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『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(西山守著・濱窪大洋協力)—はじめに

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「宣伝会議のこの本、どんな本?」では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。

話題を生み出す「しくみ」のつくり方 
著:西山守
編集協力:濱窪大洋
定価:1980円(本体価格+税10%)
ISBN: 978-488335-508-2

20年近く勤めた東京の会社を辞め、沖縄に移住して3年半が過ぎました。新型コロナ禍になるまでは、東京には仕事やプライベートで頻繁に来ていたのですが、そのたびに沖縄とのギャップに驚かされていました。

沖縄では全く放映されていない企業、例えば、東京電力や東京ガスのCMが地上波やトレインチャンネルで大量に流されていたり、アクションカメラのプロモーションが行われていたり——実は、沖縄の人たちは意外にもアウトドアスポーツをあまりやらないのです——そのことに目を奪われます。

逆に、沖縄に戻ってみると、東京では見かけない広告や商品を至るところで見かけ、「ああ、これは全国どこでもあるものではないんだ」と改めて気づかされます。メディアについても同様で、沖縄では新聞は全国紙を見かけることはあまりなく、ビジネスパーソンでも日経を読んでいない人も沢山います(最近は都心部でも若者はあまり日経を読んでいないようですが)。

2つの地域を行ったり来たりしていると、自分がこれまで当たり前のように接している情報が、実は当たり前のものではなく、「別の人は自分とは全く別の世界を見ているんだ!」ということを改めて自覚させられます。

振り返ってみると、こうしたギャップは、住む地域の違いだけではなく、世代の違いや興味・関心の違いなど、様々な要素から生み出されるようになってきています。自分自身、様々なギャップを意識する機会も、最近急激に増えてきています。

例えば、近くに住んでいる友人の自宅にはテレビがなく、彼が得る情報はニュースからエンターテインメントまでネットだけで完結しています。また、私の中学生の甥っ子は暇さえあればスマートフォンで無料動画を見ていますが、彼が見ているのは、私が全く知らないユーチューバーの動画だったりします。

世代による違いはもちろん、同じ世代でも接触している情報が全く違う人がいて、彼らと共通の話題を見出すのも難しくなっています。いまや、同じ電車の同じ車両でスマホを見ていても、みんな違う情報に接している——という時代が来ているのです。

一方で、こうしたトレンドと一見逆行するような現象も見られています。例えば、上映当初は東京都内のミニシアター二館でしか上映されなかったインディーズ映画『カメラを止めるな』が空前のロングランヒットになったり、小中学生をメインターゲットとした、<NHK>2020応援ソングの『パプリカ』は、その下の幼児間でも歌い踊られたり、大人の間でも広く聴かれ、歌われたり——と、世代を超えて幅広く話題になり、大ヒットに至りました。

2020年7月に新シリーズが放映されたテレビドラマ『半沢直樹』は、前シリーズ同様に、社会現象となるほどの大ヒットを記録しました。既存のテレビドラマのコアターゲットは女性でしたが、本作はビジネスパーソン層をコアターゲットとするドラマでした。にもかかわらず、初回から視聴率は20%を超え、最終回には32・7%という驚異的な数値をたたき出しています。また、ツイッタージャパンの発表によると、最終回には放送直前の20時半から22時までの90分で42万という膨大なツイートがあったそうです。

また、これまで「年寄りの娯楽」とされていた落語や講談、相撲観戦が、若い女性の間でブームになったり——と、既存のものがこれまで想定していなかった層でヒットするという現象も起こっています。

人々の接触する情報や、消費行動が細分化されている一方で、意外なところから大ヒットが生まれるという、一見矛盾するような現象が同時に起こっているのです。

どうして、このようなことが起こるのでしょうか?

情報の多様化、細分化、パーソナル化が急速に進む一方で、SNS上で情報が拡散したり、多種多様なメディアで取り上げられたりすることで話題化し、それによってブームが生まれる——という循環構造が、大きな要因としてあるように思えます。

一見、こうしたケースは偶然に起きているようにも見えます。

たまたま買った宝くじが当選したのと同じように、「運が良かった」と解釈せざるを得ないように思える事例もたくさんあります。しかしながら、こうした偶然に思えるヒット事例においても、データをていねいに読み解いていくと、一定の「構造」が見られることが分かってきました。偶然に起きたように見えるブームも、その裏側では決して偶然とは言えないメカニズムが働いているのです。

逆に言えば、データを読み解き、「構造」を理解し、それに基づいて企画を立てることができれば、運や才能に頼らずとも、話題化させ、成功に導くような企画を立てることが可能になると言っていいでしょう。

