64人の住人からコピーのヒントを得る
家で書く。机で書く。ひとりで書く。これがもっともシンプルな書き方だと思う。ただ、私はちょっと違う。なぜなら、シェアハウスに住んでいるから。今年の1月にオープンした原宿のシェアハウス「THE SHARE」。ここの共有スペースで、日夜コピーを考えている。
パソコンのモニターから視線をずらすだけで、いろんな人のしぐさが垣間見られる。キッチンでは餃子を焼いている。カウンターでは数人でビール。ハンモックでうたたね。奥の方では、発表会に向けて、ダンサーが舞っている。集中してコピーを考えている時に限って、住人の笑い声が気になってしまう。加わりたい衝動にかられるものの、我慢。それでも、会話の中で自分の名前が連呼されると、どうしようもなくなってしまい、輪に混じる。気付いたら、朝になっていて、結局コピーがひとつも書けなかったことも(実際、この文章を書いている時に新しいスマホに変えた住人がいて、見せびらかしてもらった)。
それでもやはり、コピーを考える上で、いろいろな刺激を受けられることは、プラスに働いていると思う。「フリーランスになるのって、こんな気持ちなんだ」「専門学校生って、課題ばっかであんまり遊ぶ時間ないんだ」。職業も年齢も価値観も違う64人の住人。話をしたり、それぞれの会話に聞き耳を立てていると、やはりコピーを書く上での勉強になっている気がする。自分とは違う立場・境遇の人だったらどんなコピーが効くのか。できる人は、そういったところも想像力でカバーできるのだろうけど、今の私には到底難しい。
雑多な情報が飛び込んでくる原宿
今回の宣伝会議賞の課題でも、サービスや商品が女性向けであったり、高額だったりと私自身が直接的なターゲットでない場合、当人の気持ちになるのに骨を折る。課題が発表された時は、「応募数の上限が1500本」に残念な気持ちも沸いたが、そもそもそんなにコピー案が思いついていない。考えを振り絞って捻り出したコピーも、自分自身が見ても、あまり「良い」とは思えない。考えて、考えて、考えて、どうしようもなくなったら、逃げるように家を飛び出す。幸いここは原宿。散歩するだけで、雑多な情報が飛び込んでくる。街行く人の服装、スケボー少年の奇声、パンケーキを求める行列待ちのカップル。彼らと商品の接点は? どんなコピーが響くか?
緩やかな坂を上ると、宣伝会議さんの本社が近くにある表参道の交差点まで来てしまった。ここを青山一丁目方面に向かうと、シェアオフィス「PORTAL POINT」がある。私はここのフリーデスクを契約している。場所柄、デザイナー、建築家、PRをはじめとしたクリエイターが多く集まる。私がここに訪れるようになった理由もまた、刺激を得るため。それと、デスクから東京タワーと六本木ヒルズが一望できるから。そして決め手となったのは、ひとつ下のフロアーに「あのコピーライター」の事務所があるから。TVゲームをつくったり、埋蔵金の発掘を試みたり、手帳を販売している、あの御方。宣伝会議賞の一等賞を撮ったこともあるあの御方に少しでも近づいたいと思い、まずは物理的に近づいてみた。だからといって、今のところ飛び抜けたコピーが生まれる気配が、ない。はやいとこ一等賞獲って、成り上がりたい。
月曜日は、高田寿実さん(36歳)の「宣伝会議賞チャレンジ宣言(2)10月の試練編」をお届けします。
挑戦者16人のプロフィールはこちらから。
【宣伝会議賞チャレンジ宣言 永井一二三さんバックナンバー】
日本最大規模の公募広告賞「宣伝会議賞」は第50回を迎えます。1963年にスタート以来、広告界で活躍する一流のコピーライターのほか、糸井重里さん、林真理子さんといった著名な書き手を輩出してきました。50回目となる今回は50社の協賛企業から課題が出されており、第一線で活躍する100人のクリエイターが応募作品を審査します。課題は9月1日発売『宣伝会議』本誌にて発表、2012年10月31日が締め切りとなります。
「since 1963 コピーライターの登竜門!第50回 宣伝会議賞 特設コンテンツ」バックナンバー
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