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コラム

ローマで働く 駆け出し国連職員の日常

新しいビッグボスがやってきた

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18年ぶりにトップ交代で大騒ぎ

1月も第2週目に入って、クリスマスや正月休みに故郷に帰っていた職員たちもわらわらとローマに戻ってきました。国連にはホームリーブという制度があり、2年に一度、故郷に2週間以上の休みを使って帰っていいという休暇システムです。同僚の中には年末にこのホームリーブを取る人もいましたが、まだ新人の私はいち早く12月の末に仕事に戻りました。

実はFAOの職員にとって、この新年は特別の意味合いがあります。18年もの間組織の事務局長を勤めていたセネガル出身のジャック・ディウフ氏が任期を満了し、2012年1月1日よりブラジル出身のグラジアノ・ダ・シルバ氏が事務局長に就任しました。1月3日に年明け初出勤した職員は、トップが18年ぶりに交代するということで気分がそわそわ、正午になるとグラジアノ事務局長の初記者会見をネット放送で聞こうとパソコンにかじりつきます。

グラジアノ氏の初記者会見


記者会見にて質問に応える事務局長のグラジアノ氏 ©FAO/Alessandra Benedetti

「せっかくだから生で記者会見を聞きましょうよ」と先輩に誘われて私は記者会見場に入ります。組織のトップの演説を聞くのは日本の会社の入社式以来です。国際機関は加盟国が株主だとすると、事務局長は雇われ社長といったところでしょうか。もちろん加盟国が組織の戦略や予算の使われ方などの大きな舵取りをするのですが、職員にとってのビッグボスは事務局長なので、みんな事務局長のマネジメントがどのようなものになるのか期待と不安がいりまじるようです。

グラジアノ氏はブラジルの食糧安全保障および飢餓撲滅特命大臣として、ブラジルで「Zero Hunger」(ポルトガル語でFome Zero)というプログラムを実施し、たった5年の間で2400万人が極度の貧困から抜け出すことに成功させ、ブラジルの栄養不足人口を25%も削減させたというナショナルヒーロー的存在です。2006年からはFAOの南米地域代表として地域全体の食糧問題を担当し、食糧問題や飢餓撲滅にかけてはラテン的なパッションを感じさせます。「紛争解決と食糧問題、どっちが大事か?」とちょっと意地の悪い記者の質問に対しても「平和なくして食糧の安定供給はない。平和と飢餓撲滅はコインの裏表のような関係だ」と応対。「シリアのように政府が不安定になっている状態をどう思うか?」と聞かれれば「民主主義なくして食糧安全保障は達成できない」と哲学を語る新しい事務局長。新年早々、理想を語るトップを見て、熱い気持ちがこみ上げてきました。

広報としてトップをアピールするには?

さて、広報局としては新しい事務局長がやってきたということで広報戦略がどう変革するのか、新しい事務局長を通して組織をどうアピールしていくのか議論が盛り上がっています。私たちのチームでも事務局長のPRページを立ち上げるほか、他の国際機関のトップの広報スタイルとの比較研究などにも熱がこもります。

「新事務局長は、オバマ風が好きらしい」やら「いや、国連事務局長の潘基文(バンギムン)のPR戦略を気に入っているらしい」など憶測半分の議論が盛り上がります。オバマ風とは?とホワイトハウスのページを見ると、PR先進国のアメリカ大統領だけあって、すっきりしたデザインなのに内容が充実し、洗練されています。

動画にブログ、日替わりのフォトギャラリー、そしてメーリングリスト、そしてスケジュールの公開まで、このサイトの運営にかかる労力たるや、想像をしただけでめまいがしそうです。特に国連は公用語全てへの翻訳が必要なので、内容を欲張りすぎるとタイムリーなアップロードに苦労します。その点、国連事務局長の潘基文氏のインターネット広報戦略はスタイリッシュかつアクティブで参考になりそうです。昨年にはソーシャルメディアを使ったライブ質問中継をしたり、MTV風のプロモーションビデオを流したり、堅いイメージがつきまといがちな国連のPRの型を破ろうとする意思が見られます。

こんなビデオを作ることになるかは全く未知数ですが、LinkedInやFacebook、Twitterなども既に使いこなしているというグラジアノ氏を事務局長に迎えたFAO、2012年もいい働きで、飢餓撲滅のために一歩前進したいものです。

山下 亜仁香「ローマで働く 駆け出し国連職員の日常」バックナンバー

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