きっかけは震災で体験した「千羽鶴問題」
西野:たとえば、僕は阪神淡路大震災の被災者で、うちは大丈夫だったんですけど、近場は大変だったので週末にボランティアで行ってたんですよ。そこでボランティアの僕たちの手と時間が何に奪われたかというと、豚汁をつくったり、毛布をかけたりではなくて、全国から届く千羽鶴の撤去に時間がかかったんです。
澤本:撤去!?
西野:千羽鶴をどけないと、豚汁、毛布が運べないんです。どけるだけじゃなくて処分しないといけないんですね。そのコストが全部被災地持ちだから、僕たちは千羽鶴はいらないと。でも、そう言うと送った側の人達が、いや、あなた方のことを思って折ったのにいらないとは何事かと、送った側の正義でもってこっちが叩かれてしまうという。
震災の都度、この問題が起こっていて、東日本のときも熊本のときも、千羽鶴問題って毎回起こっているんです。そのとき、なんでそもそも贈り物で人が不幸になってるんだろうと思ったんです。これは基本的に誰も悪くなくて、問題はモノが不足していた時代の常識と、モノで溢れている今の常識がぶつかっちゃっているということです。
つまり、モノが不足していた時代は贈り物が相手の幸せに直結する可能性が高かったんです。みんなが腹を空かせているので、食べ物を送ったら喜んでもらえると。でも、今は食べ物が溢れてるし、今食べなくてもいつでも食べられる。つまり、この時代はなるべく持ち物をコンパクトにして、スペースを開けて、好きなときに好きな分だけ取りたいんですね。
その人に贈り物を送っちゃうと、場合によっては自由を奪っちゃうことになります。これを解決しようと思ったら、たとえば贈り物が全てお金だったら手っ取り早いと思ったんです。お金だったら使わないときは財布や銀行に入れて、使うときに使うぶんだけ出せるので。
中村:結婚式の引き出物に選べるカタログってありますが、あれもお金一歩手前という。
西野:そうですね、まさに。あれが完全にお金だったら一番便利なんですけど。ただ贈り物の本質って、そこに費やされた時間なので。買いに行ってくれた時間、悩んでくれた時間、つくってくれた時間など、時間に価値があるんです。1万円送られると便利だけど、そこに時間がかかってないので、便利だけどさびしいんですね。
この問題を解決しようと思ったら方法は1つしかないと思ったんです。プレゼントするお金に時間を乗せてあげて、それを可視化することです。たとえば僕が澤本さんの誕生日に1万円を渡して、その1万円に西野がむちゃくちゃ時間をかけたということが見えれば、澤本さんはそれを受け取りやすいですよね?
澤本:確かに受け取りやすいですね。
西野:つまり、お金に時間をかけてしまえばいいと思うんです。では、どうやってお金に時間を乗せることができるかと考えて、結果、今あるお金に時間を乗せることは無理なので、そうではなくて、額が増えれば増えるほど時間がかかってしまうものをお金にしてしまえばいいと思ったんです。
今は紙幣と硬貨がお金じゃないですか。そうじゃなくて、額が上がれば上がるほど、送るのに時間がかかる何かしらのものがお金になってしまえば一番いいと思ったんです。それって一体何かと考えたときに「文字」だったんですね。
澤本:なるほど。
西野:僕が澤本さんに1文字送るのと、1,000文字送るのでは、1,000文字送ったほうが時間がかかるわけじゃないですか。この1文字がお金になってしまえばいいと、文字を通貨にしようと思ったんです。入口はそこですね。では、どうすれば文字って通貨になるんだろう、というところから逆算してつくってるのがレターポットです。
「澤本・権八のすぐに終わりますから。アドタイ出張所」バックナンバー
- すべての役がターニングポイント(前田弘二・倉悠貴)【後編】(2024/3/14)
- この映画が大変な人の逃げ場になればうれしい(前田弘二・倉悠貴)【前編】(2024/3/12)
- 3期生のおかげで、櫻坂46がパワーアップした(藤吉夏鈴&山﨑天)【後編】(2024/2/22)
- 櫻坂46は格闘技。裏は戦場だけど、ライブが好き(藤吉夏鈴&山﨑天)【前編】(2024/2/21)
- 芸人と広告クリエイター、それぞれのアイデア発想法(ハナコ・秋山寛貴)【後編】(2024/2/08)
- 広告好きな芸人が、広告から学んでいること(ハナコ・秋山寛貴)【前編】(2024/2/06)
- 乃木坂46の公式ライバル「僕が見たかった青空」はどんなグループ?(柳堀花怜・安納蒼衣)(2023/12/14)
- 映画『福田村事件』で感じた集団の恐ろしさ(田中麗奈)【後編】(2023/11/22)
新着CM
-
販売促進
サバ缶がアパレルショップに陳列される? 累計販売数1000万缶の売り場戦略
-
AD
宣伝会議
【広報部対象】旭化成のグローバル社内イベント成功事例を紹介
-
販売促進
ニベア花王、駅構内で化粧品が買える自販機 旅行客の忘れ物需要に応える
-
AD
広告ビジネス・メディア
フィジカルとデジタルをひとつに捉え 人・時・場に応じた最適な配信を行う
-
広告にあふれる「家族」。そして「かぞく」。(太田恵美)コピー年鑑2023より
-
クリエイティブ
ファンケルが30歳前後向けシリーズ発売、杉咲花がCMで「一人十色」表現
-
販売促進
「本気になると、人は白目になる。」 『花とゆめ』創刊 50周年 少女まんがのコピ...
-
特集
CMO X
-
クリエイティブ
コピーライターとしての現在地を教えてくれる「地図」―『広告コピーってこう書くんだ...