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コラム

なぜ教科書通りのプランニングはうまくいかないのか

第13回 「ターゲット設定」ご使用上の注意(後編)

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前回はターゲット設定(前編)として、マーケターがつい陥ってしまいがちな罠の1つ「不必要に狭くする」についてお話ししました。今回はもう1つの罠について触れていきます。では、始めましょう。

 

ターゲット設定の罠②「不必要に若くする」

ついマーケターが陥ってしまいがちな罠の2つめは、「不必要に若くする」ということです。買ってくれているボリューム層は50代以上でも広告ターゲットは30~40代というように、ターゲットを実購買層より若く設定しているクライアントは非常に多いです。「10年後・20年後のファンを育成していかなければならないから」という理由がよく挙げられます。


ランキング 『日経トレンディ』歴代ヒット商品
(『日経トレンディ』より筆者作成)

上の図は『日経トレンディ』が発表している毎年のヒット商品です。2011年の1位が「スマートフォン」。2012年の2位は「LINE」。その年のヒット商品になったということは、その前年まではそれを使っている人があまりいなかったと読みとれます。スマホやLINEのない生活を想像するのはもう難しいですが、それらはずっと前からあったわけではなく、たった10年くらいの歴史しかないことに注意を払う必要があります。

今から10年前、「缶コーヒー」は非常に多くの広告を打つカテゴリーで、年間トータル10万GRP以上のテレビCMを投下していました。それが現在は「缶」と「ペットボトル」を合わせても半分以下になっています。10年間で、エナジードリンクの流行、セブンカフェやマックカフェなど、多くの変化が市場で起こりました。サントリー、コカ・コーラ、キリンなどそれまでの「缶コーヒー」カテゴリーでシェアを争ってきたわけではないプレーヤーが参入し、10年経ったときには市場の様子がまったく様変わりしている。そのようなことが自ブランドの属するカテゴリーでこれから起こる可能性は充分にあると見るべきで、マーケターの能力云々の問題ではなく、どうやっても見通せないことはあるはずと考えた方がいいと思います。


写真 望遠鏡

 

人口は嘘をつかない

10年後のファンを育成するのがカテゴリー自体の変動可能性を鑑みて現実的ではない以上、もっと短い時間軸を捉えていくことになります。その時に、もっと重視しなければならないと考えられるのが人口の分布です。モノを買うのはヒトです。人口がどのように分布しているのかというのは、どのようにモノが売れるのかを考える上で、きわめて重要です。

2020年に行われた国勢調査で日本人人口が1歳刻みで最も多かったのは、72歳でした。1973年の第2次ベビーブーム最盛期の出生数は209万人ですが、1949年の第1次ベビーブーム最盛期の出生数は、実に270万人です。亡くなられた方も多いですが、現在でも最も人口が多いのは第1次の世代なのです。終戦までの数年間は出生率が低かったため少し前まで70代の人口は少なく、定量調査の対象者も「69歳まで」が多かったのですが、現在はむしろ60代より70代の人口の方が多い状況です。


データ 人口分布図(1993年の日本と2023年の日本、2023年のインドネシアの比較)
© 2023 by PopulationPyramid.netより筆者作成 Creative Commons license CC BY 3.0 IGO:

70代を市場として重視しない発想は、以前の日本や、現代であればインドネシアのような人口ピラミッドであればそれほど問題はないでしょう。しかし現代の日本の状況をフラットに見れば、70代に目を向けるのは自然な発想だと思います。PwCの予測でインドネシアは2050年までにGDPで日本を抜くと言われていますが、これにも人口とその分布が大きく影響しています。今の日本におけるマーケティングを考えていくうえで、人口は嘘をつかないということは改めて捉え直してみる必要があるように思います。

 

シニアという誤謬

画像素材のサイトで「70代」と検索すると、杖を持っていたり介護を受けていたりする人の画像が多く出てくるのですが、本当にこれが今のリアルな70代なのかという疑問を持つことがあります。もっと若々しくて、現役としてしっかり活動されている人が実際には多いのではないか。「シニア」という言葉自体にも、ニュアンスとして誤解しやすい要素が含まれているように感じます。

イメージ 老人注意の看板

 

2023年4月に、囲碁棋士の杉内寿子八段が公式戦で女性最年長勝利を挙げたことがニュースになりました。その記録は、96歳1か月です。全棋士の最年長勝利記録は夫の故・杉内雅男九段が持つ96歳10カ月。こういった話を聞くと、70代をターゲットから外す意味がわからなくなってきます。

また、少子高齢化についてはよく議論されますが、晩婚化・晩産化にも注目していく必要があります(「晩」という言葉が合っているかは疑問に思うところですが)。親と子供の年齢差が広がると、学費の面で、親が何歳まで働くかという年齢が上がっていきます。今の60代はかつての60代ではないし、70代もしかり。自民党の青年局の「青年」とは45歳以下を指すそうですが、年齢を表すさまざまな言葉を見直していく時期に来ているのかもしれません。

 

上の世代を狙うことにチャンスがある理由

  • 受講生からの質問:
  • ターゲットを不必要に若くせず、人口の分布にも着目して上の世代にも視野を広げていくべきという話でしたが、具体的に上の世代を狙っていくときに気をつけておいた方がよいことはありますか?

上の世代をターゲットにするというとBS放送で見る健康食品の通販CMのようなものをついイメージしてしまいますが、あからさまに「あなたはシニアですよね」という見え方になるものは忌避されやすく、よくありません。まっすぐその世代を狙うというよりは、別な客層としてその世代を意識する。自分たちが買って使っても若ぶっているように見えない、恥ずかしくないと思ってもらうことが大事です。

上の世代を狙うことにチャンスがある理由は、3つあると思います。1つめは、ブランドスイッチをあまりしないためリピーターになる可能性が高いこと。2つめは、健康が最もわかりやすい例ですが、美容でも、ゴルフなどの趣味でも、若いころとは違っていろいろと問題が出てくることは多いので、商品の機能訴求は若い世代に比べて届きやすくなること。3つめは、これが最も大事なのですが、競合他社が見落としがちなターゲットであるということです。3つめだけでも、検討するには十分な理由になるのではないでしょうか。

今回は、ターゲット設定においてつい陥ってしまいがちな罠の2つめ、「不必要に若くする」についてお話ししました。次回のテーマは、「ターゲットインサイト」です。

(次回は8月7日公開予定です)

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