。我々のマニュアルは審査前の時点で900社ほどの方々にダウンロードしていただいた。Resultsとして出てくる数字はこれでしたが、日本のカトリック教会が、自分たちのミサや関連施設などの広報ガイドライン作成に活用してくれたことは、それだけで何十万人という人に影響のあること。ダウンロードの数字だけでは測ることができない成果の見せ方ができたと思っています。

井口 何のために実行して、どんな成果に結びついたか、入口と出口をしっかりしていいただくのがいいですね。

髙野 我々の活動の具体的な施策は、アウトプットだけを見ると「マニュアルを作成して配った」というものです。手法自体は全く目新しくもなんともないですし、派手さもない。それでもグランプリをいただけたというのは、審査の過程で、それをどういう信念のもとで実現できたかという意義や価値をしっかり評価していただけたのだと思います。

最終審査のプレゼンテーションでは、審査員の方々に「いや、これほんとわかる」という共感のコメントをいただき、思った以上にすごく深くまで見ていただいていたと感じました。なぜこういうことをやったのかという「Why?」の部分や、そのときの苦労など、いいところを探そうとする質問が多く、そこはとてもやりやすかったですね。

井口 エントリーシートにもここ数年で「Why PR?」という項目が入ってきた。それは、PRのどこを一番うまく活用したのかということを表現してもらいたい、ということなんです。

そういえば、アワードにチャレンジするとどんなことが自身にリターンとしてあるのかという点も教えていただきたいのですが。

髙野 それまで接点がなかったようなところからも相談をいただくようになりました。賞をいただくと事例として表にも出ますし、このPR会社はこういう活動ができるということを知らしめることもできる。自社のブランディングとしても返ってくるところは多いかなと思います。

井口 次の活動のヒントも見つかって、自分の仕事をどんどん拡張し、進化させていくことにもつながります。

髙野 エントリーシートを書く中で、もっとこうできたとか、この活動はこういう意義があった、ということを改めて見出し、言語化することができる。他の仕事にも活かせるような視点が、書きながらどんどん出てくると思います。

井口 得意な部分とか、目指す部分みたいなことをうまくそこで表現できると、一緒にそういうことをやっていきたいというクライアント、パートナーとの仕事を増やすきっかけになりますね。

髙野 おっしゃる通りです。まさに、パーパスドリブンであったりステークホルダー戦略であったりするところに通じることを、エントリーシートにしっかり表現できると、こういう人たちと組みたいんだ、と伝えることができていいのではないかと思います。

上手な発注が来ないとPR会社も力を発揮できないし、逆にそういう発注を引き出せるように信頼を築き上げないといけない。卵と鶏みたいなことではありますが、大事だなと思うのは、PRに求めるもの、PRとはこういうもの、これを目指そう、という認識を合わせられるかどうかが、一番のポイントかと思うのです。

派手さはなくても意義ある活動を評価したい

井口 逆に今年の審査委員という立場で期待したいエントリー、楽しみなエントリーなどがあれば教えてください。

髙野 昨年のアワードはコロナ禍に入ってすぐのことでしたが、この状況が常態化する中で、様々な工夫や取り組みをして、もっと前向きにプラスにして、という活動が出てくると良いなと思います。井口さんはどうですか。

井口 大きく路線変更をしなければいけないということをきちんと導き出して、正しい道を探して突き進む時、どういうふうに最初の一歩を踏み出すか、ということが見出せるような事例を、勝手ではありますが楽しみにしたいし、探したい。

髙野 どういうところと協力し、誰と組んでその課題をしっかりと乗り越えてプラスにもっていけたか、いろんなケースを見てみたいですね。あとは、他の企業さんがすぐに真似できそうなエントリーがいいなと思うんです。派手さはなくても意義ある活動で、「これなら明日からでも取り入れられる」というエントリーは、アワードとしても広く紹介する価値があるのではと思います。

