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コラム

電通デザイントーク中継シリーズ

色部義昭×八木義博「ロゴから公共空間まで手がける、グラフィックデザイナーの思考法とは?」

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【前回記事】川田十夢×齋藤精一×澤本嘉光「広告はどこまで『拡張』できるのか?」はこちら

デザインは人の無意識に働きかけ、その心持ちや気分を変えていくことができる——そんなグラフィックデザインの力が活かせる領域はまだ広範に広がっている。日本デザインセンターのグラフィックデザイナー 色部義昭氏はVIからSPツール、パッケージ、展覧会のグラフィックからサイン計画など、平面から立体まで幅広くアートディレクションをしつづけ、「東京デザイン2020フォーラム」では街(銀座)のサイン計画実証実験を発表するなど、積極的にそのフロンティアを開拓している。電通のアートディレクター 八木義博氏は、そんな色部氏の仕事に以前から注目してきた。優れた2人のアートディレクターが考える「未来のデザイン」とは。

ディテールの積み重ねから全体を形づくっていく

色部:グラフィックデザインって知っているようで知らない。そんな印象を持つ人が多いんじゃないでしょうか。ロゴ、タイプフェイス、本のデザイン、色の設計、店内装飾、広告、モーショングラフィックス、パッケージやダイヤグラム…その領域は、意外と多岐にわたります。その際、グラフィックデザイナーは「単純に美しくしたい」からはじまり、「集客したい」「ブランディングしたい」「空間の中を分かりやすく誘導したい」といった様々な具体的な要求を受けます。こうした要求にデザインを通じて回答しながら、人の心に働きかけていくのが僕たちの仕事です。アートとデザインはよく比較されますが、僕はデザインは“回答”だと思っています。知ってもらうためのデザイン、好きになってもらうためのデザイン、買ってもらうためのデザイン、来てもらうためのデザイン、分かりやすくするためのデザイン、ルールを理解してもらうためのデザイン…こうした一つひとつの「~ための」に、常に1回1回向き合い、それに誠実に応えていくのが自分のスタイルだと思っています。

八木:色部さんは、僕にとって注目し続けてきた才能の一人です。同じデザイナーとして、色部さんのデザインへの姿勢やプロセスにとても興味を持っています。いくつか、お仕事を紹介してもらえますか。

色部:千葉県佐倉市の川村記念美術館のロゴマークを制作した際には、館内サインを同時にデザインすることを提案しました。特徴的なサインを空間のほうぼうに埋め込み、点在させることで空間全体のアベレージを上げることができます。ロゴは美術館の外にいる人へのコミュニケーションですが、サインは来館者へのコミュニケーションだと考えています。来てくれた人に対するコミュニケーションがむしろ大事で、ロゴとの連続性で一定の質感をつくれれば、その場のクオリティが高まりますと話しました。

八木:色部さんの仕事はすごく細やかで解像度が高い。そういう部分が積み重なって、だんだん大きなシルエットになっていく印象を受けます。どんな仕事でもタイプフェイスを作るという話も聞いたことがあります。たとえ3文字しか使わなくても、AからZまで全部作るとか…。色部さんにとって、ディテールはどのくらいのウエイトを占めますか?

色部:ディテールばかり見過ぎると全体性がなくなるのが難しいところですが、僕はディテールから全体を作っていくこともあります。特に美術館のような場所は、細かいディテールを積みあげて全体を作る方が効果的です。

八木:広告会社のアートディレクターは全体のディレクションから入ります。広告ではディテールは後回しになりがちなので、僕はいつも色部さんが対岸にいるように感じます。でも、アワードの場などで不意に同じ土俵に並べられると、「ああ、ここまで考えてやらないと恥ずかしいな」と思ったりする。
色部:ディテールには意外とデザインのヒントがいっぱい落ちているんです。だからそれを拾いに行くような動きをしています。美術館に行って周りの環境や人の動きを観察してみるとか…。

八木:確かにディテールから大きなコンセプトにつながるヒントが見つかることはありますね。全体とディテールの両方を行ったり来たりして考えている方がまとまることがあるのは不思議です。海外広告賞のデザイン部門で審査をしていると、日本はディテールが評価されがちですが、本当はダイナミズムと繊細さ、両方が欲しいんですよね。

次ページ 「一週間で消えるポスターでも長期的な視点で作りたい」へ続く