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【はじめに全文公開】「あなたが受けた〝伝説の授業〞はなんですか?」~ 『好奇心とクリエイティビティを引き出す 伝説の授業採集』(倉成英俊著)

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「宣伝会議のこの本、どんな本?」では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。
今回は、「アドタイ」の人気連載コラム、倉成英俊著『好奇心とクリエイティビティを引き出す 伝説の授業採集』をまとめ、加筆した書籍の「はじめに」をご紹介します。

『好奇心とクリエイティビティを引き出す 伝説の授業採集』(倉成英俊著)
定価:2,090円(本体価格+税)

 

ホームルーム的まえがき 〜「なぜ、自分もみんなも、こういう面白い問題が好きなんだろう?」

本を読み始めていきなり恐縮だが、まずは皆さんに自己紹介をお願いしたい。
普通にやってはつまらないので、ぜひともこういうルールで。

Q. 自己紹介してください。ただし10文字以内で。

 
解答はこの原稿用紙に。使う文字は漢字もアリ。10文字の中には自分の名前を入れても入れなくてもOK。制限時間は、1分。

紙上での出会いなので教えてもらえないのが残念だが、どんな感じの自己紹介ができただろうか(もしいつか出会えた時は10文字でぜひ自己紹介してください!)。

これは、僕が展開する、答えのない問題を出す「変な宿題」プロジェクトの定番、「10文字自己紹介」。授業や講演の冒頭でウォーミングアップ的に、いままでかれこれ2万人くらいの方々に取り組んでもらってきた。

考えた後でみんなに発表してもらうと、今日はどんな人たちが来ているか、お互い知ることができるし、この10文字はその後、SNSのプロフィールや面接などでも使えるからとても便利。なのだが、本当の狙いはそれとは違ったところにある。

このたった10文字&1分で、「広告の仕事の擬似体験」ができるのだ。

伝えたいことを、予算、制作期間、その他いろんな制約(社長の奥さんがどうしてもこのタレントじゃなきゃ嫌だと言っているとかも含めて)の中で伝えるのが広告。

いま皆さんにしてもらった自己紹介も、自分のことを、10文字以内で、1分で考えて、その場にいる人に伝える、という「制約の中で伝える」という意味で、同じ経験になる。

どんな解答がいままで出てきたかというと……正解はないから「〇〇市の教育長です」なんていう答えでもいいのだけれど、「4年前おでん屋でした」(by学校の先生)や、「1年2万4千キロ」(byバイクのツーリングが趣味の市の職員)、「えっと、あの……その……」(by 人見知りであることを表現した大学生)の方が、同じ制約の中でより豊かに多くのことを表現して、人々の関心を惹きつけることは言うまでもない。

僕の10文字は何かって?「変な宿題考案者」で、アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所という「教育の研究所の所長」で、「長年勤めた電通を辞め」て、会社「設立2年目の新米社長」で、すぐプロジェクトをつくりたがる「プロジェクトメイキング症候群」(10文字超えちゃったけど)と、いろんな答えがあるけれど、今回はこうしておこうと思う。

「伝説の授業ハンター」、と。

話は、2010年の夏にさかのぼる。僕の故郷の佐賀県より、佐賀空港10周年イベントでの講演を依頼された。

空港でのトークらしく、タイトルは「アイデアはどこへ飛んでもいい」。幅広く面白いことを企画していく、そんなことを話してもらえれば、ということだったが、普通に始めてもつまらない。せっかくだから冒頭で、参加者の皆さんに抜き打ちテストに答えてもらうことにした。

出したのは、クリエイティブテストと呼ばれる、答えのない問題。

その問題自体は、これから紹介する中に含まれているのでここでは明かさず進めるが(1時間目のパートに登場する3問です)、これが……超が付くくらい盛り上がった。子どもが手を挙げて名解答を披露すれば会場は拍手に包まれ、それにつられておじいさんも手を挙げる。おかげでツカミはOK。

「これはコピーライターやCMプランナーになるために、社内で出される選抜試験で、こういう問題をいい感じで解いた人が、クリエーティブ局と言われる広告を企画立案する部署へ配属されるんですよー」と言って講演パートへとなだれ込み、僕が作った広告を紹介したのだが、話しつつ、頭にずっと浮かび続けていたのが、この冒頭のサブタイトルにしたセリフだった。

