コンビニ袋の使いみち
すると、急ぐ気配もまったくないGパンTシャツの連中が笑いながら現れた。明らかに空港で違和感を放つ彼らは、初対面であっても、ヴィレヴァンの社員だとなんとなくわかる。
「お疲れ様です」
「あ~、お疲れ」
「誰も来てないから焦りましたよ」
「あっ、そうなの」
なんなんだ、この余裕は。
もう、みんな軽装だったので、先に荷物を預けていたのかと思い聞いてみた。
「荷物、預けたんですか」
「預けてないよ」
「えっ、だって、何にも持っていないじゃないですか」
「いや、これ、持ってきたし」
彼の手にあったのは、くしゃくしゃのコンビニ袋。ただひとつだ。
「これ、便利なんだよねぇ。」
「えっ」
「なに入っているんですか」
「パスポート。ほかになんかいるの?」
まじか。当たり前でしょ感がハンパない。
もうひとりの店長も、海外旅行とは思えない小さいバッグだけだったので、話を聞いてみた。
「バッグ、小さいっすね。何が入ってるんですか」
「あ~、これ?『週刊プロレス』のバックナンバー」
「えっ、なんで?」
「だって、あっちで売ってないでしょ、週プロ」
「そうですね、たぶん売ってないと思います」
なんなんだ、これ。新人店長だった自分は成田空港で、もうおなか一杯になっていた。そして、いまから行く旅行が一筋縄では行かないことはすぐに想像できた。
高級リゾートで、コンビニポテチ
現地のホテルは、高級リゾートでホテル内の移動もバスが走るようなところであった。そんな場所に、コンビニ袋にパスポートぶらさげてきたような、むさくるしい男たちが集団で現れ、テンション上がって大騒ぎである。他の宿泊者も、「なんだこいつらは」という痛い視線をこちらに投げまくってくる。まあ、それも仕方ない。ひとまずチェックインして、得意のコンビニでお酒やお菓子を買い、ひとつの部屋に集まった。
そんなメンバーの中には、
「水道水が飲めないって聞いたので一升瓶持ってきました」
という強者もいて、さながら、近所の安い居酒屋で飲んでいるかのような状況だった。海外の高級リゾートと安酒のコラボレーション。ありえない組み合わせに違和感を感じながらも、僕らは最高に楽しい時間を過ごした。
「「ヴィレッジヴァンガードに学ぶお店づくり~こんなんだってあり~」」バックナンバー
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