前回のコラム「懐深い名古屋の地で、「アフリカ×デザイン」「あかちゃん×デザイン」という独自性を育むーー柴田 始志(アフリカデザイン代表)」はこちら
地域で活動するクリエイターは、その土地の特性を生かしたプロダクトやサービス、表現を生み出すのはもちろんのこと、その魅力を世界に向けて発信することで、業界全体に大きなムーブメントを起こしたり、日本の、そして各地域の魅力を再認識してもらうきっかけをつくることもできるようになりました。
コミュニティの密度が高いからこそ実現する企画、その地に暮らしているからこそ発想できるアイデア。テクノロジーの発展によってそこに情報の発信力、メッセージの拡散力が加わったことで、地域で働くクリエイターができることの可能性は大きく広がりつつあります。
第1弾の好評を受けて実現した、この 「いま地域発のクリエイティブが面白い! Vol.2」には、広告のみならず、プロダクト、パッケージ、空間、建築と幅広い領域のクリエイター9人が登場。地域で働くクリエイターが感じている「限界」、そして「可能性」とは?
等身大で、自分の仕事の今と、未来に向けた思いを語ります。
松倉 早星「ovaqe(オバケ)」
松倉 早星(ovaqe)
はじめまして、京都を根城に様々な表現分野で企画・プロデュースをする「ovaqe(オバケ)」の松倉早星(まつくら・すばる)です。「オバケ」というのは、プロダクション在籍時、プライベートで作品づくりを行う際に使用していたハンドルネームです。一応、企業に所属していたので名前を伏せて活動していたのですが、結局そのまま社名にしました。
領収書を切る際、確実に二度確認が入る不思議な社名「オバケ」は、プランニングやブランディングを主に担当する松倉と、プロデューサー・アドバイザーという立ち位置で現場を整えていく薩川拓也とで起業し、その1年後に京都の老舗や地方の仕事をメインにアートディレクター兼プランナーとして立ち回る綿村健が加わりました。
所属していたプロダクションに甘えている感覚があったこと、さらにデジタルに留まらない領域の仕事がオバケ名義で増えてきたということが、独立のきっかけです。元々、常に歩いたことのない道を選択する主義。とは言え、起業に際して大志は特にありませんでした。薩川と組んだのも、たまたま起業を決めたタイミングが一緒だったことと、僕とは真逆の人間性を持つ存在だったので、一緒にいれば何か面白いことができるんじゃないかと考えたからでした。
メンバーはデジタル畑の出身なので、元々強みとしていたのはインターネット領域だったのですが、2012年の創業以来、業務領域は日々広がっています。もちろんウェブサイトも作りますが、広告全般の企画制作、商業施設の企画、UI設計、さらには人工知能のコミュニケーション設計や、行政との都市開発まで手がけることもあります。僕の業務領域はプランニングやコンセプトメイキングだったので、ウェブを起点として手法の選択肢が自然と増えていったという感覚です。課題を解決するための手法を様々な領域から選ぶ中で、業務範囲が拡大していきました。
そのため、うちの企業ロゴはオバケが壁をすり抜けている様子を描いています。あらゆる表現領域の壁を取っ払って、モノづくり・コトづくりを実行していく意思を表しています。
「京都」といえば、誰もが容易にその佇まいを想像できるほどメジャーな都市です。
なぜ僕らが京都を拠点にしているのか。そこには特に大きな理由はなく、「たまたま京都にいたから」という、本稿の趣旨を踏まえると非常に申し訳ない自体が起きています。京都という街自体、歴史と伝統を積み重ねてきた強い魅力を持った美しい場所なので、特別、僕らが「京都のために何か起こそうぞ!」という必要性もない。理由を挙げるとすれば、飯がうまい、飲み屋が近い、歴史が恐ろしく深い、といったところでしょうか。モノづくりをする上で、東京とは別の刺激がここにはあります。
オバケのスタンスとして「会ったことがある人からしか仕事を受けない」という変なルールがあります。
さらに「オンライン上で業務実績を見せない」という、わけのわからんルールもあります。
これは僕が勝手に言い出してしまったことなんですが、理由は「人との関係性」を重視して仕事をしているから、ということに尽きます。「オバケだから、いるかいないか分からないほうがいいよね…」という安易な提案が、巨大な機会損失を巻き起こしているとも言えるのですが、僕らのスタンスには合っていて、2013年12月で創業3年目を迎えた現在も、無事に飯を食えている状態です。
京都が拠点であるとは言え、僕らは京都の仕事だけをしているわけではなく、むしろ京都の仕事のほうが少ないくらいです。
東京、兵庫、和歌山、香川、さらには海外と地域を問わず、またクライアントは企業から個人まで様々です。
起業当初から京都の仕事はそれほど多くなく、綿村が加入してから増えてきている、という状況です。僕らの会社は3人それぞれがクライアントを持って独自に制作チームを編成し、制作に関する戦略や知見、アイデアを共有し合うというスタンスで仕事をしています。僕が東京にいれば、誰かは和歌山にいて、もう一人は京都で作業をしているような会社です。会社という形をとっているものの、先ほども書いたとおり、何より重視しているのは人との関係性です。クライアントも、会社として仕事を受けるというよりは、その担当者が好きだからという理由で受けることのほうが多い。人間的なつながりだけで、業務範囲は自然と広がってきました。ですから、今後出会う人によっては京都の仕事が増えるかもしれませんし、まだ行ったこともない地域の人と仕事をするかもしれません。ロケーションは気にしません。
オバケの業務内容の内訳としては、広告会社を介した仕事が40%、直接取引をしているクライアントとの仕事が40%、遊び20%といったバランスです。
「遊び」というのは、「部活」とも言ったりするのですが、僕らが仕事する上で「こんなものがあったらいいのに」というものをつくったり、クライアント向けに提案したものでどうしても実行したいアイデアを実現したりと、業務に直接関係のない「やりたいことをやる」作業を指しています。例えば、「履歴書って、その人のことが実は何も伝わらないよね」と話して作ったのが「自系図(zikeiz)」。趣味の年表が生成できるサービスです。「そんな音楽聴いてきたの?」「あのゲームやってたんだ!」といったことが一目で分かり、面接では語られない、その人の人となりが見えてきます。
「いま、地域発のクリエイションが面白い!第2弾」バックナンバー
- 地域の老舗企業が、個人のアートディレクターに仕事を依頼したわけ(2014/10/03)
- 「札幌は、コピーライターにとって楽園である」——その心は…?(2014/9/26)
- よくある質問「ローカルだといい仕事はあまりないんじゃないの?」に答えます!(2014/9/08)
- 懐深い名古屋の地で、「アフリカ×デザイン」「あかちゃん×デザイン」という独自性を育む(2014/8/22)
- その地の人々の暮らし方を、働き方を、そして生き方を良くするデザイン(2014/8/19)
- 1次、2次、3次、そして6次産業は、クリエイティブの力でもっと面白くなる!(2014/8/01)
- “東京コンプレックス”という負のエネルギーからのものづくり(2014/7/29)
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