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コラム

なぜ教科書通りのプランニングはうまくいかないのか

第4回 「カスタマージャーニー」ご使用上の注意(前編)

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前回はファネルについてお話ししました。今回はカスタマージャーニーを使用する際のポイントです。カスタマージャーニーは、購入への道筋という意味ではファネルと似ているところもあります。設計のポイントと、実際にプランニングで使われる際に抜けてしまいがちなことは何か。では、始めましょう。

画像 イメージ カスタマージャーニー ご使用上の注意

 

カスタマージャーニーとパーセプションフロー®・モデルはどう違う?

受講生からの質問:
最近パーセプションフロー®・モデルという言葉をよく耳にしますが、カスタマージャーニーとの違いがよくわかりません。カスタマージャーニーは接点、つまりテレビCMや屋外広告などを結んで、そこでの気持ちの変化も併せて追っていきますよね。パーセプションフロー®・モデルは気持ちの変化を描きながら、どの接点でという部分も追っていきます。結局、同じことなのではないですか?

カスタマージャーニー(以下「ジャーニー」)とパーセプションフロー®・モデルがどう違うのかを考えるのは、非常に重要です。似ているものとの違いを見つけることによって、それぞれをより深く理解できるからです。

カスタマージャーニー      : カテゴリーごとに異なる
パーセプションフロー®・モデル : ブランドごとに異なる

ここが最大の違いです。「自動車」「便秘薬」「スマホ」など、カテゴリーで1つというのがジャーニーです。それに対してパーセプションフロー®はブランドごとに描く必要があります。同じカテゴリーでも、例えばスマホならiPhoneに対する人々の気持ちと、AQUOSやXperiaに対する人々の気持ちは違います。気持ちが違えば、パーセプションフロー®も別なものを描かざるを得なくなります。

 

画像 イメージ 購入に至るまでに生活者が触れる接点の軌跡を描くカスタマージャーニー

画像 イメージ 生活者の心理状態を現在の状態から理想の状態へ導くカスタマージャーニー

ジャーニーがカテゴリーごとに同じというのは言い換えれば、カテゴリーが変われば別なジャーニーになるということです。なぜなら、そのカテゴリーにしかない特有の「商品と生活者の接点」があるからです。

 

カテゴリー特有の接点とは

どのカテゴリーにおいても出てくる接点として、テレビCMや知人・友人の口コミなどがあります。こうしたもの以外のカテゴリー特有の接点は、そのカテゴリーの購買行動に強い影響を与える場合が多いので、自ブランドが所属するカテゴリーにしか存在しない接点が何かを考えることは、非常に重要です。

車であれば、「街で走っている車」「駐車場に停めてある車」「実家で乗っていた車」「カーシェア・レンタカー」「モーターショーなど展示場」「ディーラー」などが、特有の接点になります。特にディーラーでの試乗というのは契約に結びつきやすく、コミュニケーションのKPIに設定されているケースもあります。

便秘薬であれば、お医者さんに酸化マグネシウムが成分に入った薬を薦められ、それをドラッグストアで探して購入するという購買行動があります。医薬品は薬機法などの兼ね合いもあり企業側が実施できる施策に制限がかかることが多いのですが、ジャーニーをつくる際は企業側がセットできるものかどうかは考慮せず、購入への道筋となるのであればそれも接点として捉えていくということになります。

日本楽器(現ヤマハ)は戦後に成長を遂げましたが、GHQの教育改革方針を追い風に各学校にひととおりオルガンとピアノが普及しきった昭和30年頃で、いったん需要が頭打ちになります。そこで日本楽器が手掛けたのが「ヤマハ音楽教室」です。ピアノ先進国であったドイツやアメリカにもなかったこのモデルは大きく成功し、それまで学校だけだった市場が一般家庭にまで大きく広がりました。近くの家から小さく漏れ聞こえてくるピアノの音が人々の憧れを誘う接点となり、家にピアノを置いて子どもに習わせたい、ピアノは音楽教室で使っているヤマハにしようと考える家庭が増えました。

テレビCMや口コミももちろん重要な接点ですが、こうしたカテゴリー特有の接点をいかに正確に捉えて大きくしていけるのか、とりわけ注意を払う必要があります。

 

ジャーニーが向かないカテゴリーも存在する

この連載の第2回でファネルが向かないカテゴリーについてお話ししましたが、ジャーニーにもそれは存在します。最初の認知から購入に至るまでにどのくらいの接点を踏んでいくかというのを平均ステップ数といい、化粧品などは「使用している知人との会話」「口コミサイト」「試供品」「販売員との会話」など多くの情報に触れてから購入しますので、平均ステップ数は3.5~5.0と多めになります。それに対し、ペットボトル飲料は「自動販売機」で初めて見て購入といった行動がありますので、平均ステップ数は2.0以下です。

平均ステップ数が少ないカテゴリーは、ジャーニーに向きません。目安としてはマーケター自身が生活者として、購入の際に検索行動をしないカテゴリーは向かないと言っていいと思います。AISASなどの購買行動モデルで検索は盛んに強調されているので忘れられがちですが、検索せずに購入するカテゴリーはたくさんあります。

 

ジャーニーを描くときに忘れてしまいがちなこと

平均ステップ数が多いカテゴリーで、そのカテゴリー特有の接点も考慮して描いていく。それがジャーニーを考える際のポイントですが、もう一つ付け加えるなら私は、「買ったあとが描かれるジャーニーが少ない」というところを問題に感じています。

前回までお話ししていたファネルでは、購入のあとのリピート、クロスセル・アップセル、ロイヤル化が近年追加されています(購入より上が心理指標であるのに対し、下は実際の行動指標なので現実的には計測が難しく、「カルテのファネル」に下の部分が使用しにくいという問題点はあります)。

画像 イメージ カスタマージャーニーを描くときに忘れてしまいがちなこと

 

ところが、ジャーニーでは購入後のことを描いたものがきわめて少ないのが現状です。本来であれば、購入のあとのことはファネルよりもむしろジャーニーで捉えていかなければならないテーマだと思います。なぜなら、トライアル購入するときの気持ちとロイヤル化していくときの気持ちは違うことが多いからです。

リピートするかどうかに関しては、その商品に対する満足度ももちろん重要です。一方で、「使っていていいのだ」という自信を持てるかということも非常に重要なのです。売上好調を謳う広告もその一例ですし、そのブランドが好きなコアファンの声が見えるようになっている、というのが購入経験者にとっての勇気づけにつながります。

その商品を自分が使っていることを、周りの人に自信を持って言える状態を作ることができるといいのです。例えば、ノベルティグッズにはそういった効用があります。誰かと一緒にいるときに、突然なんの脈絡もない話はしづらいものです。軽自動車のN-BOXが「Nのある暮らし」と銘打って、ロゴ入りのマグカップなどの生活雑貨を出していますが、目に触れるものがあると、それをきっかけに話題にしやすくなったりします。購入後のロイヤル化につなげるために、身近な場所に目に入りやすい話題化のトリガーとなるものを置くことで、他人に話をしながら自分自身の納得を深めるような体験を提供していくことは、価値があると考えています。

今回は、ジャーニーを設計するうえでカテゴリー特有の接点を考えることと、あまり描かれることのない購入後のジャーニーについてお話ししました。次回は、ジャーニーを計画していくときに、つい間違えてしまいがちなことをお話しします。

(次回は7月6日公開予定です)

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パーセプションフロー®・モデルについてはこちらをご覧ください
『The Art of Marketing マーケティングの技法―パーセプションフロー・モデル全解説』(音部大輔著)