一方で、こうした価値は財務諸表には表れにくい。では、地域に眠る無形資産を、どのように事業価値へと転換し、投資家や金融機関が評価できる形へ翻訳していくのか。
その実践を進めているのが、せとうちDMOを構成する瀬戸内ブランドコーポレーションだ。同社 投資事業本部 部長の林真人氏に、地域価値を事業価値へと転換する考え方について聞いた。
工業地域から観光地へ、瀬戸内らしさを言語化した「6つのテーマ」
せとうちエリアのブランドイメージは、この10年で大きく変容した。かつては、瀬戸内と聞くとどちらかというと工場地域のイメージを持たれることが多かった。それが多島美の景観へとイメージを変えてきている。
こうした瀬戸内の持つ資源を活かし、観光需要の創出と観光ビジネスの拡大を行う団体がせとうちDMOだ。一般社団法人であるせとうち観光推進機構と、金融機関を中心とする民間主体の瀬戸内ブランドコーポレーションから構成される。
瀬戸内ブランドコーポレーションでは、地域資源を単体で磨き上げるのではなく、エリア全体の価値として再編集することを重視してきた。その結果、「瀬戸内らしさ」をクルーズ、サイクリング、アート、食、宿、地域産品という6つのテーマに整理した。
「これら全てでサステナビリティを追求することで、世界と戦えるコンテンツを創り上げています」(林氏)。
他地域との差別化という観点から、観光としても分かりやすく言語化できる6つのテーマに絞ったのだという。
観光産業における事業価値は、自社の資産や利益といった単体の財務基盤だけでなく、ベースにある「地域資源」が一体となって形成される。同社はこの「目に見えない土台」を活かして、事業の価値を高めている。
量ではなく単価重視で、高付加価値なブランドへ
同社が明確に打ち出しているのは、来訪者数よりも一人当たりの消費単価を重視するという方針だ。
林氏は、瀬戸内の魅力は大量消費型の観光資源ではないと説明する。自然や文化、暮らしそのものが価値の源泉であり、それらを守りながら観光地としての魅力を高めていくためには、来訪者数の拡大よりも、一人ひとりに深く価値を感じてもらうことが重要になるという。
こうした考え方の背景には、観光地としての持続可能性に対する切実な危機感がある。
「来訪者数だけを追い続けると、景観や地域性、本来楽しんでいただきたい部分を毀損しかねません」(林氏)。