「なぜ、自分もみんなも、こういう面白い問題が好きなんだろう?」

1つの決まった正解を問うステレオタイプな学校の試験とは違う、好奇心をくすぐられ、想像力を掻き立てられる問題。これを改編し、その後、学校現場や企業研修でも使える「変な宿題」というプロジェクトを立ち上げることになるのだが、この講演会から「変な宿題」を始めるまでに、実はかなり時間が空いている。その間何をしていたかというと、自分の頭に浮かんだこの問いに自ら答えるべく、個人的なリサーチを行っていた。これはいいな、面白いな、クリエイティブだな、と思う自分の「ストライクゾーン」に入る授業や課題や宿題を収集するリサーチ。これを集めれば、きっと、何かが分かるのではないかと。

リサーチ集にはタイトルをつけていた。その名は「伝説の授業採集」。

集中して取り組んだ期間は、1〜2年。そして、プロジェクトを進めながらもリサーチを続けたから、かれこれ10年近く、メモには事例が溜まり続けている。

その採集の範囲は広い。日本は東京から地方まで全国津々浦々。海外はアメリカ、カナダ、ヨーロッパからアフリカも。学校の授業はもちろん、企業研修から家庭の教育まで入っている。現代のも、過去のものもある。

人に会うたびに「あなたが受けた〝伝説の授業〞はなんですか?」と聞きまくって集めたものもあれば、実際に足を運んだところも多々ある。日本人が好きな、スタンフォード大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)、イタリアはレッジョ・エミリアにも行ったし、最近流行のミネルバ大学に向けては逆に授業もした。

有名無名も無関係。本質的なものは本質的だし、面白いものは面白い。場合によっては、海外の有名大学よりアフリカのベナンの学校や江戸時代の地元の藩校の教育の方がクリエイティブだ。むしろみんなが知らないものの方が、新しく活用できて価値が高い。大勢が海外のものや有名なものになびいて均質化しちゃっているのがいまの日本だから。

教育の講演会などでは、この授業コレクションの触りだけをいつも話していた。そして2020年春、宣伝会議のオフィスにて、編集者の刀田さんに、僕のプロジェクトについていろいろ説明する機会があった。その時も少しだけ触れたのだが、そのスライド1枚を彼女は見逃さなかった。「伝説の授業採集」のスライドを。というわけで、宣伝会議のWebメディア「アドバタイムズ」で連載が始まり、それをまとめてこの本が出来上がった。

凝り固まったこの現代の空気が変わるように。次世代を育むインスピレーションになるように。人々がより面白おかしく生きていくきっかけになるように。素晴らしい問題や授業を考えた先人たちに、最大限の敬意を表しながら、「伝説の授業」をここにシェアしていく。

では、紙とペンのご用意を。受けると人生が変わってしまうかもしれませんが、覚悟は良いですか。Are you ready?
 

※詳細・購入はこちら
 

倉成 英俊

1975年佐賀県生まれ。小学校の時の将来の夢は「発明家」。東京大学機械工学科卒、同大学院中退。2000年電通入社。クリエーティブ局に配属、多数の広告を企画制作。その最中に、プロダクトを自主制作し多数発表。2007年バルセロナのプロダクトデザイナーMarti Guxieのスタジオに勤務。帰国後、広告のスキルを超拡大応用し、各社新規事業部の新プロジェクト創出支援や、APEC JAPAN 2010や東京モーターショー2011、IMF/ 世界銀行総会2012日本開催の総合プロデュース、佐賀県有田焼創業400年事業など、さまざまなジャンルのプロジェクトをリードする。2014年より、電通社員でありながら個人活動(B面)を持つ社員56人と「電通Bチーム」を組織、社会を変えるこれまでと違うオルタナティブな方法やプロジェクトを社会に提供。2015年には、答えのないクリエーティブな教育プログラムを提供する「電通アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」をスタート。2020年7月1日Creative Project Baseを起業。Marti Guxieにより日本人初のex-designerに認定。