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コラム

箭内さん!聞かせてください。今日このごろと、広告のこれから。

箭内さん!大学でどんなことを教えているんですか?

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—「相手に響いた」と感じられることって、教える側にとっての喜びですよね。

たまらない嬉しさなんでしょうね。昔、フジテレビの「フジテレビヤングシナリオ大賞」でグランプリを取った金子茂樹さんが「宣伝会議の箭内さんの授業を聞いて、ある瞬間にわかった」「それで獲れたんだ」ってことを、宣伝会議の事務局を通して僕に伝えてくれたことがありました。それがどの瞬間だったのか、僕にはわからないんだけど、誰かの扉が開く最初のきっかけを自分がつくれたというのは、やっぱり嬉しいですよね。僕自身の力って、どれだけ自分で巨大化させても限界があるけど、それが誰か飛び火して全然違う形や力になるのを体験して、こんなに面白いことなんだなって思いましたね。
(参考:http://copy.sendenkaigi.com/ob/tokyo/koe_kanekos/

「教える」のって、本当に一瞬でいいんです。一年中とか毎週じゃなくて、大学4年間のうちのたった一回、しかも2分間とかでいいから、とんでもない衝撃を与えられれば良い。僕は大学で、そのためのボールを投げ続けているんだと思います。自分以外にも、豪速球のピッチャーを連れて行って。

先日、東京藝大主催のトークイベントで、音楽学部の千住明さんとも「東京藝大には教えることも教わることも何にもないよね」って話したんですけど、そのことが真実だと思います。僕は教育に携わってはいるけど、やっているのは教えることじゃなくて、本人が気づいたり、目覚めたりする場の設定をし続けるとか、本人がホームランを打ち返せるような豪速球を投げ続けることなんですよね。投球のコントロール法やスイング法といったやり方を教えるんじゃなくて、肩を強くする教育が必要だと思います。コントロールは後でついてくるから、「こいつのボール、どこに来るか分からないけどすごく強いな」っていう肩を、まず先につくっていくことがすごく大事なんだと思います。

—自ら考えて、発見する力。さまざまな相手やシチュエーションで、強い球を投げ続ける力。これからの広告界・クリエイティブ界には必要なんですね。

その力をこれからの人たちに養ってもらいたいですね。今は、思いやパッション、クリエイティブよりもテクノロジーのほうがどうしても先に行ってしまっていると感じます。2020年をどう表現していくのかっていうことも含めて、それはもうすぐ壁に当たると思うんです。見たことない手品みたいなテクノロジーだけでは、立ち行かなくなる。パッションと、美術の基礎とセンスを訓練した人たちが、もっと活躍しないといけない。そういう人材をどんどん社会に送り込まなければと思うし、自分もそうしなきゃいけないなと思うんです。

広告も、テクノロジー、PR、マーケティングとさまざまな方向に進化して、それがクリエイティブになるっていうことがここ数年続いてきていますよね。デザイン畑出身のクリエイターが、少し後れをとっているような気がします。“美術情熱組”の逆襲が必要だし、僕ももっとやらないといけないと感じています。計算をする、テクノロジーを駆使する人たちと、デッサン力のあるデザイナーたちが合流したら、すごく面白くなると思うんですよ。


広告・クリエイティブの明日が見えるキーワード

デザイン出身のクリエイターの“逆襲”が必要
広告・クリエイティブ領域では昨今、新しい技術とその活用が先行し、クリエイティブへの情熱や基礎体力を着実に身につけることに重きが置かれなくなりつつある。「投球のコントロール方法を教えるのではなく、強い肩をつくる」–この時代だからこそ、情熱と、美術の基礎・センスを訓練した人たちがもっと活躍できるような教育が必要だと考えている。

箭内道彦(やない・みちひこ)

クリエイティブディレクター 東京藝術大学美術学部デザイン科准教授
1964年 福島県郡山市生まれ。博報堂を経て、2003年「風とロック」設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」リクルート「ゼクシィ」をはじめ、既成の概念にとらわれない数々の広告キャンペーンを手がける。また、若者に絶大な人気を誇るフリーペーパー「月刊 風とロック」の発行、故郷・福島でのイベントプロデュース、テレビやラジオのパーソナリティ、そして2011年大晦日のNHK紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストなど、多岐に渡る活動によって、広告の可能性を常に拡げ続けている。2015年4月、福島県クリエイティブディレクターに就任。