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阿部真大さんに聞きに行く 「組織に属しながら自由に働く人の仕事術」(後編)

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手段と目的、本質に立ち返ることが求められる時代

廣田:今、まさに広告業界の人が「マイルドヤンキー」って言いはじめていて、ちょっとお気楽すぎるだろうと思っています。特定の層に名前を付けて、そこに消費の可能性があればバンザイ、みたいなことに無責任さを感じます。つまり、ニーズを掘り当てて、そこに受ければいいという話か、ビジョンを持って世の中をこういう風にしていこうよっていう提案のコミュニケーションとふたつあると思うんです。そこに広告マンとしてのスタンスとかあり方が問われているなと感じています。自分たちで価値創造とか言っているだけに、何をもって価値としているのかというところもあると思います。

阿部:マイルドヤンキー層は、特に若い男性に関しては極めて権威主義的で、排外主義的で視野が狭い。投票行動は保守的な方向に傾いていて、自民党的なものと親和性が高い。これは多分、アメリカの田舎と似たような構造です。リベラルな考え方は、こういうところからはなかなか出てきません。
電通の人は学歴も高いし、リベラルな人が多いと思うんですけど、マイルドヤンキーのレベルまで降りていって売ることを考えるのか、それではまずいということで別のビジョンを見せて、彼らをより良い方へ導いていくのかというのは、企業が何を目指すかにかかってくると思います。
学者だとある種の政治的信条をもって批判することはできますが、企業と一緒に物を売っていこうという広告会社としては難しい。そういうスタンスの中で広告を作るときに、どこまで批評的な精神を埋め込めるかというのは、これからどれだけ気骨のある広告マンが出てくるかというところにかかっていると思います。

廣田:マーケティングという言葉がちゃんと思想性まで内包できるか、つまり、マーケティングとは、手段なのか、目的なのか、そこに思想があるのかないのか、それが問われている気がします

阿部:批評精神ってマルクス的なものだと思うんですけど、専門化、細分化することでそれが徐々に失われていくのはどの分野も同じだと思います。例えば、社会学の世界で統計の手法を一生懸命学んで、その統計手法をひたすら高度化させていくと、対象は何でも良いからその手法で分析したくなるなんてことも起こりうる。そうすると徐々にそれが手段化して、道具を研ぎすますことに集中してしまいます。
細分化していくと、細分化されたポイントだけを一生懸命やれば、例えば電通に入れたり、マルクスを読まなくても社会学者になれたりするんですけど、それではまずい。そういった意味でも伝統的な価値観みたいなものを振り返って、業界なり学会なりが大事にしてきた理念をもう一度見返すということが、多分いろんな場所で必要とされている気がします。道具を磨くことに一生懸命になるんじゃなくて、ベースにある価値観みたいなものを伝えておくべきだっていうことも『「破格」の人』で伝えたいメッセージのひとつです。

廣田:僕の本(『SHARED VISION』)は、ソーシャルメディアは目的ではなくて、手段なのでビジョンをみんなと共有することで初めてそれを通してお客さんとコミュニケーションする意味がでてきます、ということを書いています。ソーシャルメディアを使って売上げを伸ばす方法もあるけど、それは本質ではないということを言っているので、同じようなことが社会学の研究でもあるということがわかってすごく面白いなと感じました。

阿部:専門化、細分化の進む今の時代だからこそ、そういった本質とか理念に立ち返ることができるかということが求められているのかなっていう気がしますね。

廣田:今日はありがとうございました。最後にものすごくいいお話が聞けました。

※本対談記事のダイジェスト版を「ウェブ電通報」でも掲載。


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阿部真大 氏
1976年岐阜県岐阜市生まれ。東京大学卒。社会学者。甲南大学准教授。専門は労働社会学、家族社会学、社会調査論。ポスト日本型福祉社会におけるセーフ ティネットのあり方について社会学的な見地から考えている。主な著書に『搾取される若者たち ―バイク便ライダーは見た!』(集英社)、『居場所の社会学 ―生きづらさを超えて』(日本経済新聞出版社)、『地方にこもる若者たち―都会と田舎の間に出現した新しい社会』、(朝日新聞出版)など。近著に『「破格」の人―半歩出る働き方』 (KADOKAWA)。


【「電通 廣田さんの対談」連載バックナンバー】
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「展開型のキャリアで道を切り拓く人の仕事術」(前編)
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