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市民を通して街の個性を発信する鳥取市のシティプロモーション

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新刊書籍『地域の課題を解決するクリエイティブディレクション術』(1月発売)で事例のひとつとして紹介した鳥取市は、2014年度から継続的にシティプロモーション施策を実施しています。市公式のフォトガイドブックを出版したり、「日本一住みたい田舎からの伝言」と題した交通広告を東京・吉祥寺駅に掲出するなど、ユニークな取り組みを続けています。

鳥取市のシティプロモーション施策は、「家族」をテーマに写真を撮り続け映画のモデルにもなった写真家の浅田政志氏の起用がポイントのひとつ。本書の著者でクリエイティブディレクターとして携わる田中淳一氏と、鳥取市の大塚愛子氏、広告会社ADKマーケティング・ソリューションズの和田義隆氏と、これまでの取り組みについて振り返りました。

大塚愛子氏(鳥取市役所 広報室)
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浅田政志氏(写真家)
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和田義隆氏(ADKマーケティング·ソリューションズ中国支社)
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田中淳一氏(POPSクリエイティブ·ディレクター)

地元の素晴らしさに気づいてもらいたい

大塚:2月21日から2月27日まで、鳥取市でのワーケーション訴求をテーマに、都内の人気勤務地である丸の内で、ポスターとサイネージ掲出を仕掛けました。コロナ禍で地方移住や仕事と余暇を組み合わせるワーケーションが注目される中で、鳥取市もその候補に入れてもらおうという施策です。

東京・丸の内に掲出したポスターの一部

きっかけは日経新聞による調査で、鳥取市が「多様な働き方ができる都市ランキング」で全国2位にランクインしていたことからです。これまでも様々なPRを仕掛けてきましたが、今回はワーケーションをメインテーマとしたキャンペーンをスタートしました。

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大塚愛子氏(鳥取市役所 広報室)

鳥取県鳥取市生まれ、鳥取市育ち。鳥取環境大学環境情報学部環境政策学科を一期生として卒業後、2005年に鳥取市役所へ入庁。環境政策課、市民課、河原町総合支所での勤務を経て、2016年4月より秘書課広報室に異動し現在に至る。

田中:僕は鳥取市のシティプロモーション施策にクリエイティブディレクターとして2014年度から関わっています。

鳥取市は食べ物も人も素晴らしい土地ですが、キャンペーンをスタートした当初は、その魅力に地元の方々が気づいていないのでは、と感じていました。鳥取市の個性を最大限伝えるにはビジュアルの仕立て方が重要な要素だと考え、浅田さんに参加してもらうことになりました。

浅田:鳥取は、鳥取砂丘を舞台に身近な人たちを撮影し続け、海外でも「UEDA-CHO(植田調)」として知られるスタイルを確立した、植田正治という写真家の大先輩を生んだ土地でもあります。とても尊敬している方で、僕も車の免許をとってすぐ鳥取砂丘に撮影に行ったりして、個人的にもすごく思い入れのある土地です。そんな場所で仕事させてもらえることが幸せですし、自然と気合いが入ってしまいます。

浅田政志氏(写真家)

1979 年三重県生まれ。日本写真映像専門学校研究科を卒業後、スタジオアシスタントを経て独立。写真集「浅田家」(2008年赤々舎刊)で第34回木村伊兵衛写真賞を受賞。三重県立美術館、PARCO MUSEUM TOKYO、香港国際写真フェスティバル、道後オンセナート等、国内外での個展やアートプロジェクトにて精力的に作品を発表している。2020年には著書を原案とした映画『浅田家!』が公開された。

田中:やはりまず住んでいる方たちに、そういう素晴らしいポテンシャルを持っていることに気づいてもらいたい。市民にとってのカンフル剤的な役割ができるといいなと考えていました。シティプロモーションにはシビックプライドを育てる側面もあると思うので、その点も意識したスタッフィングを考えました。

市民の人たちを主役にしたい、という思いが強かったので、控えめな鳥取市民の魅力と、自然な笑顔を最大限引き出してくれる写真家は浅田さん以外は考えられなかったんですよね。


様々な地域の仕事に携わるきっかけに

浅田:ありがとうございます。実はこの件をきっかけに、全国各地からの依頼が増えました。東京よりいろいろな方と出会って土地ごとの魅力に触れることができるんだなということを感じ始めた時にいただいたお話でした。ここまで一つの地域と深く関わって撮影を進めていく仕事は初めてでしたし、自治体が本を作って実際に販売するってかなり先進的な取り組みですよね。僕の中でも2015年のキャンペーンだけで終わらず、いまだに心に残っている仕事です。