井口 取り組みやすさを見出して皆さんで共有できたらいいですね。昨年の奨励賞として、アメリカン・エクスプレスさんの「ニューノーマル時代の社内コミュニケーション 社員向けポッドキャスト」がありました。社長さんが社員に音声で継続していろいろ語りかけるというのですが、その拡張版のようなものがいろいろ見つかるといいなと思います。

髙野 ポッドキャスト自体はそんなに新しい手法ではないので、いいですね。

井口 そういうものをうまく活用する。それさえもアイデアだと思います。

髙野 本アワードの重要な役割のひとつが、これからのPRのあるべき方向性や考え方を社会に提起していくことだと考えています。前例や目新しさにとらわれず、パブリックリレーションズの発想を自由に広げて、課題解決に取り組んでいるエントリーに期待しています。

あなたのPRプロジェクトが影響を与えた範囲が自社内や一部のコミュニティなど決して広いものでなくても、その素晴らしいPR発想と取り組みが広く知られることで、いずれ大きなうねりに繋がるかもしれません。そんな、小さくとも光る未来のパブリックリレーションズのタネを見逃さず、アワードを通じて日本全国、ひいては世界に広げていくきっかけとできればと思います。

井口 トークでもお話ししましたが、アワードでは完成形の仕事を評価する反面、今後の業界のあるべき姿を見出し共有するという視点も大切にしています。私自身も世の中の潮流を見逃さないように未だ現場の仕事にもタッチしていますが、そう簡単に理想形・完成形を完遂することが難しいのは百も承知です。

しかし志を持ち、そしてクライアント、パートナーとの信頼感の中でその仕事を推進していけたのなら必ず目指すゴールに辿り着けるはず。実はその感触は業務の全部を見なくてもその着地点はある程度予測できるものです。

ですので、もしまだエントリーには早いかも、と思っている案件があれば是非チャレンジいただきたい。もしそこからさらなる進捗を期待できるなら来年もエントリーしてくれればいい。我々はその積み重ねの大切さを十分に理解しています。一日単位で社会環境が激変する中でこそ、あなたのひらめき、緻密な戦略、苦労して成し遂げた施策が光るのかもしれません。そこを見出し、評価するのも我々の使命と思っています。
 

井口理(いのくち・ただし)
電通PRコンサルティング
執行役員/チーフPRプランナー
PRSJ認定PRプランナー

企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体広報まで、幅広く手掛ける。PR会社プロパーで32年年目に突入。「世界のPRプロジェクト50選」「Cannes Lions グランプリ」「Asia Pacific Innovator 25」「Gunn Report Top Campaigns 100」など受賞多数。「Cannes Lions」「Spikes Asia」「SABRE AWARDS ASIA PACIFIC」「PR WEEK Awards Asia」など審査員を歴任。2018年よりヤングカンヌコンペティション国内代表選考審査員長、2019年より日本PR協会PRアワードグランプリ審査員長、2020年日経SDGsアイデアコンペティション審査員長などに従事。著書に「戦略PRの本質~実践のための5つの視点~」「成功17事例で学ぶ 自治体PR戦略」「戦略広報」「日本PR協会/PRプランナー資格認定試験テキスト概説/実務編」など。

 

髙野祐樹(たかの・ゆうき)
井之上パブリックリレーションズ 
執行役員

1985年1月生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、キヤノンを経て、2009年に井之上パブリックリレーションズ入社。組織の規模や業種業界を問わず、コーポレートPRを中心にM&Aや危機管理対応まで、幅広い領域に関わるPRコンサルティングを実施。2020年より自社の経営戦略推進およびコーポレート部門統括を担当(現職)。2017年よりPRSJ主催PRプランナー試験3次試験対策講座講師を務める他、早稲田大学大学院経営管理研究科、九州大学ビジネス・スクール、日本マーケティング学会など、PRに関する講義・講演で登壇多数。「PRアワードグランプリ 2021」審査員。「PRアワードグランプリ 2020」グランプリ、「IPRA Golden World Award 2021」部門最優秀賞受賞