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コラム

Webプロダクション進化論

それっておもしろいの?

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いい広告とは?

これって本当難しい。広告人なら絶えず持つ問いで、フェルマーの定理のように長年多くの人がこの問いに挑戦してきました(フェルマーの定理は350年経って近年証明されましたが)。

もちろん、対象の商品の販売に寄与することが、一つの解ではありますが、広告が担う役割はそれに留まりません。Webサイトに至っては、機能を持たせられるため、販売そのものも可能ですし、メディアの一部となることも・・・いやメディア自体になりえますし、サービスという形を取ることもできます。まあある種、なんでもありなわけです。タッチポイントで人と接するところに広告はあらゆる形で介在できるようになりました。

Webプロダクションの活動範囲は、PCブラウザ内のWebサイトのみならず、今や、スマートフォン、タブレット、スマートTV、デジタルサイネージと、多岐にわたっています。テキストエディタでしこしことHTMLを記述し、GIFの減色に苦労していたのが嘘のようです(最近はアニメーションGIFが見直されていますが)。

また、マス広告同様にリーチを競うWebプロモーションとDSPのように行動ターゲティングを軸にした狙い撃ちのディスプレイ広告など、性格の違う手法を上手く組み合わせて、顧客に寄り添うことも可能になってきました。Webメディアとの組み合わせで、テレビCMのGRPに匹敵するリーチを獲得することも可能となり、コミュニケーションプランニングの中核にWebが位置付けられることが多くなってきたのは、ご存知の通りです。

では、いい広告って何でしょう?

もはや、広告は何かを伝える器ではなく、何かをしてもらうスイッチのように変容しています。しかし、あえて私はシンプルに、心に残る。が良い広告だと思っています。体験を通じて、心の琴線に少しでも触れて、何かを感じてもらえたなら、心に残るのではないでしょうか? 技術や手法が多様化しても、究極的には、人が人に行っていること。分かってもらうためには、心に響くことを追求すればいいと考えています。

感情に足跡を残すための演出がクリエイティブです。もちろん、念で物体を動かすのと同じぐらい、難しいんですけどね。よくスポーツ選手が、「記録より記憶」といいますが、「記録も記憶も」求められる昨今、マーケティングテクノロジーとクリエイティブテクノロジーの双方を駆使し、心に残ることに邁進する、これがプロダクションの使命だと感じています。さて、あなたが今手がけているものはどうですか?

少し視野を広げてみましょう。デイビッド・オグルヴィの「ある広告人の告白」にフランクリン・ルーズベルト元大統領の次のセリフがあります。

もしもう一度人生をやり直せるとしたら、他のどんな職業にも増して、広告の世界に飛び込んでみたいと思う……

広告が高い生活水準についての知識を広めていなかったなら、過去半世紀の間に、社会のあらゆる階層で、現代文明の水準が向上するなどということは起こりえなかっただろう。

さらに、『サー・ウィンストン・チャーチルも、ルーズベルト大統領に賛同している。』の1文をはさみ、以下の言葉が引用されています。

広告は人々の消費力を育てる。広告のおかげで、人は自分や自分の家族のためによりよい家やよりよい服装、よりよい食事といった目標を立てることができる。それぞれがもっと努力し、生産力を上げるよう拍車をかけてくれるのだ。

この言葉は、広告が政治同様、文明の形成に重要な役割を持っていることを表しています。

今の日本は、バブルまでの物欲を中心とした拝金主義から、精神的な欲求充足へと、ステータスの中身も変化しています。そういう意味では、上記のように思想統制的には機能しませんが、混沌を極める現代において、ライフスタイルに付加価値を与えるものとして、ストーリーを紡ぎ出すことは出来ます。ストレス社会と呼ばれる中で、希望の種となって欲しいと願うばかりです。

働きかたを考えなさい

昨年、「ノマド」という言葉が流行しました。正直どうでもいいですし、おそらくご存知だと思いますので、意味をご説明はしませんが、少なくとも3.11以降、すべからく誰もが、働き方と幸福について、考えることになったと思います。リーマンショック以降の景気の落ち込みとも重なり、不安の一年だったことは間違いありません。流動性の高いこの業界において、2006年以降、我が社の離職率は非常に低かったのですが、昨年は一割以上が離職をし、独立したり、転職をしました。また、同業者やクライアント側でも転職が相次ぎ、壮大な席替えが行なわれました。働き方や自らのポジションが納得できるものなのか、日本中の心が揺れた年だったと思います。

labo

本社ラボ

組織に属すべきか、独立の道がいいのか? そういった議論も多く見られましたが、二者択一ではなく、選択だけのことだとおもいます。私は会社を経営するものとして、会社をプラットフォームだと捉えています。リスクは会社に背負わせろ。これが、私が社員に提供できる組織としてのメリットです。個人で生活を犠牲にして挑戦する。美しい話ですが、背負わなくて良いリスクを無理に背負う必要はないですし、誰もが出来ることでもないでしょう。そういった意味では、会社という場を使って、やりたいことをやる。それを後押しするのが組織の強みだと思います。