本書では、いまの時代ならではの「話題化の構造」と、それに基づいたデータ活用型のプランニング術を紹介したいと思います。といっても、論じるのはSNSマーケティングの話題に限定されません。議論は(デジタルに限らない)広告やキャンペーン、戦略PR、ひいては商品やサービス開発など、言ってみればマーケティング全般に及びます。

本書が広告・マーケティング担当者をはじめ、現代のすべてのビジネスパーソンにとって、成功する企画・戦略を構築するための武器となれば幸いです。

目次

はじめに
 

Part1 いま、いかなる変化が起きているのか?
1・1 トレンド変化と新たな「話題の構造」
1・2 生活者の変化とマーケティングの進化
1・3 なぜ、「 What」、「Who」、「How」が 重要 なのか?
 

Part2 「話題の構造」を活用して、話題を起こすための方法論
2・1 ヒットした映画を読み解けば、「話題の構造」が見えてくる
2・2 話題になる商品、キャンペーンはどこが違うのか?
2・3 どうやれば予想を超えて話題を広げることができるのか?
 

Part3 話題を生み出すための新しい方法論
3・1 「普通の人」 でもできる表現開発(Whatの要素)
3・2 「誰が語るのが最も効果的か?」を考える(Whoの要素)
3・3 「情報流通構造」を設計する(Howの要素)
 

Part4 新しい時代のコミュニケーションプランニング
~アフターコロナ時代にプランナーは何をすべきか~
4・1 アフターコロナ 時代のトレンド
4・2 「聞き」、「語る」コミュニケーションを
4・3 リスクを減らしてリターンを最大化させる
4・4 ポジティブな話題をつくり、「信用」を形成する
4・5 人々の「キモチ」を捉えて、継続的に話題をつくり出す
4・6 「話題のきっかけ」を創り出す
4・7 「話題」をマーケティング戦略の立案に活用する
4・8 「短期」と「長期」の合わせ技
 

おわりに

著者

西山守(にしやま・まもる) 
マーケティングコンサルタント/桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授

1998年3月、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了(物理学専攻)、同年4月電通総研入社。2016年12月電通を退社、2017年5月西山コミュニケーション研究所代表。2021年4月に桜美林大学 ビジネスマネジメント学群 准教授就任(主に、広告・マーケティングを教える)。
 
電通総研においては、主に、情報メディア関連、地域開発関連のリサーチ、コンサルティング業務に従事。電通では、主にマーケティングメソッド、ツールの開発やソーシャルメディアマーケティング、特にソーシャルリスニングの業務に従事。ソーシャルメディア、戦略PR等を活用した、リスクマネジメント、レピュテーションマネジメントに多数の実績あり。トヨタ自動車、キリンビバレッジ、花王、キヤノン等の大手企業のソーシャルリスニング、およびマーケティング支援業務、官公庁や大手メディア等のリスクモニタリング、リスクコンサルティング実績もあり。
 
独立後は、電通グループを中心に、ソーシャルリスニングやSNSマーケティングをはじめとするコンサルティング業務や人材育成を行う。
 
これまでの著書(共著含む)に、『情報メディア白書』(ダイヤモンド社)の企画・編集・執筆、『クロスイッチ -電通式クロスメディアコミュニケーションのつくりかた-』(ダイヤモンド社)の企画・執筆、『リッスンファースト! 』(翔泳社)の翻訳出版を監修、『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(フィギュール彩)の執筆(共著)。

 

編集協力

濱窪大洋(はまくぼ・たいよう) 
電通カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター CXソリューション推進部長

1999年早稲田大学卒業後、電通に入社。クリエーティブ局にてコピーライター・CMプランナーとして大手飲料メーカーや光学機器メーカーのブランドコミュニケーション開発を担当した後、2010年よりWEBインテグレーション領域へ。大手企業のオウンドメディア構築、デジタルキャンペーン設計、ソーシャルメディアのコンサルティングに従事。当時日本では黎明期だったFacebookの企業ページ活用やSNS活用、コンテンツマーケティングなどを推進。2012年~2014年まで電通と外資デジタルエージェンシーのジョイントベンチャーに参画。
 
電通に帰任後は、GMとしてデュアルファネル®でクライアント企業の課題を解決するためのソリューションを開発とPeople Driven Marketing®の推進を経て、2021年より現職。
 
受賞歴に、PRアワードグランプリ マーケティング部門最優秀賞(2015年)。