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コラム

ソーシャルメディア時代のチェンジマネジメント

テレビより前にソーシャルメディアが報じていた、九電やらせメール事件

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「やらせメール」の事実は住民説明会の前に拡散していた

九州電力やらせメール事件は、2011年6月26日、玄海原子力発電所2、3号機の運転再開に向けて経済産業省が主催した「佐賀県民向け説明会」において、九州電力が関係会社に原子力発電所の運転再開を支持する電子メールを投稿するよう指示していたもの。いわゆる世論偽装工作事件である。

世間が広くこの事件を知るきっかけとなったのは、2011年7月6日、衆院予算委員会での日本共産党による国会質疑だ。この指摘を受け、九州電力社長は事実を認め謝罪するに至り、報道各社が一斉に「九電やらせメール事件」として報道する結果となった。

しかしながら、実はネット生放送の前日6月25日。ソーシャルメディアはこの問題を見つけ出し、知る人ぞ知る情報として拡散していたのだ。

元となったのは、ブログ記事による告発だ。このブログには、某小学校の親子ドッジボール大会において、友人の九州電力関係者に、九州電力がコンプライアンス違反をしている事を告げられ、「やらせメール」自体も見せてもらったと記されている。そして、このセンセーショナルなブログ記事はソーシャルメディアを駆け巡り、生放送が行われた当日正午までに、ツイッターを通じて1万人以上に拡散したとみられている。

さらにブログのコメントを読み進めると、この記事を投稿したブロガーは、事の重大性を真摯に受け止め、マスコミ各社や原発稼働に反対する団体に詳細な情報を伝えたようだ。しかしながら、国会答弁前に独自ルートでスクープした日本共産党「しんぶん赤旗」に対して九州電力が「そのような事実はない」と否定していたことから、マスコミ各社は報道を控えるカタチになっていた。

参考まで、日本共産党に九州電力子会社の社員が「やらせメール」を持ち込んだのも放送前日の6月25日。また、別のブログにおいても6月26日早朝に「電力会社の関連会社(福岡県)の方から文章をもらった」とあり、九州電力への強烈な皮肉が表現されている。

世論をコントロールできると思っていた九電幹部

九州電力のとった行動は、極めて不適切だったと言わざるを得ない。彼らは、透明性の時代において、いまだに世論をコントロールできると考えていた。また、事実を認めた記者会見においても、記者からの質問に「ノーコメント」を連発、視聴者に極めて強い不快感を与えている。

しかし、現実は全く異なっていた。メールを配信された子会社は4社、少なくとも1500人が閲覧したが、企業の利益のために自らの意思に反する意見を強要されたことに対して、強い反発を感じた社員がいたのは当然のことだろう。情報源となったブロガーの知人は、この件について不快感を表明し、それに共感したブロガーが記事を投稿するにいたった。それを読んだ多くの生活者が二人の心情に共感、放送直前までに1万人以上に伝播していく。同様に、義憤を感じた九州電力子会社の社員は、自らを犠牲にする覚悟で「しんぶん赤旗」にリークしたのだ。それに対して、九州電力幹部は、この事実を知る由もない、まるで裸の王様状態だった。

メールという記録に残る複製可能なメディアを使い、子会社の社員に指示を出し、その後も社内調整をしたうえで「そのようなことを関係会社に依頼するようなことは一切しておりません」(「しんぶん赤旗」7月2日付け記事より)と回答した九州電力の応対は稚拙と言わざるを得ないが、程度の大小はあれ、この感覚は多くの企業広報にも通じると言えるのではないだろうか。

しかも、この事件を契機とした内部調査の結果、経産省・原子力安全保安院が、別のシンポジウムで中部電力、四国電力にも賛成の声を住民から出させるよう「やらせ」を依頼していたことが発覚。国と業界をあげての原発安全キャンペーンのゆがんだ実態が明らかになりはじめた。

情報開示と誠実な対応以外に解決策はない

さらに経産省・資源エネルギー庁は、2011年度にツイッターなどのソーシャルメディア上で原発に関するクチコミを監視する事業「原子力安全規制情報広聴・広報事業(不正確情報対応)」を某大手広告代理店と契約したこと、また同様の事業を2008年から行っていたことなどが報道された。これに対し、日弁連は表現の自由を侵害する恐れが大きいと指摘。民主主義社会の根幹を揺るがせる重大な問題であると、即時の中止を求めている。日弁連の会長声明では、市民は「やらせ」などによって歪んだ世論誘導の中、より正確な情報を得るためにソーシャルメディアを活用しており、政府が行うべきは「監視」ではなく「開示」だと厳しく断じている。

透明性の時代に、情報統制の技術を持ち込むと、とどまることのない炎上を引き起こすことになる。これは企業がソーシャルメディアを活用しているか否かには関係ない。むしろソーシャルメディアに窓口を持ち、誠実な対応をすることで、被害を最小限に食い止めることも可能なことを認識すべきだろう。オープンになって困ることが社内にないかどうか、仮にあったとしたら直ちに修正すること、必要あらば自ら発表してしまうこと。

今、世界はソーシャルメディアによってつながっている。そして、人々は絶え間なく情報を交換し、企業やブランドの言動を審判している。細かなウソも通用しない、透明性の時代が到来したのだ。会社を導く立場にある経営者は、そのことを強く意識しなくてはいけない。今までの統制的な手法で顧客や社員をコントロールすることは不可能であり、逆に格好の炎上材料と化してしまう。透明性の時代にいかに企業を正しい方向に変えてゆくべきか。経営者はそれを第一に考えなくてはいけない。この事件は、新しい時代に対応できない、企業トップが抱える問題点を浮き彫りにした象徴的な事象と言えるだろう。