ディズニーのリー・コッカレルの著書「感動をつくる」という本があります。タイトルから想像するに、キャストがゲストに感動を作る。ホスピタリティーについての本かと思って手に取ったのですが、社内に感動を作るという内容で、自主性を重んじ、現場で課題を解決するディズニー流の経営哲学が詰まったリーダー向けの良書です。是非お読みください。

モチベーションコントロール術

私はよく「ポジティブですね」とか「いつも明るいですね」と言われます(脳天気=バカってことじゃないよな・・・)。特に意識しているわけでもないですし、正直明るい性格ではないです。その証拠に、飲み会の席では基本聞き役が好きで、実は結構無理して喋っています。どうもわーわーぎゃーぎゃーと賑やかすぎるのが苦手なんですよね。でも楽しいんですよ!飲み会は。まあ弱いので、酒の力があまり作用しないだけかもしれませんが。

まあ、それはさておき、ポジティブに見えるのだとしたら、それはネガティブじゃないからでしょう。ネガティブなことを考えるのが嫌いなんです。無意味だから。

一話でお話したように、仕事に就けないと気づいた後、ネガティブなことは一通り考えました。でも、そこに答えはないんです。ただ永遠に同じところを回るだけで、解決にはなりません。また、死ぬかもしれない。という経験をすれば、誰だって明日が約束されたものでないことに気づくはずです。故スティーブ・ジョブズが、かの有名なスタンフォード大学でのスピーチで、

「私は17歳のときに「毎日をそれが人生最後の一日だと思って生きれば、その通りになる」という言葉にどこかで出会ったのです。それは印象に残る言葉で、その日を境に33年間、私は毎朝、鏡に映る自分に問いかけるようにしているのです。『もし今日が最後の日だとしても、今からやろうとしていたことをするだろうか』と。『違う』という答えが何日も続くようなら、ちょっと生き方を見直せということです。自分はまもなく死ぬという認識が、重大な決断を下すときに一番役立つのです。なぜなら、永遠の希望やプライド、失敗する不安…これらはほとんどすべて、死の前には何の意味もなさなくなるからです。本当に大切なことしか残らない。自分は死ぬのだと思い出すことが、敗北する不安にとらわれない最良の方法です。我々はみんな最初から裸です。自分の心に従わない理由はないのです」(※引用

と語っています。私流に言うと、ほとんどの悩みはどうでもいいこと、です。であれば、そんなことは考えず、自分が必要とされること、自分がやりたいことをやろう。そう考えると楽しいですよね。それが私の、モチベーションコントロール術です。ん? やっぱ脳天気なのかな・・・。

開発コストとイノベーションのジレンマ

写真フィルムメーカーとして誰もが知っていたコダックが今年1月に破産、日本で言うところの民事再生法を申請しました。その時に形容する言葉として、「イノベーションのジレンマ」が多用されました。イノベーションのジレンマとは、

「優れた特色を持つ商品を売る巨大企業が、その特色を改良する事のみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かず、その商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業の前に力を失う理由を説明した企業経営の理論。大きな企業においては、規模の大きい既存事業の前に現れる新興の事業や技術は小さく、魅力なく映るだけでなく、既存の事業をカニバリズムによって破壊する危険があるため、参入が遅れる」(※引用:Wikipediaより)

です。ある技術で強みを持ち、それが収益を支えている場合、その技術を磨き、その技術への対応で多くのリソースを充てているとします。するとある日、新興企業が破壊的イノベーションで新しい市場を切り拓き、あっという間にシェアを奪ってしまう。過去に何度も繰り返されたことです。王者転落はこのようにして起こります。

さて、Webの現場でも同じようなことが起きていないでしょうか? そう、Flashです。ほんの数年前まで、Flashを抜きにした制作は有り得ませんでした。しかし、今はどうでしょうか? 随分と景色は変わっています。しかし、こういったことは今後も必ず起こります。ではどうすれば、変化に対応できるのか? それは絶えず変化し続けることです。不定形であれば形は壊れません。つまり、絶えず先を見て社内での技術開発(イノベーション)にコストを投じることです。

ご存知のように、グーグルには、勤務時間の20%を自分のやりたいプロジェクトに使ってよいという有名な20%ルールがあります。弊社は、年商の約5〜8%を自社内での開発予算としています。ロボット格闘ゲーム風の自社サイトもこの予算で生まれました。ミクロとマクロの視点が経営には必要ですが、今の強み(持続的イノベーション)と先の強みに分散して投資し、ジレンマを回避する。是非、ご一考ください。

「それっておもしろいの?」、これは社内に掲示している私からのメッセージです。
企画や表現が面白いものになっているか? はもちろんのこと、働き方や仕事を楽しめているのか? という意味を込めた言葉です。

会社は組織としてリスクを吸収し、個人のチャレンジを推奨、良い広告作りができる環境を整え、個人は仕事を楽しみつつ、良い広告を生み出すことに邁進する。そういう組織ならジレンマに陥ることはないでしょう。是非、そうありたいものです。

では、次回、組織とWebプロモーションの今についてお話をさせていただきます。タイトルは、「経営者が語るWebプロダクションの理想と現実」。現状、Webプロダクションが抱える課題と今後の発展について考えてみたいと思います。

澤邊 芳明「Webプロダクション進化論」バックナンバー