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コラム

燃えない、スベらない。パーパス・ブランディングの極意とは

意味のあるブランドパーパスは、どう発見するのか?~2つのインサイトがその鍵を握る~

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「ひずみ」と「きざし」を洞察する

では具体的にどう考えるのか?その基本となるものは、ブランドの外部にある2つの対象への洞察です。

ひとつは、世の中・時代への洞察。つまり「ソーシャルインサイト」。もうひとつは、消費者への洞察。つまり「消費者インサイト」です。

このいずれか、あるいは両方とブランドとが重なりあう場所を探れば、ブランドの果たすべき役割がおのずと見えてきます。

ではまずは、ソーシャルインサイトから。これは「今の世の中ってこうだよな」という見立てや、大きな社会的な文脈、時代の流れを見つめることによって発見できるインサイトです。特にカギとなるのは、世の中や時代の流れに感じるちょっとした問題意識や違和感といった「ひずみ」。そしてその逆の、まだ小さいけれど新しいポジティブな変化を予感させるような「きざし」です。

「世の中の大きな流れはそうだけど、それでいいんだっけ?」「これがずっと常識だったけど、それって実はおかしくない?」「このままじゃ、なんだか世の中、立ち行かなそうだよね」という目に見える「ひずみ」やその兆候。

それこそ、「プラスチック問題」「大量廃棄」「二酸化炭素排出」などSDGsの環境系テーマにあるような地球規模のひずみから、「分断」「格差」「高齢化」や「ジェンダー問題」「共働き夫婦問題」「家族問題」「働き方問題」など社会的テーマに関わるもの、さらには「同調圧力」「暗黙のルール」「”正義”」などに対するちょっとした違和感まで、様々なレベルで存在します。

そしてその対位にあるポジティブな「きざし」。これは、「あ、何か今までとは変わりつつあるな」「停滞していたものが動き出しつつあるな」「何か、別の流れが来ているな」という、新しい萌芽の予感です。

例えば、オリンピックの女子スケートボードの選手たち。ライバルの技の成功を共に喜び、ライバルの失敗を共に悔しがる新しい関係。もしかするとこれは、「自分が成功することが、一番うれしい」というこれまでの競争社会的な価値観から、「みんなで成功することが、一番うれしい」という新しい価値観へとシフトしている、というポジティブなきざしかもしれない(あくまでも、「もしかすると」ですよ)。

ネガティブなひずみや違和感。まだ小さいけれどポジティブな、きざし。同じ事象の中に、ひずみときざしの両方が見えているようなテーマもあります。ジェンダー問題などは、そうかもしれません。

ブランドの本業や、ブランドの便益を通して、そのひずみを正せないか?あるいは、そのポジティブなきざしを、もっと大きなうねりにできないか?そう考えた時、自ずとブランドが世の中に果たすべき役割が、見えてくるのではないでしょうか。

例えばシャネル。ココ・シャネルは、ずっと女性の衣服の主流だった窮屈なコルセットのドレスに、身体的な束縛だけでなく、おそらく精神的な束縛という違和感をも見出し他のではないか。そして、「女性を自由にする」ために、動きやすいジャージー素材のジャケットやブラックドレス、パンツスーツ、両手を自由にするハンドバックを生み出しました。それは多くの女性にただ支持されるだけでなく、当時の女性の、より自由な生き方や社会進出の象徴にもなっていきました。

例えばニューヨーク・タイムズ。フェイクニュースの蔓延と、それを鵜呑みにする人々が溢れる現代に、ジャーナリズムのあるべき意味を問い、「徹底的に調べあげた真実を伝える本物のニュースの価値」に自らの存在意義を見出しました。それは”Truth is worth it”という素晴らしいキャンペーンに表現されているだけではないと思います。おそらく「真実に基づいたニュースが、フェイクニュースに負けてはいけない」という使命感が、大胆なDX*を成功させた要因にもなっているのではないでしょうか。

Truth is worth itキャンペーン。

さて、2つ目の「消費者インサイト」。これは既に、諸先輩方によるすばらしい書籍や記事が世に数多く存在しているため、ここで多くを語るつもりはありません。ただ、もしブランドパーパスという文脈で消費者インサイトについて語るとするなら、ひとつだけ触れておきたいポイントがあります。

次ページ 「半径3メートルで起こっていることは、日本中で起こっている。」へ続く