雑誌やテレビでも強まるキュレーションの流れ
前回、キュレーションの本質は「情報を収集、選別し、わかりやすく編集して誰かに伝えること」であり、雑誌やテレビがやってきたことと変わらないとお話ししました。ただ、その雑誌やテレビも、ここ10年で急速にキュレーションの流れを強めていると感じています。
例えば「家電芸人」という言葉を作り出した、人気の深夜バラエティ「アメトーーク」もキュレーションです。毎回違うテーマについて情報収集し、紹介する(いじる)部分を選別。それを芸人のトークで編集し、放送に乗せて視聴者に伝える。「情報の収集、選別、編集、伝達」というキュレーションの本質をそのまま体現したような番組であり、「情報との出会い方」という観点において、「アメトーーク」は新たな価値を作り出した「メディア」だと思います。
僕が以前、所属していた「R25」は、いわば「新聞のキュレーションメディア」です。新聞を「読みたいけど暇がない」「読んでもよくわからない」「でも読んでないとは、恥ずかしくて言えない」という、若手ビジネスマンのインサイトを突いて、時事問題をコンパクトにまとめて届けることで支持を得ました。新聞に載っていることは必ずしもすべて必要ではない。彼らにとって必要な情報だけを、移動中などにサクッと読めるよう、800文字のフォーマットで編集したことが、忙しい彼らの生活スタイルにハマったのだと思います。
そしてキュレーションはリアルの場へ
2000年代後半、都内で社会人向けの「大学」が続々と登場しました。それぞれ方向性は違いますが、多くの大学でキュレーションのエッセンスが見られます。出勤前の時間帯の活用法を考える「丸の内朝大学」は「朝活」のキュレーションですし、青山とアート、代々木公園と防災、など、渋谷周辺の街を舞台に授業を構成した「シブヤ大学」は「街」のキュレーションと言えます。職業や肩書きを超えて、誰でも自分の専門について授業ができる「自由大学」は、理念のひとつに「授業のキュレーション」を掲げています。どれもオフの時間をより濃密なものにするための情報を、授業というカタチで届ける機能を果たしています。
最近ではリアルな店舗にもキュレーション的な取り組みが見られます。博報堂ケトルの嶋浩一郎さんが始めた、下北沢の書店「B&B」もそのひとつ。新刊旧刊を問わず、独自の視点で構成された本棚が並んでいて、雑誌の本特集がそのまま本屋さんになったようなお店です。同じ書店だと、昨年オープンした「代官山蔦屋書店」は、コンシェルジュが吟味した商品が並び、雰囲気も落ち着いていて、「TSUTAYA」そのものを「大人」でキュレーションした店と言えます。どちらもこれまでにはなかった「本との出会い方」を提供してくれている素敵なお店です。
このようにネットの世界のみならず、キュレーションの流れはいたるところで見られるようになってきました。では何故、今、キュレーションなのか。次回は、その点についてお話したいと思います。
さて、ここからは告知です(笑)
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桜川和樹「100万人のメディアを潰した男、キュレーションを語る。」バックナンバー
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