2014年度に市民ワークショップで選定した鳥取市のすご!ネタ100個を、浅田氏がセットアップ写真で撮り下ろし。その写真で鳥取市公式のフォトガイドブックを制作し2015年度に鳥取市が全国出版した。

田中:僕たちは「すご100」と呼んでいるのですが、鳥取市の「すごい!」ところを100個見つけようというワークショップをやったんです。それを元に浅田さんに100カット撮影していただきました。撮影のみで通算で1カ月分ほど費やしたと思います。

市民のみなさんが、自分たちがワークショップで出した意見を元に一冊の写真集として書店に並ぶという貴重な体験を通して、自信も持ってもらいたいというのが初年度と次年度くらいまでの取り組み。その後は時代の空気に合わせ移住や定住を促進するキャンペーンに移行し、「すごい!鳥取市ワーホリ!」で首都圏在住の男女3人による3日間のワーキングホリデーの様子を撮影したドキュメンタリー動画を公開したりもしました。

「すごい!鳥取市ワーホリ!」ドキュメンタリー動画

和田:企画に関しては、最初は私と田中さんとADKのプランナーと「去年はこうだったからこうしたいね」とか「他の自治体はこうしてるから別のアプローチを取りたいよね」など、大まかなアイデアを出し合って田中さんにまとめてもらうところから始まりました。僕らが全部決めてというよりは、担当の方ともコミュニケーションを取りながら、という感じですよね。

和田義隆氏(ADKマーケティング·ソリューションズ中国支社)

2002年ADK入社。気がつけば勤続20年。福岡から広島に単身赴任中。写真はスゴ100にもあった鳥取マラソン完走直後。間違いなくタフコースでした。

市民をモデルにすることで、地元への意識も変わる

田中:そうですね。いろいろな自治体のプロモーションを担当していると、「共通の課題を抱えている自治体もある中で、それぞれどんな工夫をされているのですか?」という質問を受けることが多くあります。

確かに枠組みから考えていくと似通ったプロモーションになってしまうのかもしれませんが、問題の根源を追求していくと、だいたい地域性に紐づいていることが多いので、あまり同じになってしまって困る、ということはないんですよね。人も食べ物も文化も何もかも違うので、毎回企画を立てていく作業も新鮮で面白いですよ。

田中淳一氏(POPS クリエイティブ・ディレクター/東北芸術工科大学客員教授)

宮崎県延岡市出身、早稲田大学卒業後、旭通信社(現ADK)入社、営業本部を経て制作本部(コピーライター)に転属。38歳でクリエイティブ・ディレクターに就任。2014年にCreativity for Local, Social, Globalを掲げPOPS設立。松山市、鳥取市、今帰仁村、登米市、高知県など38都道府県以上でシティプロモーション、観光PR、移住定住施策などの自治体案件や地域企業、NPO団体のクリエイティブ・コンサルティング、企業ブランディング、プロモーション、商品開発などを手がける。

 

浅田:写真家の立場から見ていると、プロのモデルを起用するのではなく、本当にそこに住んでいる人たちを撮影するからこその“何か”を撮ることができるんだと感じています。さらに自分たちが街のPRに関わっている、という実感を持つことで、街の人たちの意識も変わっていくのではないでしょうか。外部の誰かに変えてもらうだけではなく、市民の意識も変わっていかないと、本質的な課題の解決にはならないかもしれないので。

2018年度は、“日本一住みたい田舎からの伝言”と題して、日本一住みたい田舎に選ばれた鳥取市から「住みたい街ランキング」常連の吉祥寺駅にポスターを掲出して話題をさらった。

田中:特に地域の仕事は、現場にきてのライブ感みたいなものがとても大事だったりするので、地域の方達とコミュニケーションを取りながら一緒につくり上げていく感じになる。スタッフと案件の相性も大事なのかなという感じもしますね。

大塚:そうですね。もうこのチームで動きはじめて8年になるのですが、みなさん鳥取市愛がすごいなというのは参加させていただいた当初から感じていました。みなさん県外の方ですし、お忙しいはずなのにプライベートでも来てくださっていたり、「どうすれば鳥取市がよくなるかな?」と真剣に考えてくださっている。みなさんの人柄もあってこそかなと感じています。

地域の課題を解決するクリエイティブディレクション術
定価:1,980円(本体1,800円+税)

 
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