メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×
コラム

100万人のメディアを潰した男、キュレーションを語る。

「情報爆発の時代、キュレーションでメディアは変わるのか?」

share

100万人のメディアを潰した男?

はじめまして。NHN Japanの桜川和樹です。僕は今、日本最大級のキュレーションメディアである「NAVERまとめ」の編集長として、メディア設計や広告案件の編集統括を担当しています。このコラムでは最近話題の「キュレーション」とメディアについて、僕なりの視点でお話ししていきたいと思っています。まだまだ若輩者ですが、これから数カ月よろしくお願いいたします。

さて、やや大げさなコラムタイトルにある通り、僕はかつて、100万人のユーザーがいたリクルートのケータイポータル「R25式モバイル」の立ち上げから閉鎖までを経験したことがあります。サービスを愛用してくれた人たちを裏切る結果となり、チームも解散。一介の平社員だったので、僕が「メディアを潰した」とまでは言えないかもしれませんが、でも立ち上げから関わり、20代後半の青春を捧げたメディアです。悔しさのあまり、僕は初めて仕事で人目をはばからず号泣しました。メディア運営というものの、厳しさ、難しさを嫌というほど突きつけられた苦い経験です。

今、「NAVERまとめ」は月間で約3000万UU、7億PVのメディアにまで成長しましたが、少しでも気を抜けばメディアなんてあっさり潰れてしまいます。あんな経験は二度としたくない。そんな思いで日々奮闘しています。

伝えかたで人の動きは変わる

「R25式モバイル」のニュース編集をしていたとき、僕のメディア編集の原体験として強烈に印象に残る経験をしました。ある未解決の殺人事件について、ご遺族が手がかりを求めて駅前でビラ配りをした、というニュースを見たときのことでした。

ニュース編集とは、新聞社などから配信されてくるニュースに簡単な見出しをつけてサイトに掲載する業務。その日もいつもどおり、ニュースを要約して「○○殺人事件で遺族がビラ配り」というような見出しにして掲載しました。しかし、タイムリーな事件でも、犯人が捕まったというような進展があったわけでもないので、リアルタイムのPVを見ても悲しいことに全然伸びません。でも僕はこのニュースを、少しでも多くの人にどうしても伝えたかった。だって悔しいじゃないですか。ご遺族の気持ちを考えたら。そこでもっと気になる、ひっかかりのある見出しにしたいと、こうつけ直しました。

「事件から9年、いまだ手がかりなし」

何の事件なのか。いったい何があったのか。具体的な事実を指し示したわけではありません。ただ「事件で遺族がビラ配り」と中身を表現してしまうことで、内容を知った気になってしまい、かえって中身を見ようとしないのではないか。伝えたいことは「9年も解決していない事件がある」ということ、そして「いまだに苦しんでいる遺族がいること」です。そこを伝えるには中身を詳細に読んでもらう必要がある。だからこそ「何があったの?」と気にしてもらえるよう、あえてタイトルでは何も語らない表現にしました。狙いは当たり、このニュースはその時間のPVランキングでトップに踊り出たのです。

「R25式モバイル」は若手のビジネスマン向けメディアということもあり、芸能やスポーツ、もしくはビジネスマンとして知っておくべきトップニュース以外はなかなか伸びませんでした。それでも、タイトルを少し工夫しただけで、多くのユーザーが興味を持ってくれた。情報との「出会い方」次第で人の動きが変わることを実感した出来事でした。

メディアとは情報の媒介者である

情報というのは存在するだけでは無意味で、人に伝わって初めて価値が生まれます。メディアとは情報の媒介者。伝わるべき人にきちんと届けてあげるには、伝える技術や仕組みが必要です。

インターネットが登場したことにより、社会に流通する情報量は数百倍に膨れ上がったと言われています。以前よりはるかに簡単に情報を手にできるようになった一方で、情報が多くなりすぎて探しづらくなっているのも事実。この途方もない情報の渦の中で、どのように情報媒介していけばいいのか。その問題を解決すべく生まれたのが「キュレーション」という概念です。キュレーションの登場によって、情報媒介者としてのメディアは、これからどう変わっていくのか。みなさんと一緒に考えていければ幸いです。

では、そもそもキュレーションって何なのか。次回はその点についてお話ししたいと思います。

[第2回「検索ってときどき不便。ランチ難民の僕らの前に現れたヒーローって?」はこちら]

桜川和樹「100万人のメディアを潰した男、キュレーションを語る。」バックナンバー