コラム

「シェアしたがる心理」のこれからを考える

世界最先端の「顧客体験」ってどうなってるの?【後編】

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最後に、このような変化を肯定的に捉えながら、僕自身は意義のあるクリエイティブをつくりだすこと、人に届く表現を生み出すことがコミュニケーションビジネスに身を置く私たちのミッションだという不変の価値にも目を向けたいと思います。

セッションの中でヴァージングループのリチャード・ブランソンがキーノートスピーチを行っていました。Adobe Summit2018の中でも特に印象的だったセッションのひとつです。もうそこそこのお年なのにロックスターみたいな風体で、カリスマ性も抜群でした。話も面白いし、聴衆を鼓舞する力がある。肩書も「CEO」みたいな会社の中のポジションじゃなく、「Entrepreneur」と生き方を冠していてかっこよかったです。

「Experience Maker」への鍵は相手の「楽しい」への敏感で細心の注意だとブランソンは述べています。昔は飛行機に乗るということのエクスペリエンスは最悪だった。だからこそ、そこに自分たちのチャンスがあった。そんな顧客体験の進化をもたらすチャンスを逃さぬよう、リチャード・ブランソンほどの人でも、常にメモを持ち歩き、顧客や従業員からの話に傾聴し続けているそうです。そしてそのような志向性は、ホテル、鉄道、ジム…と展開する事業はどれも同じ原則であると。大変感銘を受けたポイントです。

その中でヴァージングループがやってきた広告を紹介するフェーズもあったのですが、どれもとても面白かったです。例えば、ブランソン氏自身が最も好きなクリエイティブキャンペーンのひとつだと振り返るのが、「The Super Bowl airship surprise」。

アメリカのスーパーボウルは、全米中、そして世界中からも注目を集め、最も広告バジェットが投下されるイベントと言えます。裏を返せば、それはCM枠が破格なほどに高額で、それに見合う効果を得なければならないと、とっておきのクリエイティブがそこでお披露目されるということでもあります。

ヴァージングループも、その「クリエイティブ競争」の土俵に乗ったのでしょうか?

いえ、彼らが仕掛けたのはルールそのものをすり抜けるという意味でのクリエイティブ施策でした。まず、ヴァージングループが所有する飛行船会社が、スーパーボウルの間にスタジアムの上から鳥瞰図を提供する契約を確保していたことに注目。もちろん、テレビチャンネルはヴァージンブランドを示すことを禁止していましたが、その飛行船に「NBC CAMERAMEN ARE THE SEXIEST MEN ALIVE」と書いたことで、カメラの乗組員は、その飛行船に何度もカメラを向けてしまったというわけです。

予算を一切使用せずに、Virgin Atlanticは、頻繁に世界最大のスポーツイベントでスクリーンに登場したのです。このユーモアは、観客やテレビの向こうの視聴者たちの笑みをも生み出しました。これぞクリエイティブなアイデアの力だと僕自身も感じます。

ときに挑発的で、メッセージ性も兼ね備えながら、でも笑ってしまうような大胆さに支えられるユーモアも伴っていること。それが、僕にとってブランソン氏、そして彼が率いるヴァージングループの躍動性そのものと重なって見えたのが印象的でした。

「広告が面白い企業は、面白いことを考えられる会社だ」–そんな風に思えて、広告業界で働くひとりとして、励まされるような読後感をもらえたのでした。

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